あらすじ
長年にわたって近代日本の実業界のリーダーとして活躍した渋沢栄一(1840-1931)。経済政策に関する積極的な提言を行う一方で、関わったおびただしい数の会社経営をどのように切り盛りしたのか。民間ビジネスの自立モデルを作り上げ、さらに社会全体の発展のために自ら行動しつづけた社会企業家の先駆者の足跡を明らかにする。
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Posted by ブクログ
渋沢栄一 社会企業家の先駆者
著:島田 昌和
渋沢栄一は、驚くべき学習能力の高さを示して、農民の子から武士身分を獲得し、明治新政府にあっても経済官僚として高い能力を発揮する。しかし、権力闘争の渦巻く中、政官界よりも、「官尊民卑」の打破を掲げて「民」にあって自立できる民間経済社会の建設を我が仕事として選択していった。
日本の近代化に必要不可欠な多様な会社を立ち上げ、必要とされる局面では誰よりも責任を背負って会社の立ち上げ、運営を主導した。
本書の構成は以下の5章から成る。
①農民の子から幕臣へ
②明治実業界のリーダー
③渋沢栄一をめぐる人的ネットワーク
④「民」のための政治を目指して
⑤社会・公共事業を通じた国づくり
日本のインフラ基盤となった多くの企業を立ち上げ、運営すると共に、社会・公共事業に600件以上に関与してきた渋沢氏。
私欲ではなく、日本の国益・日本の将来の国益をしっかりと見据えた形で手掛けられ、亡き今でも築かれた企業や事業は我々の日常生活になくてはならない存在として役立ち続けてくれている。
木ではなく森という全体観や今だけではなく将来にわたって延びる時間軸をしっかりと意識し、富を我がものだけにせず、繁栄を持って利害関係者と共有する仕組みを信念を持ってつくっている。
その時代だから出来たことではなく、渋沢氏だからこそできた偉業である。
渋沢氏の言葉として紹介されていた「世の中のことはすべて心の持ちよう一つでどうにでもなる」という一節。本書からその真髄を感じ取ることができた。
渋沢氏のような大きなことまで叶えることは難しくとも、少しでも世のため、人のため、仲間のためと自分の幅を広げながら世に貢献していきたいと思わせていただく大義を学んだ一冊であった。
Posted by ブクログ
個人的には、渋沢の伝記的な部分はおおよそ押えているので、第1・2章は飛ばし読みをしていました。渋沢が500の会社、600の社会事業に関わったなら、一人で全部できるわけがないので、周囲の人との関係の中で進めていったのは容易に想像がつきます。その意味で、第3章が僕はいちばん興味深かったです。知っている名前も多いですが、知ってはいても渋沢と関係していたことを知らない人もいたり、関係があるのは知っていたけどそこまで深い関係とは知らなかった、という人もいて、明治時代の財界人物相関図を整理しないとわけがわからなるな、と思いました。
第4・5章は、渋沢の思想を渋沢の行動から読み解く部分があり、興味を持てる部分も多かったです。
『-社会企業家の先駆者』というサブタイトルからすると、もっと絶賛しているのかと思っていましたが、批判するところはしていますしたし、挫折したこと、考えがブレていたことなどにも言及していて、新しい視点のヒントにはなりました。
<目次>
はじめに
第1章 農民の子から幕臣へ~才覚を活かせる場を求めて
第2章 明治実業界のリーダー~開かれた経済の仕組みづくり
第3章 渋沢栄一をめぐる人的ネットワーク
第4章 「民」のための政治をめざして~自立のための政策を提言
第5章 社会・公共事業を通じた国づくり
Posted by ブクログ
渋沢というと合本主義(株式会社)。当然、関わった会社ももっぱら株式会社組織にこだわったように思うが、意外にも合資会社や合名会社、そして匿名組合とさまざまな会社組織を事業の目的や規模等々によって使い分け、柔軟に対応していたことが指摘されており、興味深い(76-78ページ)。また第3章で詳述されている渋沢をめぐる人的ネットワークについて、龍門社や同族の役割を明らかにしたことも著者のオリジナルな貢献として特筆すべき点であろう。
自分自身の関心からいえば、第4章の渋沢の政策に関わりに関する部分が面白かった。通常、日清戦後期の外資導入政策については著者も指摘するように日露戦後期の本格的な外資導入時代に比べて叙述が薄い。しかし、本書では渋沢の当該問題への関わりを通じて、1つ筋の通った説明がなされている。
民間の実業家としての渋沢が、経済政策や公共事業・社会事業に積極的に関わり、民間の立場から国家社会の構想を実現しようとしたという意味で、本書の副題になっている「社会企業家の先駆者」と直接リンクする部分は第4章と第5章であるように思うが、第4章と第5章の内在的関連がややはっきりしないように思った。それぞれの章の叙述は明快で説得力に富むものであるだけに、やや残念。
