あらすじ
戦時中、万感の思いをこめて「文明論之概略」を読みつづけた著者が、現代の状況を見すえつつ、あらためてこの書のメッセージを丹念に読みとり、今に語りつぐ。明治八年、福沢諭吉四一歳のときのこの著作は、福沢の最高の思想的作品であるにとどまらず、日本の前途に対する強烈な危機意識に貫かれ、時代を超えて今日なお、その思想的衝撃力を失わない。数年前、岩波文庫本をテキストに、二十数回にわたって行なわれた読書会での講義をもとにした書下し。
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Posted by ブクログ
大学の先生から貸していただいた本。
何日もかけて、やっと上を読み終えることができた。
福沢諭吉さんの『文明論之概略』を、
著者の丸山真男さんが解説を交えて読み進めていく本。
丸山さんが冒頭で言っているように、
この本で文明論之概略を全て網羅しているわけではないので、
これを読んだだけでその全てを理解した気になってはならない。
内容だが、序の「古典からどう学ぶか」はなかなか面白かった。
丸山さんが言っているように、日本人の古典離れは書店に行っただけで分かる。
堂々と目立つように飾られているのは「~の方法」とか、「~だけが知ってる・・・のコツ」とか、
一目見ただけで目を引くようなものが多い。中身があるのかは、本にもよるが。
その一方で、古典のほうは角っこのコーナーにちょこんと置いてあるのみ。
情報化社会を上手く表しているような陳列だと思う。
「諭吉さんが今の社会を見たら、どう思うだろう?」
という気持ちを持って読んでいったが、
上手いこと諭吉さんの批判することに当てはまっている部分が多いなと感じた。
特に、諭吉さんの言う『惑溺』は、現代においても真剣に受け止めるべきポイントであると思う。
資本主義である以上仕方のないことなのかもしれないが、
ブランドに惑溺してそのものの『働き』を考えることを忘れ、
マニュアル化によって相手の『立場』ばかりを考えてしまって、相手の中身を忘れてしまう。
それと似たように、何かあると「役人が悪い」と(私も)言ってしまうが、
実際には役人が悪いのではなく、その役人の働きが悪いという本質も忘れてしまう。
役人という立場が生まれたのも社会を良くするためであって、
それらの働きが悪いと言うことは、その役人を生み出している私たちのせいでもある。
諭吉さんの主張する事柄は、私も反省すべき点をズバズバと言ってきたので、
読んでいて心が痛いと同時に、非常に気持ちがよかった。
そんな諭吉さんの主張を分かりやすく説明し、本にまとめた丸山さんには、
本当に感謝だ。
何回も読みたい本であるし、中と下もどんどん読んでいこうと思うし、
諭吉さんの下敷きにもなっているギゾーやバックル、J.S.ミルの著書もぜひあたってみたい。
Posted by ブクログ
福沢諭吉の文明論之概略を丸山真男がかみ砕いて解説してくれている。文明論之概略自体それほど難解な本だとは思わないが、読み返す手間を省くという意味ではいいと思う。こういう本をもっと前からしっかり読み込んでおけば良かった。
Posted by ブクログ
福沢諭吉の「文明論之概略」を読む読書会での講義を基に書籍化された本(全3巻)。
解説を交えながら「文明論之概略」の要点を論じており、講義内容を基にして書かれたもののため、「日本の思想」よりは丸山入門者としては非常に読みやすい。
本書はそもそも古典む意味は何なのかということについて始まり、幕末・維新期を中心に日本人の精神構造について批判し、いかにして一国の独立、文明の進歩をなすのかということについて論じられている。
思想面で日本の近代化に貢献した福澤もたいしたものだが、福澤の思想について論じられる丸山も凄いと感じた一冊。
少しかじって読んでみるだけでも得られるものは大きいので一読の価値はありなのでは・・・。
Posted by ブクログ
丸山真男
「 文明論之概略 を読む 」上巻
明治維新直後の旧体制派と近代進歩派の不毛な議論を避けるため、議論の目的、文明の定義や進歩の意味など 福沢諭吉の根本思想を捉えながら、交通整理している。
福沢諭吉の根本思想
*人事の進歩は多事争論の間に在り〜人間交際や異論への寛容であるべき
*議論の本位は 文明に向かって進むべき〜議論の極端主義と損得判断を避け、表裏一体の両面性を捉える
*歴史の無限の彼方に「文明の極致」という完成状態を予想している〜啓蒙の進歩の思想を受容
*対立や闘争を歴史的進歩の契機とみている〜競争や闘争により人間は向上する
文明の定義
*文明は 人の身を安楽にして、心を高尚にする〜文明とは 結局、人の智徳の進歩である
Posted by ブクログ
【「文明論之概略」を読む 上】
丸山真男著、岩波書店、1986年
早稲田大学の5年生だった時(間違いではない)に、北大でも教鞭を取られていた坪井善明教授の大学院のゼミに参加させてもらっていた。
YOSAKOIソーラン祭りの実行委員長を務め終えて、いい気になって早稲田に帰って来た時に、札幌でお世話になっていた坪井先生に挨拶に行ったら、「荒井は、いろいろと動いて活躍していい気になっていると思うが、これから世界に出て行けば、君くらいのことをしているのなんて大したことがないんだ。世界では皆、学生時代には猛勉強してマスターもドクターも持っている人たちが、活躍している。克己心をもってちゃんと勉強しろ。」と怒られた。
