あらすじ
老夫婦の穏やかでかけがえのない日々を描く。
「もうすぐ結婚五〇年の年を迎えようとしている夫婦がどんな日常生活を送っているかを書いてみたい」(あとがきより)――。庭に咲く四季折々の花々、かわいい孫たちの成長、ご近所さんが届けてくれる季節の風物など、作者の身のまわりの何気ない日常を、まるで花を育てるように丹念に描く。
「棚からものが落ちてきても、すぐには反応できない」「歩くスピードが明らかに落ちた」などという老いの兆候も、戸惑いながらも受け入れ、日常の一コマとして消化していく。事件らしい事件は何も起こらないが、些細な驚きの積み重ねで読み応えある文学作品にしてしまう、まさに庄野潤三の世界。
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Posted by ブクログ
昭和の"第三の新人”庄野潤三後期の私小説。
東京郊外の住まいで庭の花や水盤に来る野鳥を愛で、ご近所と到来ものの果物等と畑で作った野菜や花のお裾分けをし合い、妻のピアノに合わせてハーモニカを吹く。子や孫達と頻繁に交流し、時には観劇や郷里大阪への旅行も楽しむ。
うれしい、おいしい、ありがとうが頻出する精神的にも物質的にも豊かな一昔前の「理想の老後」。
読んでいるうちに心が平らかになり、登場人物達に近しい親戚のような親しみを覚える作品群の中の一作である。
作家と夫人亡き後の邸宅は公開されているのでいつか訪れてみたい。