あらすじ
アフターコロナで、地方移住が盛り上がる中、地方人気に脚光が当たっています。しかし、ほんとうに地方からの流出は止まったのか。それはまさに「幻想」だと、著者の木下さんは断言します。地方・まちづくりをめぐるニュースの数々は、本質をとらえない、思い込みが蔓延しています。
なぜ、地方が衰退するのか。地域再生は挫折するのか。
本書は、地方の最前線で長年地域おこしを見続けてきた著者による、幻想を打ち破り、ほんとうに地域が立ち直るための「本音の」まちづくり論です。地元の悪しき習慣から、行政との間違った関係性、「地域のために!」という情熱を注ぐ事業のブラック化など、豊富な事例をもとに明かします。読んだあとに、行動を促す1冊をめざします。
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Posted by ブクログ
「何をやったらいいんでしょうか」。
地域の再生には都合のいい答えがあるという幻想を象徴する質問。
優れたひとがそれを知っていて解決できるという思考の土台が、幻想にとらわれた人の発想だ、と著者は釘を刺します。
実際にある地域再生への道は、
自分達で考え、予算の範囲内で失敗を繰り返し、改善を続ける、地道な作業。
どこかで成功した結果だけを真似ても意味がない、といいます。
そのために必要なマインドセットの転換。
外部任せでない地方経済の在り方について、
スペインのバスク自治州の労働者協同組合の例が挙げられていました。
賃金格差是正、地元消費のしくみを生み出しているのだけれど、
その根底にあるのは、自分たちでより良い地域経済、より良い暮らしを作って行こうという考え方なのだと理解しました。
・・・
・人口論と切り離す
日本では、2014年から地方創生政策なるものが実施され、資金が投入されました。
東京の一極集中が地方人口の減少を招いた、という前提が間違いだとし、
東京への人口流出による地方の人口減少は、地方経済の衰退の結果だといいます。
そして、人口ではなく、価値を生み出しているかこそが、地域の存続、発展に大事であるという点を述べられています。
フランス、イタリアの地方、人口は少なくても小さな集落の魅力がある。
人を引き付けるライフスタイルを提供している。
今は、「新たな付加価値の生み出し方と向き合う時代」だ、と。
日本では、二丹別のブルーチーズのお話がありました。
付加価値の創造にも、考え方を刷新する必要性があり、
具体的なアドバイスもなされていました。たとえば、
ー粗利率、利益率にこだわる。
ー安さを売りにしない価格設定。
ー持っているお金でできることからして、小さく資金回収を回す。
ー海外と国内、コト経済とモノ経済のバランス。内需も十分ある。体験だけではなく、実際に地域に根差したり強みであるモノの存在も大事。
・人が来ない、とは。
働き手がいない、長時間・低賃金の需要がないだけ、というのは、全国に多様なところがあるのかと思いましたが、
地域は特にそうなのかもしれません。
本気で地域を創生するならば、高い給与で良い人材を雇って本腰を入れる必要があるはずです。
一方で、
2017年の地方自治総合研究所の調べによると、
域創世の総合戦略の策定の際には、
1342自治体の約8割が地コンサル等の外注、
うち5割は東京本社、とのこと。
2020 男女共同参画基本計画の際に、地方での女性への偏見が一つ挙げられていたこと。
女性の上京理由には、地域の治安への懸念、成長の機会に乏しい、などが報告されている。
職場環境や雇用条件にプッシュ要因がありそうです。
著者は、雇用形態、そして職場での人間関係の在り方を刷新する必要性を論じられています。
【思考の土台から変える地方創生】
東京も満員電車とかで大変、というけれど、
他の地域に比べればまし、みたいな感じなのかな。
チャーチルの民主主義の話みたいですね。
・・・
国際協力の支援依存に似た構造であるようにも感じました。
外部の専門家を頼ることは良いことだと考えますが、
介入策がその後も意味のあるものにするためには、
現地に主体性がある、あるいはないのであれば、その意思が醸成されること、
そして能力強化、エンパワーメントがなされることが欠かせない。
国際協力の開発では、意識啓発をよく実施しますが、
木下斉さんはこの本で、まさにその意識改革を唱えている、と言えるのかと思います。
著者はまた、一人だと惑わされなくても、集団になると流されてしまう。
安定とは変化をしないことではなく、変化レベルをちゃんとわきまえること。
今はまず、女性が気持ちよく暮らせるまちづくりを目指したいなーと思いました。