【感想・ネタバレ】東京奇譚集(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却……。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」など、見慣れた世界の一瞬の盲点にかき消えたものたちの不可思議な運命を辿る5つの物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹さんの短編集。
不思議で奇妙な、ありそうにない5つの物語。
現実味ない内容なのにしっかり感情移入できた。
個人的には『偶然の旅人』と『品川猿』が特に好き。

『偶然の旅人』
– 偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうかって –

日常にある些細なきっかけで自分の価値観が覆されることがあるように、小さな偶然や出会いが人の心や関係性を変化させるきっかけにもなりうる。

印象に残ったフレーズを自分なりに要約すると「日々の中で偶然の一致はありふれているけれど、意識しなければ気付くことさえできない。自分が強く求める気持ちがあれば、後に一つのメッセージとして浮かび上がってくるのではないだろうか」と解釈した。確かに、普段の生活では仕事など目先のことに追われてばかりで点と点が結びつくような出来事があっても気付いていないだけかもしれない。いま日常の中に見落としている“偶然”があるのかもしれないと、少し周りに目を向けたくなった。

『品川猿』
誰かから名前を尋ねられたとき、時々自分の名前が思い出せなくなる安藤(旧姓:大沢)みずきと品川区役所の「心の悩み相談室」のカウンセラーとして勤める坂木哲子がみずきの症状の原因を解明する物語。

自分が直面している悩み、身体の症状を夫に伝えられないのはとても苦しいのではないだろうか。夫にも理屈っぽい部分がある一方で、結婚生活に不満や違和感を抱いているわけではないことに安心した。
終盤の " 名前が思い出せなくなる原因 " に辿り着いた瞬間タイトルの伏線回収され腑に落ちた。言葉が話せる猿、出逢ってみたいなあ。

名前を盗むのと同時にネガティブな要素も汲み取れるという猿から、母と姉が自分のことを愛していないと告げられていたのは胸が痛くなった。私も離れて暮らしている家族にそう思われているのではないかと急に不安な気持ちになった。

私にも目を背けていたい、心の奥底に閉まっているものがあるからこそ「認めたくない事実に目を逸らし、辛いこと、嫌なことを見ないように生きてもいつかはその事実と正面から向き合わなくてはならない」という言葉にハッとさせられ、しばらく考え込んでしまった。
頭ではわかっているけれど、なるべく「いま」に集中し前向きに生きるためには必要な策略でもあるからその日が訪れるまで逃げ続けてもいいんじゃないだろうかとも思う。

全ての物語50〜70ページ程度で分量は少ないけれど、どれも読み応えがあって良かった。

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2025年05月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹さんの作品は、難しそうなイメージがあったけれど、短編集なこともあってか読みやすかった。
表現がとても知的で、堂々な印象を受けた。

「偶然の旅人」が中でも好みだった。
不可思議な話の中でも、こういう巡り合わせはあると、思っている。よく聞く言葉ではあるけど、縁ある人とは、離れてもまた繋がるのだと思う。

そして、「品川猿」に出てきた嫉妬に関する話は共感した。どれだけ客観的に見て恵まれていたとしても、周りを羨むばかりの人もいる。その一方で、周りから見て羨まれることは少なくても、十分に満たされている人もいる。隣の芝生は青いと思うばかりではなく、自分と向き合える人でありたいと感じる。

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「十年ぶりに再会して、姉と弟はそれぞれに、相手が十年ぶんの年齢を身につけていることを認めないわけにはいかなかった。年月はその取り分をきちんととっていくのだ。そして相手の姿は、自分自身の変化を映し出す鏡でもあった。」
「僕の中でどうしても納得のいかなかったいくつかの疑問が、それですっと腑に落ちた。なるほどそういうわけだったのかってね。それでずいぶんらくになれた。曇っていた眺めが、一瞬のうちに開けたみたいに。ピアニストになるのをあきらめて、ゲイであることのをカミングアウトしたことで、まわりの人は失望したかもしれない。でもわかってほしいんだけど、そうすることで僕はやっと本来の自分に戻ることができたんだ。自然なかたちの自分自身に」

