【感想・ネタバレ】人間の土地へのレビュー

あらすじ

世界第2の高峰K2に日本人女性として初めて登頂した小松由佳。標高8200メートルでビバークを余儀なくされた小松は、命からがら下山し、自分が大きな時間の流れの中で生かされているにすぎないと知る。シリア沙漠で出会った半遊牧民の男性、ラドワンと恋に落ち、やがて彼の大家族の一員として受け入れられる。平和だったシリアにも「アラブの春」の波は訪れ、百頭のラクダと共に長閑に暮らしていた一家も、否応なく内戦に巻き込まれていく。徴兵により政府軍兵士となったラドワンだが、同胞に銃は向けられないと軍を脱走し、難民となる。しかし安全を手にしたはずのヨルダンで、難民としての境遇に悩み、再び戦場であるシリアに自らの生きる意味を求めようとする。二人の目を通し、戦場を内側から描いたノンフィクション。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『ラドワンはシリアで何を見たのだろう。その後、幾度となく尋ねたが、彼は決して語ろうとしない。記憶を封印し、消し去ろうとさえしているようだった。・・・確かなのは、そこで彼が、耐えがたい絶望を経験したことだ。
 ・・・・・
「結局、政府軍も反体制派も同じだった」』

 NHKで著者である小松由佳さんのインタビュー番組を拝見して、彼女に魅了され、『人間の土地』を是非とも読みたいと想う。しかし、テレビの" 戦争・難民 " などのニュースもあり、心が重く、しばらく頁を開くことができなかった。
だが今は、様々な想いを味わい、涙しながらも読み進めて、本当に良かったと想う。

わたし自身を大きく揺さぶる。自分自身を顧みる。

『人はなぜ、何のために生きるの』
『 " 人間の命の意義 " 』
『相手を理解できないということを理解することの大切さを学んだ。』
『シリアでは、家族や友人とのゆとりの時間(ラーハ)こそが人生の価値でもあった。だが日本では、ゆとりではなく、夢の実現や人間的成長に価値が置かれている。』

『自分の文化にのっとって相手を判断しよえとするから、相手の本質を見誤ってしまうのだ。』

『土地から与えられる人間のルーツというものは、もっと根深いものではないだろうか。私はことあるごとに、ラドワンが" 砂漠の人 " だと捉えることで、悶々とした思いを払拭するに至った。民族的背景の違いを、相手の尊厳として認めることで、私たち夫婦は共存しようとしている。』

『私に " 命が存在することの無条件の価値 " を気づかせてくれた。
人間がただ淡々とそこに生きている。その姿こそが尊い。』
彼女の心からの結びの言葉が続く。
淡々と綴られる言葉の重みを、涙とともに感じる。
読み終えた今も、頬をつたう。胸が震えた。

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2022年12月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

TRANSIT VOICE~旅するポッドキャストの#7
を聞いて、小松さんの人生の話に魅了されて購入しました。

全体を通して思ったのは、小松由佳さんの生命力の強さ。ポッドキャストを聞いていても思ったけれど、文章を介して、より彼女のパワーが伝わってくる。


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わたしには同じに思えても、生命に溢れ四季もある砂漠の美しさや、ラクダとの戯れ。お茶や食事をゆっくり時間をかけて囲み、家族や友達とゆっくり休息をとること、「ラーハ」の時間を多くもつ人生を幸福だと捉える、人々の暮らしの様子が鮮やかに描かれていた。


前半の彼らの暮らしが鮮やかだった分、シリア内戦勃発後が余計に辛い。「難民」とひとつに括られる存在だけれども、彼らにも、それまでの人生で紡いできた文化や価値観があるから、新しい土地に適応するのは本当に大変だと思うし、そもそも、難民キャンプでこの先の希望が見えずに自国に戻っていく人も沢山いることを初めて知ったのだけど、その選択をする人々の気持ちは分かるかもしれない。

あと、シリアの市民が、どういう動機でISに参加するのか昔は、不思議に思っていたけれど、そこも描かれていた。

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また時間を空けて読みたい。



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2021年06月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 冒頭のヒマラヤ登山の手記がとてもインパクトが強かった。以後も登山活動を中心としたドキュメントになるのだと思ったらそうじゃなかった。
 内戦によって住む場所を破壊され、命の危険にさらされながらさまようシリアの人たち。求めるものはモノでもお金でもない家族とのただただ平和な生活。 
 独裁体制を固持し、民衆を顧みないアサド政権。そこに宗教観の違いや隣接する国の利権、利得に翻弄され続ける国に未来はあるのか。
 2025年、アサド政権が崩壊し、状況は一気に変わりつつある。
 ただ、このドキュメントはその5年前に書かれているので、重く先の見えない状況下で人々の求めているものは何か。人生で、生きる上で本当に大事なことは何かを問い続けて終わっている。
 実はその答えはこの本の中ほどで著者が述べている。それは「人間は、最低限の生活が保障され、安全を手にしても、それだけでは生きるために十分でないのだ。大勢のシリア人が、いったん国を離れながら危険を顧みず、シリアへ帰るのは、そこが住み慣れた土地だからというだけでなく、人生を自ら選択する自由があるからではないだろうか。…日々の選択によって自分の生があるという実感。それこそが、“人間の命の意義”なのではないだろうか」
 汚職と賄賂にまみれてそれを受け入れていかないと警察もあらゆる役人、軍人も動こうとしないし、窃盗を働き、その犯人が逮捕されても盗まれたものは返ってこないばかりか、警官がその盗品を金に変えて自分のものにするという理不尽さ。それがシリアという国柄なのだ。
 
 淀みない整然とした文章でずんずん読める。アサド政権が崩壊した後のこの人のドキュメントがあればぜひ読んでみたい。
 

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2025年05月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「君はそう書かれていたらそのまま信じるのか?」
「今日は泊っていきなさい」=別れの挨拶

パルミラ遺跡の盗掘
 先陣が残したものを見つけて生活の糧にする

シリア、
この国では先に警察を味方につけたほうが正義になる。 真実ではなく利益。
 軍隊でも。秘密警察でも。
 賄賂で自由と安全を買う。
 越境ビジネス 2万円≒シリアの平均月給

ゆとりの時間ラーハが人生の価値
 自給自足の放牧業 食費は収入の1/10
 税金は払わない、電気水道は自分で引く
 医療費教育無料、ガス石油資源豊富、

ハラール
 神に許された屠畜か? ≠日本の肉 =すべての魚

IS
 無差別空爆を行う政府軍とは異なり解放を説き、
 支配、占領していった。

歳をとった木ほど土が違えば生きるのが難しい。
文化はすでにあるものを継承する要素の方がはるかに強い。

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2022年05月20日

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