あらすじ
長年にわたって近代日本の実業界のリーダーとして活躍した渋沢栄一(1840-1931)。経済政策に関する積極的な提言を行う一方で、関わったおびただしい数の会社経営をどのように切り盛りしたのか。民間ビジネスの自立モデルを作り上げ、さらに社会全体の発展のために自ら行動しつづけた社会企業家の先駆者の足跡を明らかにする。
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Posted by ブクログ
内容の深さは、鹿島茂著の渋沢栄一氏の伝記、「算盤篇」「論語篇」の方が充実している。本書は、その内容を短縮したものであるため、具体的な渋沢の動向は省略されている。
その分、渋沢がどのように日本経済界に貢献してきたかに着目し、その点に比重を置いて説明している。例えば、渋沢がどのように企業と関係したかを1.社長として、2.取締役や監査役などとして、3.大口投資家としてなどという風にその関わり方から分析している。実際、約170社の企業経営に携わった渋沢だが、全てを経営した訳じゃなく、渋沢の大きな役目は、①株主と経営側との仲介役と、②役員の選定に大きな役割を果たしたと本書では述べられている。明治初期では株主の存在が重視されており、その株主達と、経営陣側との折り合いをなす役割は、大株主であるとともに、名実ともに名の知れた渋沢の存在が不可欠だったようだ。また、自身のネットワークを活かし、他社の経歴から最適な人材を適用する能力に長けていたようである。そうして会社経営を軌道に乗せていき、多数の企業経営に参画することが、渋沢の考えだったようだ。
また、「社会事業」への取り組みも、もちろん述べられている。「協調会」による労働問題への問題意識や、「養老院」での孤児や障害児童への就労支援などは有名だが、「帰一協会」の存在に、私は興味を持った。「国民の思想」を統一すべく、異なる宗教の相互理解を深めるための取り組みであったが、これは失敗に終わる。しかし、戦時期にあり、強い国を作るためには国民の健全な精神が必要とし、早くから問題意識に取り組んだその視野の広さには驚くべきものがある。これが軍によって、「お国のため」とかいう間違った精神へと導かれるのは残念だが。
上記に述べたように、本書は渋沢が「どのように企業と関わったか」を知るためには、とても勉強になる一冊だと思う。