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ある患者は違法薬物を用いて仕事への活力を繋ぎ、ある患者はトラウマ的な記憶から自分を守るために、自らの身体に刃を向けた。またある患者は仕事も家族も失ったのち、街の灯りを、人の営みを眺めながら海へ身を投げた。いったい、彼らを救う正しい方法などあったのだろうか? ときに医師として無力感さえ感じながら、著者は患者たちの訴えに秘められた悲哀と苦悩の歴史のなかに、心の傷への寄り添い方を見つけていく。同時に、身を削がれるような臨床の日々に蓄積した嗜癖障害という病いの正しい知識を、著者は発信しつづけた。「何か」に依存する患者を適切に治療し、社会復帰へと導くためには、メディアや社会も変わるべきだ――人びとを孤立から救い、安心して「誰か」に依存できる社会を作ることこそ、嗜癖障害への最大の治療なのだ。読む者は壮絶な筆致に身を委ねるうちに著者の人生を追体験し、患者を通して見える社会の病理に否応なく気づかされるだろう。嗜癖障害臨床の最前線で怒り、挑み、闘いつづけてきた精神科医の半生記。
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Posted by ブクログ
『身近な薬物のはなし ― タバコ・カフェイン・酒・くすり』も名著だったが、こちらも素晴らしい。
通底しているのは同じメッセージで「良い薬物、悪い薬物があるのではなく、良い使い方、悪い使い方があるだけで、悪い使い方をしている人は何らかの困りごとを抱えている」ということ。
そういう依存症専門医としての知見からの示唆に富む内容も多いうえに、松本先生自身が「ふつうのエリート」的な生き方をしてこなかったことが、ものすごくいい味を出している。高校がめちゃくちゃ荒れていてシンナー中毒の友人がいたりとか、大学でろくに授業に出ずに本を読んで引きこもって過ごしていたりとか。そういったバックグラウンドが専門性と相まって、本当に松本先生にしか書けない文章になっていて、参りましたという感じ。
Posted by ブクログ
ヘミングウェイの小説「誰がために鐘は鳴る」のタイトルから受け継いだであろうタイトル。調べてみるともともと、17世紀の詩人ジョン・ダンの言葉が最初で、「誰かの死は他人事ではなく、自分事である」という意味だそう。精神科医として患者の自殺も経験し葛藤しながらも、人に寄り添い続けてきた共感力・責任感のある人柄がうかがえる。
ヘミングウェイ自身、自身の執筆のためにスペイン内戦や第二次世界大戦に参加しつつも、晩年アルコール依存や精神を患っていたらしい。それらも踏まえて、「誰がために医師はいる」とつけられているのだろう。
まず医師とは思えないほどの文才に驚かされる。読書好きというのも納得できる。過去の歴史や臨床現場で経験されたことをもとに、物事を俯瞰し、分かりやすく言語化されている。自分にはなかった視点がたくさんあり、とても勉強になった。
例えば、「良い薬・悪い薬があるのではなく、良い使い方・悪い使い方がある」というもの。何かの薬物に対する規制は、もともとの薬物を改変しより害のある薬を生み出す。そして、かつてのアメリカの禁酒法時代ように、アルカポネのようなギャングを生み出す。意外と知られていないが、大麻は上手く付き合っている人が多く、規制されていないアルコールのほうがよっぽど他者との衝突を起こす事例が多いということ。市販薬や覚醒剤についても同じことが書かれていた。
「困った人」は「困っている人」というフレーズがとても印象的だった。上手に人を頼ってSOSが出せない、人間不信だからこそ、薬物やアルコールに依存してしまう。依存症になるとその依存症に対する解決を求めがちだが、(例えば、ある薬物を規制したり、依存症治療をするなど)もともと抱えている生きづらさ・苦しみが解決されない限り、他の方法に代わるだけだということ。
必要とされるのは、安心・安全が保障された社会をつくっていくということ。逮捕による差別(実名報道)など、誰しもが辱めを受けず、「社会やコミニティに安心して居場所があることの大切さ」を思い知らされる。果たして、私たちはそのような社会をつくっていけるだろうか。まずは自分自身から変わりたい。
Posted by ブクログ
松本先生の本はどれを読んでも面白い。医学と患者の狭間で悩み戦い続けている姿を見て、自分も頑張ろうと勇気をもらえるので、定期的に読みたいと思える内容だった。
「人は裏切るけど、シンナーは裏切らない」これは松本先生の中学の同級生の言葉。このことばを聞いて、自分の頭をガツンと殴られた感覚だった。シンナーだけにかぎったことではなく、他の薬物やアルコール、リストカットなどの事象行為。さまざまなものに当てはまる。
人に依存できないからこそ、何かに依存する。とは理解していたものの、反対に言えば、人は裏切るからだということに思いもよらなかった。
そう考えた時に、自分が今まで安易にかけていた言葉が走馬灯のように思い出された。
何かあれば相談してください。そう言った言葉をかけたっきり何も音沙汰のないことが多い。うまくいって本当に相談事がない人もいるかもしれないが、おそらくはほとんどが、どうせ相談しても解決にならないと思って何も言ってこない、あるいは、相談への敷居が高く声をかけづらい。そんなことがあるような気がした。
そんなことを思い出した一方で、自分の持つ時間も限られているため、安意に意識して改善していこうとも思えない。
そんな自分の力のなさを自覚させられたのだった。
このような感じで、心に突き刺さる言葉がたくさんあり、読み終わった後には気力がかなり消耗したものの、考えるきっかけになった、私にとってとても貴重な内容だった。
Posted by ブクログ
本書で取り上げられているのは”嗜癖障害”(addiction)という、とても重たい問題なのだが、著者が精神科医師として様々な患者たちと向き合ってきた経験を通して感得し学んできたことを率直に発言しているところに心打たれたし、特に薬物のことについては大いに啓発されるものがあった。
著者の言わんとすることは「あとがき」にまとめられている。
「この世には、よい薬物も悪い薬物もない、あるのはよい使い方と悪い使い方だけ。そして、悪い使い方をする人は、何か他の困りごとがあるのだ……「困った人」は「困っている人」なのだ、と。だから、国が薬物対策としてすべきことは、法規制を増やして無用に犯罪者を作り出すことではない。薬物という「物」に耽溺せざるを得ない、痛みを抱えた「人」への支援が必要なのだ」
「ダメ。ゼッタイ。」の薬物乱用防止キャンペーンの中で育ってきて、覚せい剤というと幻覚や妄想で人を殺傷したり、フラッシュバックが起こってしまうといった犯罪や悪いものというイメージとしてしか捉えてきていなかったし、すべてを治療という枠組みで対処することが適当なのかという疑問は残りはするものの、依存に陥ってしまう一人ひとりの患者の苦しみを少しは理解することができたような気がする。
Posted by ブクログ
薬物使用者とそうではない人の壁は思っていた以上に薄いものだということを感じました。また、教員をしているので、薬物乱用防止教室の話は納得感がありました。また、リストカットやオーバードーズの生徒が増えているという実感があり、なぜ彼ら彼女たちはそのような行為に走ってしまうのか疑問をもっていました。過去のトラウマや、精神的苦痛を身体的苦痛に置き換えているのだと学ぶことができました。専門知識が乏しい我々教員としては、精神科への受診を保護者に勧めることもあります。ただ、精神科医の方々も試行錯誤を重ねて、患者さんと向き合っており、万能な解決策はないのだと思いました。アルコールも含めた薬との良い付き合い方を実践していきたいです。
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