「嫉妬の気持ちというのは、現実的な、客観的な条件みたいなものとはあまり関係ないんじゃないかという気がするんです。つまり恵まれているから誰かに嫉妬しないとか、恵まれていないから嫉妬するとか、そういうことでもないんです。それは肉体におけるし腫瘍みたいに、私たちの知らないところで勝手に生まれて、理屈なんかは抜きで、おかまいなくどんどん広がっていきます。わかっていても押し止めようがないんです。幸福な人に腫瘍が生まれないとか、不幸な人には腫瘍が生まれやすいとか、そういうととってありませんよね。それと同じです」

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2025年10月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹の東京奇譚集を読んだ。
読む前のイメージとしては、奇妙な話が読めるのかなと思っていた。
実際に読んでみると、奇妙な話というよりは、運命の不思議さについて語る話かと思ったが、最後の話は奇譚らしかった。
短い分量ながら、心にささるような話が多かったのは流石だと思った。
全体の評価としては、軽く読める割に、心を動かすコスパの良い本だと思う。

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2025年05月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

筆者の周りで起きた『世にも奇妙な物語』をまとめた5編からなる短編集

それぞれのエピソードの主人公に対して奇妙な出来事が(偶然)起こり、人生が動き出す、という話。

全体を通して「ありのままの自分を受け入れる」重要性を説いている話だと感じた。


(以下ネタバレを含む)
最も印象的だったのは最後の短編「品川猿」(タイトルだけで面白い)のラストシーン。
自分の人生に対してどこか一歩引いた目で冷めた感じで俯瞰しているような主人公なのだが、最後にはこれまでの人生を全て受け入れる事を決意し新たな人生を歩み始める。
自分のコンプレックスや辛い過去と向き合うことで人生が必ずしも好転するとは限らない。それでも自分の人生を生き抜こうとすることは単純な損得勘定を超えた高尚な感情だと思った。

本書は「奇譚物語」としているが、実はこれらの物語は各エピソードの主人公が自分という存在を受け入れた(もしくは受け入れなかった)から起こった必然性を帯びた物語なんじゃないか。

ここまでいろんな事を書いてきたけど、正直2周読んでも何を言おうとしているのかわからない部分が多い難しい小説だった。

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2025年05月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹氏2005年の作品。5篇からなる短篇集。
シュールで微熱的な、得も言われぬ魅力のある作品集だと思います。

・・・
一番のお気に入りはやはり、巻頭を飾る「偶然の旅人」。

ゲイの調律師が、オフの日に郊外のショッピングモールにある喫茶店で読書をしていて、とある主婦と出逢い、すんでのところで一線を越えそうに。勢いを殺すべく、その時点でゲイをカミングアウト。そこでより一層深く互いのことを話し、その女性にも不安や悩みがあることを知る。それをきっかけに、ふと、かつて仲がよかった姉を思い出す。

20歳そこそこでゲイのカミングアウトを切っ掛けに、結婚直前であった姉とは疎遠になってしまった。その虫の知らせのような思い付きから彼は十数年ぶりに姉に電話をかけ、その日に会うことに。

かつて語りきれなかったわだかまりや想い、すれ違いや若気の至りを吐き出し、再び関係性を築く姉弟。姉の夫や彼らの子どもたちとも仲良くできるようになった、という話。

・・・
私がいいなあと思ったのは、あたかもこれが「日常の奇蹟」みたいに見えたから。

単なる偶然かもしれない、たまにあることかもしれない、でもやっぱりなかなかあることではない素敵な偶然。そういうのが奇麗に、そして淡く描かれている点が良かったと思います。

それ以外の短篇は以下の通り。
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
「品川猿」

私がこれまで読んだ村上作品(長編)よりも、タッチも分量もライトで読みやすいかと思います。

・・・
ということで村上氏の短篇でした。

「だから何?」「どういう意味があるの?」と問い詰めると楽しめません。

そういう世界、そういう瞬間があったら面白いね、と、あるそうでない話・信じられないけどあるかもしれない話を楽しんでいただければと思います。

ポール・オースターの『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』が好みの方は楽しんでいただけるかもしれません。テイストがちょっと似ていると感じました。

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2025年01月21日

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