あらすじ
阪急(鉄道と百貨店)、宝塚歌劇団、東宝映画……。次々と新しい事業を生み出し成功させ、白洲次郎をして「こんなに頭のいい人は見たことがない」と言わしめた大正・昭和の傑物・小林一三。「無から有を生み出すのは家の芸だ」が口癖だった一三も、実は元は落ちこぼれサラリーマンだった。時に冷徹な面を見せる一方で地縁や学校のつながりを大事にし、自分の持っている感受性や文才を生かして、趣味であった芝居好きまで仕事につなげた。性格的な欠点をいくつも持ち、数々の失敗を繰り返しながらも、人生の途中で出会ったものをことごとく自分の血肉として“先を読む力”を養っていった。そうして多くの花を咲かせ続けた一三は、現代の経営者のみならず一介のサラリーマンにとっても参考となり目標となる企業家といえよう。東日本大震災からの真の復興に向かって進み続ける日本に希望を与えてくれる人物伝。
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鉄道や電力といったインフラから映画・歌劇と言う芸術まで、人々の生活と心に火を灯し続けた経営者の生涯を描いた作品。簡潔な言葉を用いながらも、当時の心情の描写が見事で読み応えがあった。
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阪急グループ創始者、小林一三の人生を辿り、人間の持つ夢と可能性に迫る一冊。
山梨県に酒屋兼質屋を営む韮崎商人の家に生まれる。しかし、幼くして母親を亡くし、婿養子だった父が家を出たため、二歳にして家督を継ぐ。
慶應義塾大学を卒業後、慶應閥が経営陣を占めていた三井銀行に入社し、大阪に勤務。仕事は順調だったが、後に妻になるコウという若い芸者に入れ込んでいたことや気の強さが災いし、社内ではあまり評判が良くなかった。
その後、三井銀行内の主導権争いなどの影響もあり、一三は新設される証券会社の経営者になるため退社する。しかし、設立直前に日露戦争後連日活況だった株式市場が暴落し、設立自体が白紙になってしまう。そこで紹介されたのが阪鶴鉄道の経営だった。この会社そのものは大阪-舞鶴間の運行開始後、国に買収されたが、会社を清算するだけでなく、新しく電車を走らせる箕面有馬鉄道を新設。
ライバルとなる官鉄線や阪神鉄道は繁華街を通っていたが、一三は人一倍豊かな想像力を活かし、住宅分譲や宝塚新温泉、歌劇団、百貨店などの沿線開発を並行して進めることで沿線人口を増やす計画を思い付き、箕有鉄道の経営に乗り出す。阪鶴社員の移籍をすべて断り、たった三人でのスタートだった。
「世の中に対する貸勘定」を増やすことを信条とした。
昭和二年、三井銀行時代の上司からの求められ、東京電燈の経営再建に取り組む。それだけでなく、需要がないなら作り出そうという路線を突き進め、日本軽金属、東宝、阪急ブレーブスを設立する。
大戦後、吉田首相より、国鉄総裁に推薦されるが、GHQの横やりが入ったため、下山定則運輸次官が兼務することになる。その下山は、1947年職員95000人のリストラを決定した直後、常磐線線路上で轢死体で発見される。一三が就任していればもっと厳しいリストラをしたに違いなく、妻のコウは「なんと運の良いことでしょう」と涙ぐんだ。
生糸で財をなし、第十国立銀行(山梨中央銀行)東京馬車鉄道(都電)、東京電燈(東電)といった公共事業を全て抑えた若尾一平、雨宮敬次郎(甲武鉄道)、根津嘉一郎(東武鉄道)など、山梨県出身の大物財界人は枚挙にいとまがない。
長野県小県郡出身の五島慶太は農商務省、鉄道院で官僚キャリアを積むが役人生活に嫌気し、武蔵鉄道の常務になる。荏原鉄道と沿線開発して、その利益で武蔵鉄道をつくるというアイデアを五島に教えたのは一三だった。五島は一三に取り立ててもらった恩を終生忘れず、一三の追悼式で小林イズムを踏襲したとの弔辞を読んだ。
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小林一三の浮き沈みの激しい波乱の人生を追体験できる良質なテキストです。私には政治方面の話が少し難しかったですが、宝塚歌劇団、東宝を立ち上げたのはもちろんのこと、コマ劇場を発案したのも彼だったと知り、驚きました。
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小林一三は、いわずと知れた、明治時代の、経営者、阪急電鉄の沿線を開発し、鉄道の需要をはかるという
私鉄のビジネスモデルを生み出した人です。本の内容は、皆様が、ご存知のとおりです。
私が、一番印象に残ったのは、小林家の家計図です。元テニスプレーヤーの松岡修造さんが、小林一三のひ孫であることは、有名な話ですが、なぜ姓が、松岡なのか。それは、小林一三が、次男 辰郎を松岡家に養子に出したから。今は、ビジネスがうまくいっているが、今後どうなるか、わからない、ということで、家系存続のため、養子に出したそうです。ちなみに、長女は、サントリーの創業者の長男のもとに、嫁にいっています。まるで、戦国時代の武将のような話です。いまどきの、ベンチャー企業の経営者も、このようなことを考えるのでしょうか。