【感想・ネタバレ】スノードロップのレビュー

あらすじ

「あなたは考えたことがありますか? 自分がラストエンペラーになるかもしれないって」――私は東京の空虚な中心に広がる森に住む憂いの皇后。ハンドルネームはスノードロップ。花言葉は「希望」「慰め」。腐敗した泥舟政権は国民を国家に奉仕させる倒錯を繰り返す。さあ、「ダークネット」を駆使し、「令和の改新」を実行すべし!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 皇后とお付きの侍女とがインターネットを武器に政権の腐敗と戦う、由緒正しい通俗小説。著者の作品史から見ると、10年後に書かれた『エトロフの恋』の続編にあたる。

 初出は『新潮』2019年6月・12月号。タイミングを考えても、2016年8月の明仁天皇の退位メッセージにインスパイアされた小説の一つであることは明らか。この小説では、天皇が米国に隷属化する政権の保守政治家たちを糾弾する「おことば」を発信、皇居内で皇后とともに自己幽閉することで「世直し」=「令和の改新」を目論んでいく。興味深いのは、天皇と皇后がロシアの大統領と中国の国家主席との間で個人的なコンタクトを取り、反米=後の生存戦略を企んでいる点(中国の主席は大連にミニ京都を作って皇室の亡命ルートさえ準備してしまう。満洲国の裏返しのようだ)。
 2025年のいまから考えれば、この政治的構図の「お気楽」ぶりは明らかだが、ウィキリークス問題が象徴するように、米国の覇権に対する批判者が相対的にプーチンを「まし」に見てしまう構図は確かにあった。こうした見方を作ってしまったことは、ロシア=ウクライナ戦争以後の左派・リベラルの言論の落ちつかなさとも関係していると思う。
 韓国/朝鮮の不在も気になる。なぜ日本の小説家は日本列島を中心とする国際関係や心象地理を描く際、ほぼ必ず朝鮮半島、沖縄、台湾、東南アジアを取り落としてしまうのか? これもある種の「擬似大陸」意識のあらわれなのか?

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2025年02月06日

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