【感想・ネタバレ】歪んだ正義のレビュー

あらすじ

「自分は絶対に正しい」と思い込むと、人間の凶暴性が牙をむく。
テロリズム、学校襲撃、通り魔、コロナ禍に現れた「自粛警察」に共通する暴力のメカニズムを気鋭のジャーナリストが解き明かす。
本書は、「普通の人」がさまざまな経緯を経て 過激化へと突き進むにいたるその道のりを、 いわば体系的に地図化しようという試みだ。 過激性はどこから生まれ、どのように育つのか。 そうしたプロセスを可能な限り「見える化」することで、 個々人、あるいはその愛する人が過激化プロセスにあるのかどうか、 あるとすればどの位置にいるのかを認識し、 暗くて深い過激化トンネルへと落ちるのを防ぐ、 もしくは落ちたとしてもそこから引き返すために 手がかりとなる情報をまとめている。
2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件以降、テロリズムや「過激化」というと、イスラム教徒に視線が向けられやすくなった。だが、イスラム教徒が過激化しやすいとか、テロを起こしやすいというのは、最近の事件への印象が強いことによる思い込みに過ぎない。「過激化」は身近な現象で、実際には誰にでも起こりうるプロセスだ。過激化に伴う暴力は、日本でも日常的に起きている。古くは、オウム真理教事件であり、秋葉原トラック暴走事件(2008年6月)、相模原障害者施設殺傷事件(2016年7月)、新幹線殺傷事件(2018年6月)、川崎市多摩区登戸のバス停無差別殺人事件(2019年5月)、京都アニメーション放火殺人事件(2019年7月)など、ローンウルフ(一匹狼)型の凶行が目立っている。彼らはSNSを多用し、そこで過激化のプロセスを見せている。さらに今、新型コロナウイルス蔓延によって生じるストレスが高じて、世界中で特定の人種や市民への攻撃行動が起きている。身の回りで過激化する個人やグループに対して、私たちは何ができるのか。ワシントン特派員時代にアフガンでの従軍取材を経験し、テロ加害者と被害者が混在するエルサレムで支局長を務め、イスラエル随一の研究機関で学んだ敏腕記者が、テロリズムや過激化の問題の核心を突き止め、解決・防止策を提示する。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

タイトル的に過激化する者に対して否定的見解が述べられるのだろうと思っていたが、徹頭徹尾中立的な視点で分析されていて内容がスーっと入ってきた。研究者としての姿勢に感銘もうけた。
心理学、人類学などの観点を織り混ぜて述べられているので学びも多い。
テロに限らず、身近にあるうつになるメカニズムが理解できた
今の疲弊ムードの日本には広めるべき本かと思った。

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2021年12月11日

Posted by ブクログ

本書は「なぜテロリストが誕生するか?」ということをジャーナリストである著者が研究し、記した本である。

著者はテロを研究する以前は、
  もし自分が将来テロを起こす可能性があるか?
という問いには
  自分は100パーセント無い
と答えることができると思っていたそうであるが、テロリストを研究するにつれて、人間は誰もがテロを起こす可能性があると思うようになったという。

しかし、同じ環境に置かれても全員がテロを起こすわけではなく、そこにはテロを「起こす人」と「起こさない人」がいる。

ではその違いはどこから発生しているのか?
それを細かく研究し、本書にはその結論が書かれている。

その違いの一つは、他者に救いを求めることができるスキルを持っているか、持っていないかということである。

そんなこと誰でもできるだろうというかもしれないが、人生で成功してきた人間こそ、他人に助けを求めるということは難しいのである。

また本書では、人間の暴力性についても記されている。
人間の暴力性はもともと誰もが持っており、それは実験でも証明されている。
スタンフォード大学での有名な実験で、フィリップ・ジンバルドー博士により実施された『監獄実験』というものがある。
この実験は無作為に選んだ白人の男性をくじ引きで二つに分け、一方のグループは看守役、もう一方のグループは囚人役を演じさせたのであるが、実験中にあまりに看守役たちの行為が過激にエスカレートしたために、実験途中で中止となったという実験であった。

その他にも数多くの研究結果等が論じられているが、この分野については、まだまだ研究途上であり、著者は独自に研究を進め、みずからその結論に至っている。
見事である。

本書は、テロを起こす人間、そしてそれを防ぐ方法が書いてある学術書であるが、著者がジャーナリストから学者へ移行していく手記としても読むことができる。
非常に興味深い本であった。

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2021年06月17日

Posted by ブクログ

 今年読んだなかでもっとも印象的で刺激的。

イスラム過激派の研究を通して「いかに普通の人が過激化していくのか」を解き明かしていく。
これは遠い異国の硝煙にまみれた戦場の話ではない。「一般人」を自認する我々全てが過激化する可能性を秘めている。

 アメリカの大統領選からジェンダー間の軋轢、果ては「お箸の持ち方」まで、現代は正義と正義のぶつかり合い。味方か敵かの二元論ばかり。Twitter初期には落語の長屋のような関係だったTLは、今や肥大し辻斬り御免のスターリングラードに。
 最近のこの世相はなかなかしんどくて、世の中は「白黒ハッキリバッサリ切るひと」が威勢がよい。

