あらすじ
大日本帝国において、天皇は軍事を統帥する大元帥であった。では、天皇は軍部からどのような情報を得て、それに対してどのような質問や意見を発していたのか。また、国策・戦略・作戦の決定に際して、どれほどの役割を果たしていたのか。史料から浮かび上がってくるのは、大元帥としての自覚と責任感を持ち、主体的に戦争指導を行っていた天皇の姿である。その軍事知識は豊富で、非凡な戦略眼によって統帥部の戦略・作戦の欠陥を鋭く指摘することもあった。昭和天皇の戦争指導の実像を描き、その戦争責任を検証する。
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Posted by ブクログ
「君臨すれども統治せず」の立憲君主としての天皇や「四方の海皆同胞と思う世の〜」と明治天皇の御製を引用して開戦を再考させた平和主義者としての天皇…。これら戦後の天皇免責論者が形成してきた昭和天皇像が、本書を読めば音をたてて崩れること請け合いである。
その名も「天皇と戦争責任」などと名乗りながら大元帥としての天皇が統帥部の輔弼を前提としてた、等と帝国憲法さえまともに目を通していない記述が満載の児島襄の著書等は、本書が出版された以上もう絶版にすべきではないか?
Posted by ブクログ
本書の意図について著者は次のように述べている。「国策・戦略・作戦の決定に際して、昭和天皇が具体的にどのような役割を果たしたのか、その発言の表面的な理解でなく、可能な限り、個々の問題に天皇がどのような質問をし、関係者とのやりとりのなかでどのように考え、その上で膨張・戦争という判断を下していったのか、それを一次資料から読み解こうとしたのである」とされる(文庫版あとがき)。その言葉どおり、大元帥としての天皇の戦争関与の実態が相当に詳しく叙述されている。
本書を読んで、軍は大元帥たる天皇に必要な情報はきちんと上げていたこと、割拠主義的な陸軍及び海軍いずれもの情報を把握していた天皇が優位な地位にあったこと、そして大元帥としての責任意識から、戦略や作戦についてただ聴き置くのではなく、かなり具体的なことにまで意見を述べていることなどが良く分かった。
また、満洲事変における関東軍・朝鮮軍の独断専行の軍事行動、熱河作戦、張鼓峰事件など当初こそ天皇の怒りをかったが、「戦果」が上がると一転してこれらの暴走を事後承認しただけでなく、勅語を出すなどして賞賛・激励したことが述べられる。このような天皇の結果優先の態度は、結果として軍部の暴走を煽ることになったと思われるのが、これは将兵が士気を失ってしまうことを大元帥たる天皇が何よりも恐れたからであると著者は指摘する。そういうことなのか。
昭和天皇の戦争責任の問題については、法的、政治的、倫理的などいろいろな面からの様々な議論がされているが、天皇が戦争に対してどのように向き合っていたのかという事実を知る上で必読の一冊と言っても良いだろう。