【感想・ネタバレ】裏切りの塔 G・K・チェスタトン作品集のレビュー

あらすじ

コーンウォールの海岸に聳える風変わりな葉色の三股の樹。通称を〈孔雀の樹〉といい、聖者の祈りによって歩き回る力を手に入れ、獣や人をむさぼり食う災いの樹の伝承に連なる存在だった。大地主ヴェインはこの怪樹に登る賭けをして森に入るが、以降忽然と姿を消してしまう。怪奇趣味に満ちた傑作中篇「高慢の樹」ほか、謎を読み解くことに長けたスティーヴン神父が不可能犯罪に挑む表題作、夢想家の姪と実際家の甥の先行きを案じた公爵が取った奇策が思わぬ喜劇へと発展する、本邦初訳の戯曲「魔術」など、五篇の中短篇を新訳で贈る。巨匠の多彩な魅力が凝縮された日本オリジナル作品集。/【収録作】高慢の樹/煙の庭/剣の五/裏切りの塔/魔術――幻想的喜劇/訳者あとがき/解説=垂野創一郎

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

――


 このあたりでチェスタトンをどうぞ。


 英国ミステリってだいたいミステリの全ジャンルを網羅してるなと思うのだけれど、怪奇・伝奇ミステリといえばやっぱりチェスタトンになるでしょう。
 これもしかし、誰訳で読むかによって随分印象が変わりそうでもある。注釈の付け方とか――注釈を訳文の中に盛り込んでるイメージの中村訳ブラウン神父譚のほうが、個人的にはスムーズで好きなんだけれど原文派は違和感あるのかしら。

 本書は原題を『The man Who Know Too Much And Other Stories』ということで、『知りすぎた男』の訳書から漏れた「Other Stories」を一冊に纏めてくれたものなのだけれど、直接の繋がりはなくてもやはりホーン・フィッシャー感があるので好みの方は楽しめると思います。ブラウン神父もののようなまとまりは無いけれど、その分いろいろな要素に手を出して、それぞれに対するスタンスを示してくれているような感触。

 表題の「裏切りの塔」はコンパクトによく纏まった短編だと思います。
 トリックはあとがきで「虫太郎のような、物理的にはまず無理と思われるものだ。――虫太郎的というのは言い過ぎで、少なくとも久作程度には実行可能なのだろうか。」と評されているけれど、的確なので笑えた。しかしこの、いかにも実現不可能なトリックをその場所に於いては成立するように見せる、というストーリーテリングの妙が、怪奇探偵小説の名手には皆備わっているような気がします。
 そういえば名探偵コナンのトリックは真似されないように奇天烈なものにしてる、みたいなこと云ってるのをどこかで聞いたんだけれど、にしたってなぁというのが多くて閉口。まぁアニメのはね…毎週いちトリックなんて苦行を越えて修行だよね…。


 中編「高慢の樹」が、本書の中でベスト。主題も構成も、展開までばっちり。そして痛烈な皮肉で終わるのが真骨頂、という感じがします。是非これだけでも、と云おうとしたけど多分これ読み切るひとは全部読むと思う。


 「煙の庭」から、妙に心に残った一節を引用して終えます。まさに人が死んでいる、そして事件の真相が横たわっている部屋に立ち入る娘に向けて。
 ――「中へ入る前に、外のことを憶えておいてくれ。僕のことじゃなく、君のことをだ」。雲一つない空と、あらゆる平凡な美徳と、風のように澄んだ強いものをだ。信じてくれ。結局はそういうものが現実なんだ。この呪われた家にかかっている雲よりも現実なんだ。それにしがみついていてくれ。神様の風と洗い流す川が実在するんだと自分に言い聞かせてくれ。少なくとも、この部屋の中にある物と同じくらい実在するんだとね」――

 ☆4.2

0
2021年06月12日

「小説」ランキング