あらすじ
すべての酒飲みに捧げるアル中小説
「この調子で飲み続けたら、死にますよ、あなた」
それでも酒を断てず、緊急入院するはめになる小島容。
ユニークな患者たちとの会話や担当医師との対話、
ときおり訪れる、シラフで現実と対峙する憂鬱、
親友の妹が繰り出す激励の往復パンチ――
実体験をベースに、生と死のはざまで揺らぐ人々を描き、
吉川英治文学新人賞に輝いた著者の代表作が新装版になって再登場!
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Posted by ブクログ
「人はなぜ酒を飲むのか」
普段本なんてマンガくらいしか読まないが、この一文に強く目を惹かれ購入しました。
というのも僕自身がアル中一歩手前までいってしまい、痩せ細り、肛門周囲膿瘍なんていう恥ずかしい名前の病気になってしまったことがあるからです。
この物語の中では、たびたび主人公の中の「なぜ人は酒を飲むのか」が事細かに書かれていました。
アル中になるのは酒を「道具」として考える人間だ。とか、自分のことを言われているような気がしてドキッとしたり、フフッと笑ってしまったりする言葉が何度か出てきました。
アル中に対しての共感と、自分が歩んだかもしれない地獄を知って何とも言えないといった感覚とを交互に感じました。
僕の中の「人はなぜ酒を飲むのか」は「有意義な時間」と「無感」を求めるからだと考えていました。
酒を飲むことで、夜寝るまでの時間が幸福で有意義なモノに変わり、更にあれこれと考えてしまう脳を麻痺させる事ができるからだと。
自分の中に自分用の答えがあるのにも関わらず、他人が考える「なぜ人は酒を飲むのか」と照らし合わせ、その通り!と言ってもらうために読み始めたのかも知れません。
しかし、この小説はあくまでも主人公の考えを示しつつも、結局のところ自分で答えを仮定し、楔を打つ事で依存と付き合うしかないと言っていたように感じます。
この小説を読んで大きく考えが変わるということは無いかも知れませんが、依存や欲との考え方や付き合い方の例を示してくれるような気はします。
久しぶりに読書感想文を書いたような気分になって楽しかったです笑
Posted by ブクログ
アル中の主人公が病院で出会う人々を通して自身の症状と向き合い、生きることにする物語。
自分が体験したことの無い世界を追体験できるのはまさに小説の真髄だろう。
においや感覚を味わったことがないと書けないもので、リアルな経験をさせてもらえた。
程よい登場人物との距離感で、変に引き寄せられることがなく押し付けられないのですんなり入り込めたように思う。
Posted by ブクログ
あらすじも読まずになんとなく読み始めたらアル中患者の入院記録でたまげた。
しかし、話の展開が面白いのでついつい夢中で読んでしまった。
主人公の「死や破滅を追い求める」性質にはずっと同族嫌悪を感じてイライラしていたので、最終的にはそういったものから主人公が離れられて良かったと思う。
Posted by ブクログ
現代の出来事を描き、過去を振り返る構成がメイン。
時々、アル中、シャブ中、そしてそれを改善するプログラムなど、
学術研究的な記載があるので知的資料にもなる
(ただし、医学科学は進歩するので情報が古い可能性はあるので鵜呑みは注意)
出来事自体はそれほど展開しない。
起承転結はあるが、想像だにしない方向にはいかないので
大筋のプロットで言えば誰でも考えれそうなもの。
なのだけど、(著者経験による)アル中の解像度はもちろん、人物の解像度が高い。
文体の巧さがあって、何も起きてないのに、それでも引き込まれる強みがある。
少しだけ劇的なシーンはあるけど、ジントニックのライムにも満たない。
人間の生々しさ(弱さの中に魅力がある)と、
文体で、ここまで良くなるのか。という小説。
Posted by ブクログ
アル中患者として入院した主人公・小島容の視点で、酒におぼれる人生の哀しみや滑稽さ、病と向き合う人々の姿をユーモラスかつ繊細に描く作品。
医療用エタノールを隠れて飲むアル中だったり、平気で患者と殴り合う医者だったり、「本当にいそうだけど、絶対にいなさそうなやつ」の描き方が天才的に面白かった。主人公の「アル中本を肴に酒を飲む」という設定もバカすぎる、、
アル中によって引き起こされる病気や弊害、使用される薬、海外での症例、家庭環境とアル中の因果関係など、アル中にまつわる幅広い学識が生々しく紹介される。
自分自身もお酒が大好きなので、日常生活を見直さないといけないと痛感させられた。
でも、そんな全世界のアル中たちを突き放すだけでなく、むしろどこか優しく寄り添ってくれる文章で、とても心地よかった。
ラストはちゃんとミルクを頼んだが、主人公はこれからどうなることやら、、
軽やかな文章のためか、重いテーマでも読後感が重くなりすぎず、不思議な切なさと温かみを感じることができた。
Posted by ブクログ
私自身はお酒もタバコもギャンブルもハマらないタイプで、「きっと依存してしまう人には何か理由があるのだろう」たうっすら思って生きてきたけど、少しだけそういう人の人生が垣間見れた気がする。
アル中になるかならないかは「好きか嫌いか」の問題でなく「必要か不必要か」である、というのはほかの依存にも言えることだと思う。好きだからそうしているのではない、という時点でそれは依存だ。
物語を通して、さやかの思いを知る度に、看護師の友人から聞く話を思い出した。この世は理不尽なことばかりで、死にたい人が生きて、生きたい人が死んで、生きていてほしい人が死んで、そういうことばっかりで、「あたしは、自分とおんなじ人たち、生きようとしてても運悪く死んでしまう人たちの中で生きたいの。」というさやかの台詞は悲しいぐらいに現実的だけどまっすぐで素敵だなと思った。