あらすじ
児童養護施設で暮らす花は、夏を迎えて18歳になった。翌春には施設を出るきまりだが、将来への夢や希望が何ひとつない。花が8歳のとき、母親が無差別殺人の罪で逮捕・勾留されて以来、彼女の心には何物も入り込む余地がなくなっていたのだった。ある日、ボロボロのぬいぐるみを抱えた女の子・晴海が施設にやってくる。必死になってぬいぐるみを抱きしめている晴美の姿に、花はかつての自分を重ね合わせていた……。
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Posted by ブクログ
児童養護施設で暮らす花は、夏を迎えて18歳になった。翌春には施設を出るきまりだが、将来のことや遠く離れた母親のことで葛藤を抱えている。
――― (引用) ―――
家族とは、そんなに素晴らしいものだろうか。いつか読んだ本に、家族とは「自分から決して逃げない人」のことだと書いてあった。一度逃げられてしまった私たちは、この先その「家族」というものを、一体どう信じれば良いというのだろう。
――― (引用おわり) ―――
そんなある日、ぬいぐるみを抱えた女の子・晴海が施設にやってくる。複雑な事情を抱えながらも日々を懸命に歩む晴海の姿に、花はかつての自分を重ね合わせていることを知る。
――― (引用) ―――
「花、いい子でね」
いつになったら、私はあなたのいい子になれますか。いい子になれば、あなたはその手で私を撫で、優しく抱きとめてくれますか。
「いい子にしても、帰れないじゃん」
わかっている。晴海の言った通り、どんなにいい子になったって、帰れる場所もなければ迎えてくれる人もいない。あの人の言う「いい子」とは、解き方のない呪いなのだ。
そうとわかっていながらも、私はかつての世界の全てを手放すことができなかった。手放したくても、できなかった。あの人のいい子をやめてしまえば、私は誰の何になればよいのかわからない。あの人のいい子であること以外に、私は私自身を見出すことができなかった。その虚しさを自覚しながらも、もはやどうすることもできない。
私は心の奥底で、名もない金魚の奇跡を信じていた。信じなければ、今にも自分もろとも海の底へ引きずり込まれてしまいそうで怖かった。
「ママ、」
私は思わずあの人を呼んだ。
「ママ、」
届かぬ声が虚しく波音にかき消され、それでも私は呼び続けた。
「ママ!」
ずっと呼びたかったあの人の名を、ずっと呼んで欲しかった私の名を、今日、ここですべて流してしまおう。この世界の丸さに乗って、いつか優しさとなって返ってくる日を信じて待とう。私はその日まで、どんな荒波が押し寄せても、恐ろしい強風が吹いても、「おかえり」と言えるようにこの世界で生きていよう。
私たちに起きた事実は変えられないけれど、真実は自分次第だと、いつかタカ兄が言っていた。事実をどう受け取るか、それを抱えてどう生きるか、答えは出なくてもその道のりが自分なりの真実になると。
――― (引用おわり) ―――
Posted by ブクログ
女優・映画監督として活躍中の小川紗良氏の2021年6月公開の初の長編映画監督作品を、自ら小説化した作品。映像を文字にしているので、背景も丁寧に描こうとしている。児童養護施設で暮らす花は、18歳になった。翌春には施設を出るきまり。花の母の事件からある事件を想起してしまったし、一生懸命生きている知人を思い出した。花は名もない「金魚」をの奇跡を信じて、願いを込め「金魚」を海に流す。
「世界の丸さに乗って、いつか優しさとなって返ってくる日を信じて待とう。私はその日まで、どんな荒波が押し寄せても、恐ろしい強風が吹いても、「おかえり」と言えるようにこの世界で生きていよう。」
施設にくる子どもたちはいろんな事情を抱えている。周りの人は何ができるのかなと読みながら思った。
「ここにいるということそれ自体に頭を下げながら日々を送る。」理不尽な理由でそんな思いを抱えて生きる人が減りますように。
「日々を重ねるしかない。」
希望にも絶望にもとれる言葉。希望になるよう日々を重ねるしかない。希望になる日を重ねられるよう、周りの人が互いに励ましあうしかないのかな。児童養護施設を退所した子どもを支援する、社会的養護にはゆるやかに自立する仕組みが必要という記事を目にしたことがあったので、できることをしていきたいなと読後思った。