“外的なストレスを受けると、ひとは衝動的に世界を内側と外側に分ける。つまり敵と味方”
“そして味方を称賛し敵を蔑める物語(ナラディブ)を語る”

本文中でも言及されているが、これはヘイトスピーチへ繋がり、そして歴史を自分に都合の良い神話として利用しようとするプロセスそのものだ。

最も秀悦な点は過激化のプロセスを「バランスシート」で表していること。
人はストレスを受けると、その負債を補うために資産を利用する。通常、その資産は家族愛、コミュニティの関係であったりするが、これらのリソースが枯渇している場合、人は負債を補うために負の資産を消費する。それはドラックであったり暴力であったり、また神話として作られた物語であったり。それらをドーピングのように使って自尊心をブーストするのだ。

今の社会のこうした息苦しさを感じているひと、孤独を感じているひと、家族が悩んでいるひとは是非本書を読んで欲しい。

繰り返しけどこれはエキセントリックな思想を持った少数の例外の物語ではない。我々すべてに当てはまる写し鏡であり、そして今の世界は急速に過激化の方向に閉じつつある。

その隙間から久しぶりに空を見たような読後感。

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2020年12月13日

Posted by ブクログ

色々と思い当たる節が多かった。
社会心理学ってこういうことか…
「アカデミ・ジャーナリズム」すごいなあと思った

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2020年10月01日

Posted by ブクログ

著者自身が言うように、同じように差別·貧困·死別·蹂躙に苦しんだある者はテロに走り、またある者は平和な生活に留まる。それを分かつ要素が何なのかを丁寧に突き詰めていった本である。ひとつひとつの要素が確かにローンウルフによるテロの引き金になりうるしテロ支援(エネイブラー)になり得ると、納得の説明だった。イスラエルによるパレスチナのジェノサイドが始まる前に書かれているので、パレスチナ人の自爆攻撃に怯えるイスラエル人寄りの立場で書かれているのが気になるが、確かに他では読んだことのない内容で面白かった。もう少し無駄な言葉を削ぎ落として整理してあればよかった。

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2025年05月21日

Posted by ブクログ

「普通の人」がなぜ過激化してしまうことがあるのかを、イスラム国、パレスチナ問題、それに日本で起きた障害者施設での殺傷事件、秋葉原での通り魔事件などを取り上げ、ローンウルフ型と言われるテロ行為を防ぐ方法を模索している。

読んでいて非常に気が重たくなる本であるが、重大事件の裏にも「防げたかも知れないタイミング」があったようで、個人レベルであれば周囲の人が手を差しのべることによる解決策が提示されているのが救いだ。

しかし国家同士となると難しい。読んでいて昔のアニメ「伝説巨神イデオン」を思い出した。異なる民族が誤解を重ねて戦いが泥沼化し、相互に愛し合う個人が存在し目的も望みもお互い似通っているにもかかわらず戦いがやめられずに、最後は「神」の力によって双方が全滅するという話だった。人類が到達する先終点がこうならないように祈りたいものだ。

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2022年01月30日

Posted by ブクログ

テロリズム寄りの取材経験から、「普通の人」が過激化する過程を考えている本。私はYouTuberなどの過激な言動を考えながら読んだが、この本はトルコやISなどの外国の内容を批判的に盛り込み、良くまとまっている。

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2021年08月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

愛着共同体の話はしんどいなあ。帰属集団は必要だけど、そう簡単にはいかないよね。とはいえ、危険分子をAIが見つけてそこに来年になったら会いに行くねとお好みの属性の魅力的な異性(性的志向によるか)の当局のアバターがご連絡して、思いとどまらせる未来というのもなんかいやだ。

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2021年07月18日

Posted by ブクログ

膨大な文献と資料の後が窺えてその道を志す人にとってはかなり貴重な本なのかなと感じた。
ただ自分のような興味レベルの読者にはちょっと難しかったかな。

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2025年06月18日

Posted by ブクログ

自信の喪失、孤独・疎外感、精神病的性質。それらは適切なナラティブによって、惨めな惨状ではなく英雄の素質となる。
コミニケーションと自己実現としてのテロリズム。承認欲求がテロの要因だというのは新鮮で同時に凄くリアリティがあった。
思えば映画タクシードライバーもジョーカーも、自尊心の回復を求めて、絶望した孤独な男が社会とのコミニケーションとして事件(テロ)を起こす映画だった。テロを防ぐ一番の方法は不幸な人間を作らないことなのかもしれない。

チー牛や弱者男性をバカにしているとテロを起こされるかもしれないというようにも読める。
必読本だと思う。

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2024年05月26日

Posted by ブクログ

過激化は誰しもに起こりうる。普通の人がテロリストになるまでのプロセスと対処法を解説。得た教訓としては、普通の人を過激化させる「過激思考」(相手を100%悪、自分を100%善と決めつける等)は、間違ったストレス対処法として手をだしやすく、依存性も高い。また、人間の習性として収集するリソース(資源)の中でも、不適応なリソースとしても「過激思考」も含まれ、手を出してしまう可能性がある事が学べた。本書はテロリストにまで話が広がっているが、日常的に他者との関わり合いの中で生かせる知見も得る事ができる一冊。ちょっとムズい。

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2021年01月14日

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