そうして、大学院生のゼミに参加することになった。
北大でも早稲田でも「鬼の坪井」と異名を取った人だけある。
その時に読んだうちの一冊が本書。
言わずと知れた福沢諭吉の「文明論之概略」を、日本の政治思想史の泰斗である丸山真男が解説しながら読み進めていくというスタイルを取っている。
東大法学部の丸山ゼミに参加している如くだ。
およそ20年ぶりに読んで思ったのは、
・明治8年に「文明論之概略」を上梓した福沢諭吉の壮絶な危機感だ。
明治維新はなったが、このままでは国の独立が危うい、と。
なぜなら「一身独立して、一国独立する」のに、日本は人民に独立の意識がなさすぎると警告している。
そのためには、
「古習の惑溺(わくでき)を一掃し、西欧に行われる文明の精神(人民の自由と独立の気風)を取る」
ことを福沢は力説している。
惑溺とは「なんのためにあるかという本来の目的を忘れてしまい、手段が自己目的化してしまっている状態」のことであり、まさにここ最近、ずっと問題意識を持っていることだった。
学校という組織は「手段が目的化していて、組織がカチンコチンになっていることがあまりに多いのではないか」と思っていて、同僚の教員たちにこのところ、そこを気をつけようね、と話したばかり。
ーー
上に立派な為政者がいれば全てが良くなるという為政者本位の儒教の考え方がそれ(「治国平天下」という当時の支配的観念)で、福沢が力を込めて批判するにもかかわらず、そういう「お上」の政治に世の中のことを全て期待する風潮は非常に強く、儒教がかつての力を失った後も衰えてないのです。
ーー
岩波新書だからといって、簡単な本ではない。
中下巻合わせると700ページを越す大著で、沢山の赤線が20年前に悪戦苦闘した様を物語っている。
あの時も今もどれだけ理解して血肉になったのかはわからないけれど、坪井先生に叱られなければ、出会うことがなかった。
福沢も丸山も、そして坪井先生も大学人だ。
本当の大学には無限の可能性があるのだと感じたし、それを見いだせるかどうかは、自分自身でしかない。
まさに、「一身の独立」だ。
#優読書
Posted by ブクログ
<メモ>
・・・政治家や実業家などの分野でも、
明治の元勲と言われる人は圧倒的に天保生まれが多い。
西郷だけがちょっと年長で文政10年生まれですが、
大久保、木戸をはじめ、山県有朋、大隈重信、伊藤博文
井上馨、松方正義、黒田清隆などもみな天保生まれです。
福沢は、これら天保の老人世代に属している。
金甌無欠とは、開闢以来、国体を全うして外人に政権を奪はれたる
ことなきの一事に在るのみ。故に国体は国の本なり。
政統も血縁も之に従て盛衰を共にするものと云はざるを得ず。
・・・まず「惑溺」一般の説明をします。あるものを使う本来の目的
をどっかへ行ってしまって、そのものの具体的な働きにもかかわらず
「もの自体」が貴重とされる。そういう思考傾向を惑溺というのです。
この章の結びの節に「物の貴きに非ず、其の働きの貴きなり」という福沢哲学の基本命題が出てきます。(p198)
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
『文明論之概略』は、福沢諭吉の気力と思索力がもっとも充実した時期に書かれた最高傑作の一つであり、時代をこえて今日なお、その思想的衝撃力を失わない。
敢えて「福沢惚れ」を自認する著者が、現代の状況を見きわめつつ、あらためてこの書のメッセージを丹念に読みとり、今に語りつぐ。
読書会での講義をもとにした書下し。
[ 目次 ]
序 古典からどう学ぶか-開講の辞にかえて
第一講 幕末維新の知識人-福沢の世代
第二講 何のために論ずるのか-第一章「議論の本位を定る事」
第三講 西洋文明の進歩とは何か-第二章「西洋の文明を目的とする事」一
第四講 自由は多事争論の間に生ず-第二章「西洋の文明を目的とする事」ニ
第五講 国体・政統・血統-第二章「西洋の文明を目的とする事」三
第六講 文明と政治体制-第三章「文明の本旨を論ず」
[ 目次 ]
[ POP ]
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読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
Posted by ブクログ
ようやく重い腰をあげて開いてみたら、本編の前に、序章の「古典からどう学ぶか」が興味深い。
日本における古典離れの指摘から、何故古典を読むべきなのか、どういう心がけで読むべきかという話。その過程で取り上げられる現代の日本人の行動心理やパターンが、ほとんど古典を読んでいない自分でも(むしろ読んでいないから?)、なかなか身につまされる。
無理に肩に力を入れて本と向き合う必要はないと思うけど、たまには、この人の言うことを素直に聞いて、気を引き締めて読んでみようと思う。
本編については、まだ上巻で折り返してもいないので、また読み終わってから振り返りたい。