あらすじ
いま宇宙は真冬であり、わたしは宇宙最後かもしれない星に向かっている――宇宙を漂う放浪者がその滅びゆく美しさを想う表題作など10篇を収録。『三体』などの中国SF翻訳者・紹介者としても活躍する短篇の名手ケン・リュウが贈る日本オリジナル短篇集第4弾
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Posted by ブクログ
ケン・リュウのハヤカワの新書は全部買っているけれど、これは私の中で「紙の動物園」に迫るかも。ただ、第二次大戦でアジアを支配していた日本の話が2篇あるので、とても重い。初期の短編集に「歴史を終わらせた男」を入れなかったという判断もわかる。
「マクスウェルの悪魔」
戦時下の沖縄ユタの血筋の日系アメリカ人、かつ女性で科学者の主人公。
どこの土地でも余所者・敵地人として不当な扱いをされ、戦争も地獄の様相を見せる中、それでも人が拠り所とする故郷について描かれる。
重ねて出てくる「それが戦争ってものじゃないか」が重くのしかかる。
「歴史を終わらせた男」
ここで731部隊の話を突きつけられるとは。
タイムマシンによって直接歴史を見聞きできるようになったとき、「歴史」が過去の死んだものではなく今扱える生きたものとなったとき、当時の出来事をどう見るのか、責任の所在はどうなるのか。
そういうSFを土台にしているけれども、話中で人体実験の現場を訪れた観察者同様、731部隊の話が終わった過去でなく、実際にそこに在った事実として辛い。
もちろん日本が行った反省すべき戦争犯罪だという認識はあったけれど、たかだか100年前に、医療の発展のためにという名実で「必要なこと」として行われ、それが実際に医療データとして利用されていたというのは、こう読むと相当なショックだった。
乗り越えて終わった過去でなく、今もその出来事と連続して今いるのが自分なのだと。
100光年離れた星の、100年前の光が今届くように、過去発せられた光は今の光景であり、時間による差はあまりないのかもしれない。
ロシア・ウクライナ戦が始まり、戦争とはすでに乗り越えた過去のものと漠然と考えていた自分の能天気さを恥じたけれど、発売当時に買ったままだったこの本を今読んだというのも、本に呼ばれたのかもしれないなあ。
「切り取り」
こういう技巧が凝らされた上に、儚さの感じられる物語は大好き。