あらすじ
第34回講談社エッセイ賞受賞作家こだま
場所と記憶をめぐる、笑いと涙の紀行エッセイ
「俺はたった今刑務所から出てきたんだ」
私たちは「えっ」と発したまま固まった。刑務所と監獄博物館のある街特有の冗談だろうか。膝の上に載せた「かにめし」に手を付けられずにいた。(中略)
別れ際、おじさんが「これやるよ、餞別だ」と言って渡してきたものを広げてみた。それは首元や袖口の伸びきったスウェットの上下だった。
第34回講談社エッセイ賞受賞のエッセイストこだま、待望の新作は自身初となる紀行エッセイ。
どの場所でも期待を裏切らない出来事が起こり、そして見事に巻き込まれていくこだま。笑いあり、涙あり、そしてドラマチックな展開に驚く内容も。
網走、夕張、京都などにとどまらず、病院や引っ越し、移動中のタクシーなど「自分と縁のあった場所」について全20篇を収録。
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Posted by ブクログ
こだまさん、北海道の人だったんだ。
こうして著書にヒントになるようなことを書くのも、とても勇気がいったんじゃないかな。
お母さんに結構なひどいことを言われて育ったのに、どうしてこんなにまっすぐ家族を大切にできるんだろう。
子どもの頃のわだかまりを解いていくこと、簡単じゃない。こだまさんのすごさが改めてわかった。
この本だけ読んだら、とんでもない私小説を書いてる人とは思えない普通みたいなエッセイ、という気もしてなんだか面白い。
次は小説を書くかも、とのこと。楽しみだな。
Posted by ブクログ
こだまさんの作品と言えば、キレキレのギャグセンスの自虐というイメージだったけど、この作品は自虐減、人のあたたかみ&センチメンタル増という感じで、持病などいろいろ大変だけど、こだまさん今幸せなのかなあと勝手に嬉しく思った。
※かと言って自虐のキレがなくなったわけじゃない。男湯と女湯を間違えて「洗顔フォームで股間だけを隠す」エピソードとか最高。
願い事を書いて飛ばすと叶うという天燈に書かれた母の思いが泣ける「祈りを飛ばす人、回収する人」、
父がオートタイマーの「カメラが点滅しているあいだに戻ってくることができず、ひとりだけ輪郭のぼやけた「移動中の物体」としてフレームの隅に収ま」る「ただ穏やかなホノルルの夜」など、
家族の話を含むエッセイが特に良かった。
あとがきに、「父が重い病に罹っている」「いつもの場所も、いつもの人も、簡単に当たり前じゃなくなる」とあるが、こだまさんが家族と幸福な日々を送って、面白いエッセイをたくさん残してくれることを強く願う。
Posted by ブクログ
こだまさん、初読みです。「縁もゆかりもあったのだ」、2021.4発行。著者の生い立ちや考え方、暮らし方などがストレートに書かれたエッセイです。読みやすくて好感を覚える作品でした。北海道の生まれ・育ち、20歳の頃(大学生)結婚。夫はパニック障害(精神疾患)、本人は自己免疫の持病で不妊、子供は望まずこのままでいいと。結婚して20数年、一匹の猫とほとんど一緒に。その猫が18歳と9ヶ月で死んだ。辛かったことでしょう。デビューは私小説「夫のちんぽが入らない」でしたが、紹介欄にはエッセイストとあります。
Posted by ブクログ
猫を乗せて
凍える夜の鍋焼きうどん
が一番好きでした
枕のそばに栄養士さんの握った小さなおにぎりと胡瓜の漬け物が置かれた。「地蔵のお供えじゃねえか」夫は笑いを嚙み殺しながら、身動きできない私に言った。
私は学年で三位になり、メダルを首から提げて意気揚々と帰宅した。当然「よくやった」と両親に褒められるものだと思っていたけれど、ふたりの口から出たのは「一位は誰だったの」だった。
老人は「さっき犬を焼いたばかりだから中が温まってる。普段より早く焼き上がるよ」と陶芸教室の先生のように言った。
今回も面白ワードがたくさんあって楽しめました