【感想・ネタバレ】グローバル・タックス 国境を超える課税権力のレビュー

あらすじ

所得税のフラット化,法人税率の引き下げ,タックス・ヘイブン利用による租税回避・・・.GAFAはじめ巨大多国籍企業が台頭する中,複雑化し,苛烈を極める「租税競争」.その巧妙な仕組みを解き明かし,対抗していくためにEU各国などの国際社会で模索が進む,旧来の国民国家税制と異なる新しい「課税主権」の在り方を展望する.

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本作ですが、かなり面白かったです。

税金の本ではあります。いわゆるGAFAなどのデジタル多国籍企業への課税をどのようにして可能にするか、というのが端的なお題目。

これを論ずるにあたって、本来の課税というのは国ごとに行われ、そしてPEという恒久的な施設があることを前提として収益に対して課税していたと。

ところが多国籍企業は重税を逃れるように本社を低税率国に移し、当初の国と移動先との国とで指導料とか、ブランド代とかintangibleな形のない財をやり取りして当該国での収益を低くし課税逃れに走るようになった。移動先の国では低税率で大儲け、当初の国では低収益で課税額も少ないと。また当初の国で経費として計上されるブランド代や指導料は比較対象があまりないため、課税当局も判断が難しいらしい。

更にはGAFAなどのデジタルジャイアントはインターネットを通じて世界中から収益が上がるにも関わらずそれらの国に恒久的施設もないことから、これまでの文脈では各国は彼らに課税することが難しい。

こうした状況が、各国の租税競争を起こし(うちは法人税安いですよー、みなさん来てくださいねー)、そこでは所得税などの直接税を軽く(企業や富裕層が逃げないように)、間接税を重くするという逆進性を助長することになったと論じます。つまり貧乏人はより税金に苦しむようになるということです。こうして所得の再分配が効かなくなります。

これをどうにかするために、一国での課税ではなく、世界政府みたいな大きな括りでGAFAのようなデジタル多国籍企業に立ち向かおう、少なくとも国・課税主体も多国籍企業と同じ土俵で戦わないとだめだ、というお話ですね。

・・・
まあ、考えるまでもなく、各国の思惑がバラバラなので、ワールドワイドでグーグルに課税しましょうとか言ってもこれは課税額の配分などで揉めるのは必須。

売り上げ按分だとか、幾つかの案が出ていましたが、どれも難しそう。

さて、突然ですが、コロナなど疫病対策・ワクチンに関連して、国際公共財という考えがあるそうです。

1)対価を払わないからといって消費から排除されない
2)他の消費者が消費しているからといって自らの消費が排除されるわけではない(P.149)

コロナワクチンは、とりわけアフリカの国々は危うく消費から排除されかけたわけですが(金がないからね)、ここで国際的な公共財の費用を世界で負担するべきという考えが見直されるわけです。これに先駆け、フランスでは国際便の乗客に国際連帯税をかけ、エコノミーは安く、ファーストクラスは高くしたそう。

これは直接的な答えではないものの、そもそも税金というのが所得の再分配の性格を有すことから、一番のお金持ちで課税逃れをしている多国籍企業を国際的な網の目で取っ捕まえたいと考えているのが見て取れました。

ただやはり実施するとしたら国際的な連携が必要ですよね。このあたりがグローバルミニマム課税につながるのでしょうか。

・・・
さて、考えてしまうのは、課税主体としての国家はもう時代遅れになるかもしれない、ということ。

多国籍企業があるのならば、多国籍連携国家も想定するべきなのでしょう。

その一例としてEUが挙げられているわけですが、今のところは国家というこれまでの考えが強すぎてEUは一枚岩でもないですね。

全世界政府とかできたら、富裕層は租税回避のために火星にでも逃げてしまうのでしょうか。

今は戯言ですが、なくはないかもしれない、と感じます。

・・・
ということで、国際的な課税に関する本でした。

個人としてはなるべく税金は安くしたい、と考えていましたが、現実には多国籍企業のお陰で(政治家のせい?)どの国も間接税優位、つまり持たざる者への負担が大きくなっているのが現状のようです。

税金を安くしたいと思うのは心情ですが、安いだけでは駄目かも・安いだけってのはちょっと違う、と感じました。トランプ氏が関税云々いっていますが、あれだってGAFAは大喜びかもしれませんね。

GAFAなどデジタル企業への国際的課税の網の目がじわじわと狭まろうとしていたなかで、紐帯は緩み国家は分断された様相です。

税金とは、政治や国家を考えるうえでは大きな論点かと思います。そうしたことに興味がある方は是非ご一読を。

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2025年07月14日

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