【感想・ネタバレ】書きたい人のためのミステリ入門(新潮新書)のレビュー

あらすじ

読むと書くとは表裏一体。書き手の視点を知れば、ミステリは飛躍的に面白くなる。長年、新人賞の下読みを担当し、伊坂幸太郎氏、道尾秀介氏、米澤穂信氏らと伴走してきた編集長が、ミステリの〈お約束〉を徹底的に解説。フェアな書き方、アンフェアな書き方とは? 望ましい伏線の張り方は? 複雑な話だから長編向き? 「人間が書けている」とは? なぜ新人賞のハウツーを信じてはいけない? 読むほどにミステリの基礎体力が身につく入門書。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

新人賞の下読みを担当してきた現編集長職の著者が、特にミステリ作家を志す人に向けて基本を解説した本。

謎をつくり伏線を張り回収し解決する、というような「ミステリを書く」という行為を順を追って解説するばかりではありません。キャラクター(人間)の書き方、世界観についてなど、エンタテイメントや純文学など小説一般に通ずる「基本」についてにもプロの編集者の視点で話をしてくれています。素人が気づいていないような重要なポイントをあまさず目に触れさせてくれる内容で、「ミステリを書く行為って、そういうところにまで気を使い心を配るものなんだ」といくつもの驚きがもたらされること必至です。プロの書き手を志す人ばかりでなく、読み専門の人にとっても、ミステリをより深く理解するきっかけになるに違いない内容でした。

本書はそんな、書き手にとっても読み手にとっても「ミステリ入門」となるダブルミーニングの作りですが、加えて、数多の名作が挙げられていることで、まず読んでおく方が良いミステリ(作品)入門にもなっている。実はトリプルミーニングな作りなのです。叙述トリックについてはこれこれしかじかの作品たち、密室モノならばこれらの作品たち……、などとネタバレはまったくさせずに参考文献になる作品を紹介してくれています。なので、素直にそれらの作品を読んでいけば、たぶんミステリ知識の下地はけっこうな程度のみっしりしたものとなりそうです。

「フーダニット(Who done it)」=「誰が犯人か」、「ハウダニット(How done it)」=「どうやったらそんなことができるのか」、「ホワイダニット(Why done it)」=「なぜそんなことをしたか(動機)」などのポイントがあって、力点をどこにおくかで作品が変わってきます。そういう整理の仕方って、億劫で足が一歩でなかったところに存在していた感が僕にはあり、ちゃんと執筆に取り組もうとするならば、こういった認識の仕方は力になるなあと思いました。たとえミステリではないエンタテイメント作品を書くとしても大いに参考になるところです。

そして、「視点」。「視点」のずれが新人賞では問題になる、と本当かどうかはさておき僕もどこかで読んでことがあります。「三人称・神の視点」は新人賞ではマイナス点だというものまでどこぞのネット記事で読みました。本書ではそんな「視点」についての解説もありました。「視点」がブレるのは難点だ、と新人賞の選考で評価されるのだそうです。要は、読み手が混乱するような「視点」ではダメです、ということ。「三人称一視点」なら「三人称一視点」でずっと構築していくのがわかりやすい作品になるということでしょう。この「視点」については、次からの小説読みのときに意識して読んでいこうと思っています。あとは、これまで読んだモノの中からブレてなさの強い作品を再読して感覚を掴みたいとも考えています。学べ学べ、なのでした。

最後のほうでは、新人賞についてのアドバイス的な章があります。僕は「わぁっ!」と目を丸くしましたが、なんと、傾向と対策はしなくていい、と。独創性をみる、と。原稿に正解は無いし、新人賞は当落はあるけれどそれは合否ではないので、正解を仮定してそこに寄せていくようなことはしないほうがいい、というのでした。「普通におもしろい作品」は要りません、とも書かれています。枠を破ったりしてもいいし、自分ならではのカラーのある作品で挑むのもいい。というか、そうしてきなさい、みたいなことを言っている。「推敲」「改稿」「第三者の目」も大切で、おろそかにしてはいけません、ともあります。そして、「なぜ小説を書くのか」を忘れないこと、が大事なのでした。このあたりは肝に銘じたいところなので、こうやってレビュー記事に残すことにしたのです。あ、それと、まずはいっぱい読んでいっぱい書くのが基本だそうですよ。

僕はまた今年、短編で挑んでいくつもりなのですが、短編はシャープなネタとカタルシスで一気に勝負するほうがいいみたいです。競馬でいえばスプリント戦。僕が応募するのは50~100枚の規定なのでマイル戦くらいかもしれない。……だとか、競馬でたとえてイメージして考えるなよ、という感じですけども、そういう「切れ味」をこれまで以上に意識して書いてみたいです。うーむ、なんだか楽しみになってきました。

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2021年01月11日

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