【感想・ネタバレ】人新世の「資本論」のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年04月25日

こういう本を待っていた。

以前、「持続可能な資本主義」(新井和宏)を読んで感銘を受け、「父が娘に語る経済の話」(ヤニス・バルファキス)などにも語られるような「資本主義の限界」に強い興味を持っていた。
地球環境の限界が資本主義の限界であるという論は、常に系全体のエネルギー保存を考える物理学の研究者(...続きを読むの卵)である自分には強い説得力を持って伝えられた。
しかし、どうすればこの現状を打開できるのか?この問いに説得力のある解決案を伝えてくれる本は、僕の知る限りこれまでなかった。
もちろん、「持続可能な資本主義」にあるような、鎌倉投信が投資先とするような「社会へいい影響を与える企業」が増えていくことも一つの答えだと思う。
けれど、資本主義というシステムそのものが変わらない限り、どうしてもグローバル化、利潤至上主義の波にのまれる企業の方が大多数であり続けるはずだ。

本書は、昨今ポピュラーになりつつあるSDGsやグリーンニューディールという概念が、実は資本主義の限界を打開するのに役に立たないとバッサリ切り捨てるところから始まる。
これがいたく痛快だった。
前々から、SDGsといった概念には違和感しか覚えなかったからだ。
資本主義の新たな道具として登場した「流行」にすぎず、本当に地球環境のことを考えているようなものには見えなかった。
(たとえば、本来そこまでエコではない電気自動車を「エコ」を売りにして日本の車を淘汰しようとする欧米の動きに対して、これは資本主義における競争の新たな形態でしかないと思っていた)

そして、本書で提案される「脱成長コミュニズム」。
日本人はともかく、欧米の人は「コミュニズム」という言葉に強い拒否反応を覚える人が多そうだ。
しかし、マルクスを研究する著者に言わせれば、従来のコミュニズムは若かりしマルクスの提唱した不完全な理論を曲解し、権力者が富を独占するために都合よく利用されたに過ぎないのだ。
いわば、資本主義において資本家がやっていることと大差なく、コミュニズムだから人民の共有財(=コモンズ)が潤沢に保証されるというわけではないということになる。
晩年のマルクスが提唱した、脱成長コミュニズムによって、エッセンシャルワーカーの労働を重視し、不必要な仕事をなくし、財の共有化を進めて、成長から離脱する。
欠乏は資本主義がうまく機能していないから生じるのではない。資本主義そのものが、欠乏によって肥大化していくシステムなのだ。

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Posted by ブクログ 2021年04月10日

今日の世界的問題とは人口問題であり、食料問題でありそして地球温暖化に代表される地球規模での環境問題である。
 これらの問題は、産業革命以降、エネルギー消費型の文明になってきたことが原因だと考えられきた。
 マルクスの研究者である著者はそうではないという。根本の原因は資本主義にあるという。資本主義はそ...続きを読むの出自から資本を増加するように働く運動であり、その運動には労働者の待遇、環境汚染、富の不均衡などの様々な問題には目をつぶり、ただただ資本の増強を目指すという性質が備わっているという。このような資本主義が孕んでいる問題に、晩年のマルクスはきづいていたという。
これまで、マルクスの著作は共産党宣言、資本論、ゴーダ綱領批判などであり、資本論第二巻、第三巻は完成することなく亡くなっていたいたことは知っていた。ところがマルクスは亡くなるまでに思索を深めており、そのことは様々な文章、メモ、手紙から知ることができるのだという。斎藤氏はそれらの残された資料を世界の他の研究者と協力して読み解き、マルクスの晩年の思想を明らかにした。そこに地球環境問題を解決するための糸口が見つかったというのである。
 結局貨幣という価値、資本という価値に環境からの負債がくみいれられていないことが問題なのだという気がした。近年よくいわれるSDGsなどはそれを組み入れようという運動だと思われるが、それは方便に過ぎないことが明らかにされる。
 環境負荷の少ない世界を実現しようという著者の強いエールを感じた。久しぶりにであった良書であった。

