あらすじ
その予感は娘の発作で始まった。極限の恐怖に誘われる衝撃の作品――平和な家庭での、いつもの風景の中に忍び込む、ある予兆。それは、幼い娘の、いつもと違う行動だった。やがて、その予感は、激しい発作として表れる。<破傷風>に罹った娘の想像を絶する病いと、疲労困憊し感染への恐怖に取りつかれる夫婦。平穏な日常から不条理な災厄に襲われた崇高な人間ドラマを、見事に描いた衝撃作。
◎距離が伸びる時には父親として病気に向き合い、距離が縮む時、一人の人間として感染症の恐怖に怯える中で語られる心の葛藤は、医学小説のそれではなく、もちろん恐怖小説のものでもなく、強いて言うなら、極めて純粋な戦記文学を読んでいる印象です。確かに、今まで読んだ全ての小説の中で、病棟という「戦場」の真実がここまで正確に描かれた作品を知りません。<石黒達昌「解説」より>
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
映画は割と怖いらしいけど見たことがない。得体の知れないものに侵され娘が得体の知れないものになっていく恐怖、診断と治療、破傷風との戦いと家族をめぐる環境、冷静であろうとして感情のこもった雰囲気がうまく書かれている。万が一、何かの実体験を書くことになったらこういう文章を書きたいと思う。子供ができてから、破傷風そのものの症状より看病する親の心情と疲労の方がリアルで感情移入しそうだった。
p82 うすぐらい室内のなかで昌子の顔は闇の黴に蝕まれているように見え、それは僅かずつではあるが昌子がわたしたち夫婦の支配する圏から脱しつつある兆のように思われた。(そして、これからどういうことが起るのだろう?)
Posted by ブクログ
一人娘にある日突然現れた異変。悪魔に憑かれたかの如く激しい発作に暴れ苦しむ娘の病はやがて破傷風と判明し、入院し本格的な治療が開始されるも、付ききりで必死の看護に当たる両親の精神は次第に蝕まれていきます。
作家の実体験を元にしたというこの小説は、娘の病状がリアルで本当にしんどそうで心が痛んだのはもちろんですが、それ以上に両親がそれぞれにじわじわ追い詰められていく描写に胸を締め付けられると同時に、あまりの凄まじさに恐怖を覚えました。
物語の語り手でもある父親も、冒頭で「お父さんがあまり娘を叱るからストレスで体調が悪化するのだ」と言いがかりをつけられるほどには神経質で繊細で、自分自身の幼児体験や感染への不安でピリピリし、看病にやつれて病んでいるのですが、ふと気づくと実は母親が、誰よりも娘への自責の念に苛まれながら、娘の凄惨な発作への恐怖のあまり、今で言うPTSD的症状に陥り、しばらく病室に足を踏み入れることができなくなるという展開は夢に出てきてうなされそうです。40年程前にホラー風味の演出で映画化されたのもさもありなん、と納得。これでラストに救いがなかったらトラウマに留めを刺されていたと思います。ああ、あのラストで良かった……。
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破傷風の恐怖!
子供が破傷風にもしかかってしまったら、この夫婦のように頑張れるか自信がない。子どもvs病魔、夫婦間のいさかい、子どもは助かっててほしいが、自分も感染してしまうのではないかという、抑えがたいジレンマ・・・等々、リアルな人間の本質が描き出されています。映画にもなった感動的ドラマです。外遊びから帰ったら、必ず手洗いは習慣付けましょう。
ただ、現在でも入手できるか、わかりませんので、あしからず。
Posted by ブクログ
許さんの授業課題作品。じっくり味わうほど名作なんだなあ、と納得。破傷風の恐ろしさ、家族の不安定な感じ。緊張感。不快な生活匂いが充満した文体。色んな意味で生臭い。詩人ならではの独特な言葉選びも凄い。
病に冒されて舌を噛み、血だらけになりながら痛いよう痛いよう…と泣き叫ぶ娘。
看病疲れで狂ってしまう妻。
「あなたは私の夫ですね、そうですね」と電話口で呟く。触れたくない見たくない人間の怖さが全面に出てきちゃってるかんじ。怖い。ほんと怖い。
Posted by ブクログ
病の凄惨さの描写に対して、人間の彫刻も劣らぬくらいに濃い。
個別に閉ざされてもいないけど、どこに行っても息もつけない。
慌ただしく擦り切れてそこここから苦渋が滲むけど、日が差せば一面にほころぶ。
「病棟」という場の迫真に吸い込まれそうになる。
Posted by ブクログ
破傷風にかかった娘のお話でした
幼い娘の様子がおかしい
どんどん悪化しているようで病院へ
そこで病名がわかり治療が始まり・・・
著者の実体験からくるお話のようで
とてもリアルに感じました
病院の人たち、両親の看病も大変そうでした
名前は知っていたけどどんな病気かまでは
知りませんでしたが恐ろしい病気ですね
映像化もされているようでそちらも気になるところです
Posted by ブクログ
幼い娘が破傷風にかかった。
昼夜問わず起きる発作の恐怖。感染したのではと募る不安。たった数日の出来事なのに、両親は疲労困ぱいで今にも発狂しそうだ。
読み終わっても、その気持ちに引きずられて腹にずっしりと重みを残した。
自分は、夫とここまで支え合えるだろうか。
Posted by ブクログ
小さな娘が破傷風になる。「もしかしたら・・・」と思いながらも、違う診断にほっとしながら、最終的には手遅れに近い状態で入院。そして主人公も感染? 全体的に暗い文体で、主人公の子供に対する距離感とか、妻が壊れていく感じとか怖い。
Posted by ブクログ
映画が強烈で、「エクソシスト」並のホラーという印象だったので、大人になってから三木卓原作と知って驚いた。
読んでみると、精神的に追い詰められていく夫婦を描くという点ではサイコサスペンスとは言えるかもしれないが、ホラーではもちろんない。
娘の異常の原因が、病院に行っても分からず、躾の行きすぎでおかしくなったんじゃないか、とか若い夫婦が疑心暗鬼に陥る。
やっと破傷風とわかって入院するが、治療が遅れたため激烈な発作が襲う。
当然娘の「死」を考える。
疲労と心労が重なり、妻は精神的なバランスを崩す。
実体験に基づいてはいるものの筆致は感情に溺れず、さすが小説家、親であっても業が深いな、と思った。
いい小説だけど、家族を描き、映画がホラー扱いだったことを考えると、三木さんの奥さん、娘さんは辛かったのではないかな、と考えてしまうのは余計なお世話か。