あとは、ないものねだりかもしれないが、財界世話役としての渋沢の活動、あるいは渋沢が強く関与した業界団体の圧力団体としての機能についてもう少し詳しい叙述が欲しかったところである。
Posted by ブクログ
近代経営学の専門家による渋沢栄一が行った施策について書かれた本。渋沢を取り巻く人的ネットワークや教育・社会事業など、取り上げられている項目については、詳細な調査に基づいており内容が濃い。ただし、渋沢の全体像は捉えにくく、枝葉は詳しいが幹が見えない感がある。
また、近代の欧米を中心とした国際関係論や安全保障政策についての知識が欠如しているように思え、記述に違和感がある箇所があった。印象的な記述を記す。
「渋沢は、「物質的な喪失はいくらでも再建できる、いま大切なのは、物的な豊かさに目を奪われて、失いかけていた公共心や利他心を今ここで再度呼び戻すことができるかだ」と人々に訴え続けた」p217
Posted by ブクログ
日本の資本主義経済の開祖、農民から政府高官を経て経済界の第一人者となった渋沢栄一の本。
幕末、徳川慶喜に仕え、渡欧しヨーロッパを視察
新政府では井上馨のもとで大蔵省の役人として日本の経済界の基盤をつくり、野に下っては日本銀行設立、またあらゆる企業を育成した。
なかなか一言では語れないほど、多くの事業を発展させてきた御仁です。経済文化あらゆる分野に着手しておられる。。。。純粋に、寝る暇とかあったのかな?本当に精力的に働いてらっしゃいます。普通の人間ではないのはその経歴を鑑みれば一目瞭然。
ただ、ほかの政府高官と異なるのは、出世欲や権力への執着がまるで無く、ただ国に対する親切心があるのみ。なんて純粋な人なんだろう…
こんな人だけど井上馨の手足になって働いてたんですね(ww)まあ馨も出世欲はほぼ皆無だけど。。
おもしろかったのは、元勲に対する人物評。
木戸孝允への評価が、やたらめったら高い。渋沢さん、木戸さんのこと大大だ~い好き(はーとv)だったんだねww
対する大久保利通への評価の、低いこと低いこと・・・wwでもさらに下を行くのは、江藤さんww
なんてーか渋沢さんの性格がちょっとわかったわ。
平和論者で、漸進主義で、純朴で、「性格イイ人」なんだな=
Posted by ブクログ
なじみの薄い分野の記載が多く、
入門書としてはやや難しい内容であると感じたが
明治期に渋沢の果たした役割の大きさと
その人柄に興味を持つことができた。
機会があればより深く彼の生涯に触れてみたい。
Posted by ブクログ
内容の深さは、鹿島茂著の渋沢栄一氏の伝記、「算盤篇」「論語篇」の方が充実している。本書は、その内容を短縮したものであるため、具体的な渋沢の動向は省略されている。
その分、渋沢がどのように日本経済界に貢献してきたかに着目し、その点に比重を置いて説明している。例えば、渋沢がどのように企業と関係したかを1.社長として、2.取締役や監査役などとして、3.大口投資家としてなどという風にその関わり方から分析している。実際、約170社の企業経営に携わった渋沢だが、全てを経営した訳じゃなく、渋沢の大きな役目は、①株主と経営側との仲介役と、②役員の選定に大きな役割を果たしたと本書では述べられている。明治初期では株主の存在が重視されており、その株主達と、経営陣側との折り合いをなす役割は、大株主であるとともに、名実ともに名の知れた渋沢の存在が不可欠だったようだ。また、自身のネットワークを活かし、他社の経歴から最適な人材を適用する能力に長けていたようである。そうして会社経営を軌道に乗せていき、多数の企業経営に参画することが、渋沢の考えだったようだ。
また、「社会事業」への取り組みも、もちろん述べられている。「協調会」による労働問題への問題意識や、「養老院」での孤児や障害児童への就労支援などは有名だが、「帰一協会」の存在に、私は興味を持った。「国民の思想」を統一すべく、異なる宗教の相互理解を深めるための取り組みであったが、これは失敗に終わる。しかし、戦時期にあり、強い国を作るためには国民の健全な精神が必要とし、早くから問題意識に取り組んだその視野の広さには驚くべきものがある。これが軍によって、「お国のため」とかいう間違った精神へと導かれるのは残念だが。
上記に述べたように、本書は渋沢が「どのように企業と関わったか」を知るためには、とても勉強になる一冊だと思う。
Posted by ブクログ
島田昌和 『渋沢栄一』(岩波新書)
明治期の実業界の顔とも言える渋沢栄一についてまったく知らないと最近気付いてためしに読んでみた本ではありますが…実業界はやはり私には苦手です^^;
まず数字がだめ、機構がだめ、勉強すればわかるのでしょうが、どうしてもまだなじめません。
ついでにいうと、渋沢についてはあまりわからないまま、むしろ周辺の人間についてわかった気がします(笑)
浅野さんなどはよく見かけるので、彼が出てきたところばかり熱心に読んでました、すみません。
もう少し読みやすい本を探そうと思います…