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Posted by ブクログ 2021年03月22日

第一章 気候変動と帝国的生活様式
『資本主義による収奪の対象は周辺部の労働力だけでなく、地球環境全体…人間を資本蓄積のための道具として扱う資本主義は、自然もまた単なる掠奪の対象』
『人類が使用した化石燃料の約半分が冷戦終結した一九八九年以降のもの』
・気候変動の解決策の代わりに資本主義が提供してきた...続きを読む三種類の矛盾の転嫁とは…
1『技術的転嫁ー生態系の攪乱』
2『空間的転嫁ー外部化と生態学的帝国主義』
3『時間的転嫁ー大洪水よ、我が亡き後に来たれ!』

第二章 気候ケインズ主義の限界
『グリーン•ニューディールは、再生可能エネルギーや電気自動車を普及させるための大型財政出動や公共投資を行う』
『「緑」と冠をつけたところで、成長を貪欲に限りなく追求していけば、やがて地球の限界を超えてしまう』
『資本主義は、コストカットのために、労働生産性を上げようとする。労働生産性が上がれば、より少ない人数で今までと同じ量の生産物を作ることができる。その場合、経済規模が同じままなら、失業者が生まれる…雇用を守るために、絶えず、経済規模を拡大せざるを得なくなる。これが「生産性の罠」。
資本主義は生産性の罠から抜け出せず、経済成長を諦めることができない。そうすると、今度は、気候変動対策をしようにも、資源消費量が増大する「経済成長の罠」にはまる』
『富裕層トップ10%の排出量を平均的なヨーロッパ人の排出レベルに減らすだけでも三分の一程度の二酸化炭素排出量を減らせる…だが先進国で暮らす私たちは、そのほとんどがトップ20%に入っている。日本なら大勢がトップ10%に入る』
『電気自動車の本当のコスト…国際エネルギー機構によれば、2040年までに、電気自動車は現在200万台から2億8000万台に伸びる。だがそれで削減される二酸化炭素排出量は、わずか1%…何故ならバッテリーの大型化により、製造工程で発生する二酸化炭素はますます増えていくから』

第三章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
『食料について、今の総供給カロリーの1%を増やすだけで、8億5000万人の飢餓を救える』
『現在、電力が利用できない人口13億人に電力を供給しても、二酸化炭素排出量は1%増加するだけ』
『1日1.5ドル以下で暮らす14億人の貧困を終わらせるには、世界の所得のわずか0.2%を再配分すれば足りる』
『経済成長だけが社会の繁栄をもたらすという前提は、一定の経済水準を超えると、はっきりしない
例えば、ヨーロッパ諸国の多くは、ひとりあたりのGDPがアメリカより低い。しかし、社会福祉全般の水準はずっと高く、医療や高等教育が無償で提供される国がいくつもある。アメリカでは、無保険のせいで治療が受けられない人々や、返済できない学生ローンに苦しむ人々が大勢いる。
日本のひとりあたりのGDPはアメリカよりずっと低いが、日本の平均寿命は、アメリカよりも6歳近く長い』
『環境危機に立ち向かい、経済成長を抑制する唯一の方法は、私たちの手で、資本主義を止めて、脱成長型のポスト資本主義に向けて大転嫁すること』
『経済成長が困難になり、経済格差が拡大し、環境問題も深刻化。それが「人新世」の時代』

第四章 「人新世」のマルクス
『資本主義でも社会主義でもない「コモン」という第三の道。水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することを目指す』
『人間は、自然に働きかけ、さまざまなものを摂取し、排出するという絶えざる循環の過程のなかでしか、この地球上で生きていくことができない』

第五章 加速主義という現実逃避
『拡張を続ける経済活動何地球環境を破壊しつくそうとしている今、私たち自身の手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わりを迎える』
『経済成長のための「構造改革」が繰り返されることによって、むしろ、ますます経済格差、貧困や緊縮が溢れるようになっている』

