【感想・ネタバレ】誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論のレビュー

あらすじ

ある患者は違法薬物を用いて仕事への活力を繋ぎ、ある患者はトラウマ的な記憶から自分を守るために、自らの身体に刃を向けた。またある患者は仕事も家族も失ったのち、街の灯りを、人の営みを眺めながら海へ身を投げた。いったい、彼らを救う正しい方法などあったのだろうか? ときに医師として無力感さえ感じながら、著者は患者たちの訴えに秘められた悲哀と苦悩の歴史のなかに、心の傷への寄り添い方を見つけていく。同時に、身を削がれるような臨床の日々に蓄積した嗜癖障害という病いの正しい知識を、著者は発信しつづけた。「何か」に依存する患者を適切に治療し、社会復帰へと導くためには、メディアや社会も変わるべきだ――人びとを孤立から救い、安心して「誰か」に依存できる社会を作ることこそ、嗜癖障害への最大の治療なのだ。読む者は壮絶な筆致に身を委ねるうちに著者の人生を追体験し、患者を通して見える社会の病理に否応なく気づかされるだろう。嗜癖障害臨床の最前線で怒り、挑み、闘いつづけてきた精神科医の半生記。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

著者は依存症治療に関して著名な精神科医。現場経験ベースで書かれたエッセイで、とても読みやすい。

以下は内容の個人的なメモ/抜粋
- 生き残るために不健康や痛みを必要とする人が世の中にはいる。心の痛みを身体の痛みに置き換えてトラウマ記憶から気をそらす。かゆみが我慢できない箇所をつねってみたりするのに似ている。
- すべての依存性物質の中で個人と社会への害が総合的に最も大きいのはアルコールという研究結果がある。(Nutt D, Lancet, 2010)
- 「Yes to life, no to drugs.」が「ダメ、ゼッタイ」と訳されて定着してしまった。痛みを抱えて孤立している人が無視され、薬物依存者を孤立させて回復から遠ざけている
- 「手のかからなさ」は、援助希求性と乏しさや、人間一般に対する信頼感、期待感のなさと表裏一体
- 薬物という「物」に耽溺せざるを得ない、痛みを抱えた「人」への支援こそが必要

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2024年05月05日

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