あらすじ
新型コロナウイルス禍がもたらす経済停滞、主要IT企業による世界支配、米中を軸にした新冷戦、一強状態の政治……新不確実性の時代の今こそガルブレイスの「異端の経済学」を! 1970年代、アメリカの経済学者、ジョン・ケネス・ガルブレイス(1908~2006年)が書いた『不確実性の時代』は世界的なベストセラーとなった。とりわけ日本で大きな人気を博したこの本は、恐慌、冷戦、大企業・多国籍企業による支配、貧困問題などを根拠に当時を「不確実性の時代」として定義した。数十年が経った今も、これらの問題には解決策が見出されず、深刻さを増すばかりである。『不確実性の時代』同様の性格をもつガルブレイスの他の著書『満足の文化』『ゆたかな社会』『新しい産業国家』なども丹念に読み解き、現代の難問へのヒントを見つける。「新不確実性の時代」とも言える今こそ、ガルブレイスを読みたい。
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Posted by ブクログ
昨年読んだ本の中で紹介されて興味を持ち、読んでみた。
異端の経済学者ガルブレイスの良き理解者が書いた本だけあって、大変分かり易く面白かった。アメリカの1930年頃の大恐慌時代以降の経済史に対するガルブレイスの理解、そしてその後自身が経験した経済的事象に対する考え方が著書からの引用を通して解説されており、その解説もまた分かり易くなっている。「ゆたかな社会」を今後も読み継がれる経済書と挙げる理由もよく分かる。
■寡占企業の私的権力への対抗措置としての拮抗力(強力な需要者、労働組合)
■他人よりも優越的に立ちたいという欲求を満たす相対的ニーズは際限がない
■消費者需要が広告や販売術によって操作されている現実(欲望は欲望を満足させる過程に依存する=依存効果)
■「計画化体制」では大企業に都合のよいものが優先され、「審美的次元」が犠牲に
■軍産複合体と名ばかりの民間企業
■「満足せる選挙多数派」の意を汲む政権
Posted by ブクログ
アメリカの経済学者 ジョン・ケネス・ガルブレイスの経済学的なスタンスを、主著である3作(『ゆたかな社会』、『新しい産業国家』、『経済学と公共目的』)を軸に解説すると共に、その他の幅広い文筆作品から彼の思想を概観したガルブレイスの解説本。
「今こそ読みたい」とタイトルにある通り、GAFAに代表される巨大企業による市場独占とその影響、新自由主義に対する再評価の機運、その他にも環境問題や女性の社会進出といった、現代にも通じるテーマについてガルブレイスがこれらをどのようにとらえていたかも言及されています。
前半では主著の3作を紹介しながらガルブレイスの経済思想が紹介されます。
印象として、ガルブレイスの経済思想は異端。その上挑発的とも感じます。
『ゆたかな社会』では、生産側によって演出・創作された購買欲求によってアメリカ経済が過度な消費経済に変遷し、それが民間と公共の資本バランスをいびつにし、結果的に環境問題など様々な社会影響を及ぼすに至ったする論を展開しますし、『新しい産業国家』では、いまや大企業の「計画化」作用が経済全体をコントロールしていると説きます(計画化という言葉自体、社会主義の計画経済を連想させるという意味で挑発的な語彙選択だと思います)。
どれも学校ではお目にかかれない内容です。
後半では上記3作以外の文筆作品からガルブレイスの主張が紹介されます。
軍産複合体への理解と危惧、レーガン・ブッシュ(パパブッシュ)政権における「発言力を持った一部選挙民」(=「満足せる選挙多数派」)による不公平な経済・社会構造、バブルの分析とその崩壊の予言など、どれも卓見だと感じます。
(ただでさえ名文家だったということもあり、経済学者よりも文筆家のほうが輝いて見えるくらい・・・)
また著者である根井さんは経済思想史が専門だということで、要所要所に当時の経済思想の潮流が解説されており、これがまた非常に参考になります。たぶん私は根井さんの経済思想史の著作も購入することでしょう。
ガルブレイスはケネディ大統領とも知己の関係であり、政治スタンスは一貫してリベラルだったそうです。そんな彼が今にも続く保守潮流を「リベラルの後退」と捉えていたのは興味深いと思います。
個人的にもこの潮流は保守が勢いを増したのではなく、リベラルが凋落したためだと考えている(アメリカではリベラル政権が誕生しましたが、その取り巻きの思想は極端でありバランスを欠きます)のでこの辺も興味深いと感じました。