あらすじ
肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却……。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」など、見慣れた世界の一瞬の盲点にかき消えたものたちの不可思議な運命を辿る5つの物語。
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Posted by ブクログ
前口上で著者自身が出てくるなんて初、だな。すべて実話らしい…ホントかな。エッセイを読んでいる限りだとちょっと信じられないな。笑。
では一篇ずつ感想的なものを…。
①「偶然の旅人」…話の内容は関係なくて、語り口がその著者を表しているんだ。文体ってやつだね、これが。とても村上春樹らしい作品に仕上がってた。
②「ハナレイ・ベイ」…主人公は鮫に片足を喰いちぎられ溺死してしまった息子の母親だ。その喪失感を拭うため(?)、彼の命日前後に亡くなった土地に赴き——。ある人物たちに出会うことにより、少しでも心穏やかに過ごせるようになったのかなぁ…。
③「どこであれ〜」…マンション内から忽然と姿を消した夫を探してほしいと依頼に来た女性。それを無料で探す男(主人公)。これも摩訶不思議な話だった。消えた夫は階段の踊り場にあった鏡を通して「仙台」に行ったんだろうねきっと。ソファーに座り、階段を上ってくる住人をただ眺める。どこか文学的な感じがした。
④「日々移動する〜」…元証券アナリストの女性と、彼女に恋をする小説家の話。これは割とわかりやすいかな。その女性は墜ちて亡くなってしまったんだと思う。だから淳平(小説家)の元へ来ないのだ。
⑤「品川猿」…これも不思議な話だ。どっかの短編集で似たものを読んだ気がする…。見た目は「猿」だけど言葉を話せるから、もうヒトよね。笑。村上作品にはこういう変わったキャラクターが多く存在する。
で、本当に実話なのこれ?笑
俄には信じ難いんだが……。笑。
Posted by ブクログ
村上春樹さんの作品は、難しそうなイメージがあったけれど、短編集なこともあってか読みやすかった。
表現がとても知的で、堂々な印象を受けた。
「偶然の旅人」が中でも好みだった。
不可思議な話の中でも、こういう巡り合わせはあると、思っている。よく聞く言葉ではあるけど、縁ある人とは、離れてもまた繋がるのだと思う。
そして、「品川猿」に出てきた嫉妬に関する話は共感した。どれだけ客観的に見て恵まれていたとしても、周りを羨むばかりの人もいる。その一方で、周りから見て羨まれることは少なくても、十分に満たされている人もいる。隣の芝生は青いと思うばかりではなく、自分と向き合える人でありたいと感じる。
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「十年ぶりに再会して、姉と弟はそれぞれに、相手が十年ぶんの年齢を身につけていることを認めないわけにはいかなかった。年月はその取り分をきちんととっていくのだ。そして相手の姿は、自分自身の変化を映し出す鏡でもあった。」
「僕の中でどうしても納得のいかなかったいくつかの疑問が、それですっと腑に落ちた。なるほどそういうわけだったのかってね。それでずいぶんらくになれた。曇っていた眺めが、一瞬のうちに開けたみたいに。ピアニストになるのをあきらめて、ゲイであることのをカミングアウトしたことで、まわりの人は失望したかもしれない。でもわかってほしいんだけど、そうすることで僕はやっと本来の自分に戻ることができたんだ。自然なかたちの自分自身に」
「嫉妬の気持ちというのは、現実的な、客観的な条件みたいなものとはあまり関係ないんじゃないかという気がするんです。つまり恵まれているから誰かに嫉妬しないとか、恵まれていないから嫉妬するとか、そういうことでもないんです。それは肉体におけるし腫瘍みたいに、私たちの知らないところで勝手に生まれて、理屈なんかは抜きで、おかまいなくどんどん広がっていきます。わかっていても押し止めようがないんです。幸福な人に腫瘍が生まれないとか、不幸な人には腫瘍が生まれやすいとか、そういうととってありませんよね。それと同じです」