【感想・ネタバレ】《英雄》の世紀 ベートーヴェンと近代の創成者たちのレビュー

あらすじ

ベートーヴェンはナポレオン戴冠の知らせを聞いて作曲中の第三シンフォニーの楽譜を床にたたきつけたといいます。「ボナパルト」なるタイトルを持つはずだったこの交響曲は標題をあらため、英雄交響曲《シンフォニア・エロイカ》として発表されました。ナポレオンに落胆したものの、革命の時代に終止符をうつ「英雄」を待望していたのです。
ドイツ人作曲家ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827年)の生きた18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパは、革命の進行する激動の世紀でした。この時代の人々にとって、自前の代表者をもちえないドイツですら、「英雄」とは実在する観念でした。どのようにして英雄像はリアリティを持ったのでしょうか。
馬上のナポレオンを目撃したヘーゲル。皇帝となったナポレオンに謁見したゲーテ。
ナポレオンという「英雄」は幻想にすぎなかったのか。ベートーヴェンの生涯をたどりつつ同時代の偉人たちをとおして、「英雄の世紀」を臨場感あふれる筆致で描きます。
西洋史の泰斗が達意の文章でおくる近代創成のロマン!!

【本書の内容】
はじめに
第一章 英雄(エロイカ)の世紀
第二章 啓蒙の賢人から普遍の天才へ
第三章 啓蒙都市民の誕生
第四章 ヨーロッパ国際関係のなかのドイツ
第五章 ナポレオン革命
第六章 ナポレオン・ショック
第七章 市民と英雄
第八章 古典主義からロマン主義へ
第九章 静穏の一八二〇年代
主要参考文献
学術文庫版あとがき
関係年表

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Posted by ブクログ

神聖ローマ帝国三十年戦争は新旧キリスト教の覇権争いであったが、散発的戦闘が長期化し、なんら実りなく講和に至った。帝国の権威は大いに失墜し、代わりにオーストリアが台頭した。フリードリヒ大王の下国力を増やしたプロイセンは、オーストリアと王位継承戦と七年戦争を戦った。
仏革命後、18世紀後半からのヨーロッパは英雄の時代である。古い貴族の支配を打ち壊し、個人の才覚で市民を解放する英雄である。その時代の目撃者、ゲーテ、ベートーベン、ヘーゲルもまた、個人の人格の発露を全面に押し出す創作を行なった。
天才とは衆愚には思いも付かない価値を初めに発見するものである。ナポレオンは軍事的天才であった。
皇帝即位後、民法典制定、初等教育の拡充、都市整備、国民軍の規律化等の成果を上げた。
その頃、神聖ローマ帝国帝国は皇帝退位により消滅した。元々有名無実化しており、800年の帝国の歴史はあっけなく終わった。
ナポレオンの軍下に落ちたプロイセンは絶対主義的国家を維持できず、民主主義、自由を基調とする改革を行わざるを得なかった。
スペイン内乱鎮圧に苦戦しナポレオンの没落が始まった。ナポレオン戦争の後始末としてウィーン会議が開催、会議は踊るされも進まずと評される。各国は自国の既得権復活のみに執着し無為な舞踏会ばかりが行われた。仏革命以降の改革は旧態に戻された。
しかし社会構造の変化は不可逆的に進んでいた。七月革命により再び市民革命がなされたように、ウィーン体制は綻びを見せていった。

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2022年03月27日

Posted by ブクログ

本書「英雄の世紀」と言う時の、英雄とは誰のことか?
副題に「ベートーヴェンと近代の創世者」とあるように、ベートーヴェンがその一人であることは間違いない。
表紙には、ベートーヴェンと並んで、ナポレオン•ボナパルト、ヘーゲル、ゲーテの肖像が掲げられている。
「英雄たち」とは、彼らのことに間違いない。
らは同時代人であり、この英雄たちが近代を生み出していったと言うのが、著者の見立てだ。
とは言え、本書は講談社の『ベートーヴェン全集』に連載されたものだ。
だから、英雄の中でもベートーヴェンを中心に激動の時代を描いた「ベートーヴェンとその時代」と言っても間違いではない。
激動の時代を、ベートーヴェンを通してみる。
ついでに、ベートーヴェンを時代ごとに聴きながら、読む。
ダブルで美味しい、とはこのことだ。

重要な年代は1770年。
時代は、1770年から1800年までの30年間(18世紀「旧体制時代」)と、1800年から1830年までの30年間(19世紀「新体制時代」)で、完全に転換した。
これはベートーヴェンの生涯とほぼ一致する。
つまり、ベートーヴェンは、二つの世紀、二つの体制(新旧の体制)を生きた、ということになる。

1770年はフランス「政治革命」とドイツ「精神革命」の濫觴の年だと著者は言う。
何故なら、それまで敵対していたブルボン家とハプスブルク家の婚姻の年であり、ベートーヴェンとヘーゲルの生まれた年だからだ。

それから23年後、フランス革命の渦中に、ブルボン家のルイ16世とハプスブルク家のマリー•アントワネットは断頭台の露と消え、革命の嵐の中から英雄ナポレオンが登場してくる。
そして、ナポレオン無くしてはベートーヴェンの活躍もヘーゲルの観念哲学も生まれなかった、という関係がある。
政治革命と精神革命は深く繋がっていたのだ。
政治的な後進国のドイツが、精神革命では世界をリードしたのもナポレオンという英雄の登場がもたらしたものなのだ。

従来は、政治的な歴史が中心に語られ、文化的歴史は、それに従属する位置しか与えられなかった。
本書では、政治的歴史と同じ比率で文化的歴史が語られる。
それを同じ土俵で語るために選ばれたのが「英雄」という用語なのだ。

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2025年03月16日

Posted by ブクログ

楽しく、高揚した気分で読めるような、大げさともとれる表現のつながりが、ベートーヴェンのシンフォニーにような効果をあげる・・・ことをねらった本だと思う。フランス革命から19世紀にいたる、ヨーロッパの歴史を堪能できる。

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2021年05月13日

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