第六章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
『資本主義のもとでの労働者たちの代わりはいくらでもいる』
『無限の成長だけを追い求め、人々を長時間労働と際限のない消費に駆り立てるシステムを解体しなくてはならない』

第七章 脱成長コミュニズムが世界を救う
『「価値」と「使用価値」の優先順位問題
コロナ禍の場合、商品の「使用価値」とは、薬が病気を治す力のことで、「価値」とは、商品としての薬につく値段。ワクチンとEDの薬であれば、役に立つのは、命を救うワクチンだが、資本主義においては、人の命を救うかどうかよりも、儲かるかどうかが優先される。高価で売れるクスリが重要だというわけ』
『人新世の「資本論」とは
・使用価値経済への転換
・労働時間の短縮
・画一的な分業の廃止
・生産過程の民主化
・エッセンシャル•ワークの重視
ポイントは経済成長が減速する分だけ、脱成長コミュニズムは、持続可能な経済への移行を促進するということ』

第八章 気候正義という「梃子」
おわりにー歴史を終わらせないために
『3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わるという』
『すぐにやれること•やらなくてはならないことはいくらでもある…一人ひとりの参加が3.5%にとっては決定的に重要なのだから』
『未来は、本書を読んだあなたが、3.5%のひとりとして加わる決断をするかどうかにかかっている』

沢山のキーワードが出てくる。例えば資本論、資本主義、脱成長、気候変動、二酸化炭素排出量、晩期マルクス、人新世。
今だけを考えて良ければいいのか?次の、その次の世代はどうなるのか?それは間違い無く今どうするかで決まる。
今、自分には何ができるか?考えさせられる一冊。

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Posted by ブクログ 2021年03月17日

今の時代に対する、劇薬のような。発想の転換と、そう入っても無理じゃないか?がせめぎあう刺激的な一冊でした。以下、備忘録的に。●人間たちの活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くした年代、それが「人新世」(パウル・クルッツェン)●グローバル・サウスとはグローバル化によって被害を受ける領域、住民のこと。●海に流...続きを読むれたプラスチックごみは魚介類や水に混じって生活に舞い戻る。私達は毎週クレジットカード1枚分のプラスチックを食べていると言われる。●石炭の低廉化により、様々な部門で石油が使われ、消費量が増加。効率化すると環境負荷が減るのではなく、むしと増やしてしまう。「ジェヴォンズのパラドックス」●2040年代までに電気自動車は200万台から2億8000万台に伸びる。しかし、それで削減されるCO2排出量はわずか0.1%。●例えば水が潤沢にあることはすべての人にのぞましい「公富」のあるべき姿。ところが水を商品化して希少性を作ると「私財」は増え貨幣で計算される「国富」も増える。しかし真の意味での「公富」は減る=「ローダデールのパラドックス」。●希少性を残すためにワインやタバコの収穫量を制限する=公富、潤沢さの減少。●水の「使用価値」は変わらないがコモンズから私的所有になることで希少性が増大、価値は増える。●広告、ブランド化は、この使用価値が変わらないものに相対的な希少性を加える行為。人は永遠に満たされず、満たされないという感覚こそが資本主義の原動力。●マーケティング産業は食料とエネルギーに次ぐ第三の産業。商品価格の10〜40%がそのパッケージングの費用。広告=「ブルシット・ジョブ」…●感染症の治療薬の開発が遅れたのは、精神安定剤やEDの治療薬と言う儲かるクスリの開発に特化したから。●資本の価値増殖を優先して「使用価値」を犠牲にした結果、マスクさえもコストカットのために海外にアウトソーシングして手に入らなかった。●気候正義(climate justice):先進国の富裕層が気候変動を引き起こし、グローバルサウスが被害を受けるこの不公正を解消スネ期という認識。●ハーヴァード大学エリカ・チェノウェスの研究によると、「3.5%」の人々が非暴力的な方法で立ち上がると社会が大きく変わる。

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