あらすじ
2020年に逝去した作家・古井由吉が、明治、大正、昭和の「東京」を描いた徳田秋聲、正宗白鳥、葛西善蔵、宇野浩二、嘉村磯多、谷崎潤一郎、永井荷風らの私小説作品をひもとき、浮遊する現代人の出自をたどる傑作長篇エッセイ。長らく入手困難となっていた名作を文芸文庫で。解説・松浦寿輝。
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Posted by ブクログ
前半は、地方から上京してきて東京に住み、東京を舞台にした私小説を書いた著者とその作品が紹介される。
徳田秋声の「足迹」「黴」「新世帯」
正宗白鳥の「入江のほとり」「死者生者」
葛西善藏の「哀しき父」「贋物」「子をつれて」「酔狂者の独白」「浮浪」「湖畔手記」「蠢く者」「われと遊ぶ子」
宇野浩二の「苦の世界」「枯野の夢」
嘉村礒多の「生別離」「崖の下」「業苦」「来迎の姿」「途上」「牡丹雪」「秋立つまで」「神前結婚」
そして、東京に生まれ東京で育った作者自身の「とりいそぎ略歴」が挟み込まれ、戦災に遭ったこと、父の葬儀を出したことなどが語られる。
さらに戦災から戦後にかけての荷風の「罹災日録」「買出し」、谷崎の「瘋癲老人日記」が紹介される。
今ではほとんど失われてしまったであろう当時の「東京」だが、「場所」(トポス)と時間を往還する著者の文章に目の眩むような思いで一杯だった。