あらすじ
業績低迷する企業。硬直化した官僚機構。戦後の未曾有の繁栄をもたらした日本的組織を、今、何が蝕んでいるのか? 本書では豊臣家、帝国陸海軍等の巨大組織のケース・スタディーから、「成功体験への埋没」「機能体の共同体化」「環境への過剰適応」という、三つの「死に至る病」を検証。時代の大転換期を生き抜く、新しい組織のあり方を提唱する。著者二十年の組織論研究を集大成した現代の名著。
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Posted by ブクログ
名著。歴史的史実なども参照しながら、組織について深く考察し、まとめた本。バイブルとして手元に置きたいと思った。情報としては古い部分ももちろんあるが、時を経ても繰り返される組織の本質的な内容を考察されている。
<メモ>
・豊臣家の盛衰。徳川家の盛衰を成長戦略、人事組織という切り口からわかりやすく分析をされているところは素晴らしい。
・全体の手段が部分の目的となるということ。
・組織の規模が拡大する質的な転換が発生する。数十人から二百人までは顔も気心もわかる中小企業の組織。これをこえると一人の長では目が届かなくなり、管理監督のための組織が必要になる。中小企業から中堅企業に組織の質も飛躍する。管理監督機構を管理する組織が必要になる。すべてを規則化基準化しなければならない。これが数千人規模になると、遠隔指揮が必要になる。
・軍隊の定義は2つ①強力な武器を組織的に運用できる集団であること。重武装性、②自己の組織の中で全ての活動が完結できること。自己完結性。警察は武器を持つが自己完結性がなく軍隊ではない。
・アメリカ軍では共同体化を防ぐため組織の揺らぎを定期的にかけている。海兵隊廃止論からあらゆる兵士が二つ以上の専門技能を持つというコンセプトを作り上げた。アメリカ軍は二十年に1階くらいの割合で大規模な組織の揺らぎを与えることをしている。組織が有能であるほど、部分組織の目的を追求してしまい、総合調整が困難になってしまう。
・組織をつくると後から組織の存在意義等目的が生じてくることがある。組織はまず組織を防衛し、組織を作った人々を防衛するわけではない。
・全体の手段が部分の目的となる。それぞれの目標が目的化する。
・組織の目的と構成員の目的は違う。組織の構成員が持つ目的は経済目的、権限目的、対外(体裁)目的の三つがある。
・機能体も長期的に目的を追求するのであれば、ある程度の共同体的要素は許容しなければならない。しかし、それが機能を失わせ、共同体化を限りなく促すことにもなりやすい。
・トップがしなければならないことの第一は組織全体のコンセプトを明確にし、その組織の目的を誤りなく伝えること。第二は基本方針の決定と伝達。第三にしなければならないのは総合調整。数多くの部局が生まれると、各部局の長は自分の担当だけを優先して、全体の視野をかく。常に事業目的と基本方針の擁護者として、全体の総合調整にあたらなければならない。
・コンセプトメーキングは組織の理想、性格、究極的な目的が含まれる。基本方針はそれに至る道程の中長期的目標の設定。総合調整は人員と資金の配分、各部門の現実行動と基本方針との調整、高級人事、人事評価方針の決定。
・これを行う方法は「ことば」を利用すること。「行動」による指導。行動で重要なものは人員資金の配分と人事賞罰、情報ルート選定(誰とつきあうか)の三点。そして三つめの方法は「雰囲気」による指導。トップの言動、表現、服装、関心度。醸し出す雰囲気が組織の尺度となる。
・現場指導者に必要な能力と人柄①専門的な知識の深さ。②適切な判断力。③勤勉さ。④指揮する部門の大きさに応じた範囲内での人心掌握力。⑤的お畏れぬ勇気とトップをおそれるほどの臆病さ。
・参謀に必要な能力。動員計画から作戦や陰謀までを企画するスタッフ。想像力が重要。裏付けに的確な現状把握と将来予測が必要。情報の収集と分析を好み、先見性を養う必要がある。第二に創造力は実現可能性がなければならない。整合性ある創造力が要求される。全体を俯瞰する広い視野が必要。第三に、企画に対する積極性が必要。
・補佐役。隠れている小さな問題点や日常的に発生する庶務雑事を発見し、その解消に努める役。補佐役の条件は①匿名の情熱。自分の功を顕示しないこと。②トップの基本方針の枠を超えないこと。
・組織が死に至る病は三つ。①機能体の共同体化 ②環境への過剰適応 ③成功体験への埋没
・共同体は構成員の幸せを追求するための組織、機能体は一つの目的を達成するための組織。組織は自らの拡大を求め、内部の結束強化を追求する本能的な欲求がある。組織は組織の作られた目的とは別に組織自体の目的を持つ。構成員の組織人としての幸せ追求にも通じている。組織が確立し、構成員が固定化するようになれば、地位向上と権限拡大とが、組織全体の目的と化すことになりやすい。
・共同体の尺度①年功人事 ②情報の内部秘匿 ③総花主義 能力の均等分散が固定化し、集中が不可能になること。組織が本来の目的を達成するためには、臨機に必要な能力を最も重要な局面に集中することが必要。共同体化した組織では特定の部局に集中することをためらい総花化する。
・究極の共同体化 滅びの美学。
・シビリアンコントロールが重要なのは専門性と終身性のゆえに共同体化しやすい軍隊を抑制し、組織に揺らぎを与えるためには、軍人共同体の外部の人間にを上に置かねばならないという点。
・一つの環境に適応した組織は容易に他の環境に対応できない。環境変化に適応するには、従来の環境に適応した組織の体質や気質を破壊しなければならない。揺らぎを与えることが重要。
・特殊事情を言い訳にできるのは一度まで。二度認めないこと。
・組織の点検として重要なのは、現にある仕組みがどのような状況(理想)を実現するためのものかを冷静かつ白紙の心境で考えること。
・現にある仕組みがどのような環境に対応して作られたものかを見極める。
・現にある仕組みがどのような結果(効果)を生んでいるかを見極める。
・仕組みの欠点は取締りによって防ぐことができるものではない。
・組織気質の点検。組織気質の第一は構成員の士気。やる気。組織全体を包んでいる雰囲気はどうか。
・第二は組織間の協調度。組織全体の成果を重視する協調性。組織目的の理解浸透。コンセプトの理解度。
・取引相手好感度。従業員好感度。世間好感度。
Posted by ブクログ
企業組織の改革と創造の示唆提供と組織論の体系を広めるために書かれたという書。1996年発表。組織の構成要素、良い組織の定義など体系的に組織の本質的な意味を切り出しているところは秀逸。1989年を「戦後型組織」の終焉として、3つの神話、土地・株は上がる、消費の拡大、雇用の保証の終わりを描いているが、まだ2010年代にも、それにしがみついている企業はあるのではないか。組織が「死に至る病」、機能組織の共同体化、環境への過剰適応、成功体験への埋没を、どうのがれるのかについて視点が持ち出されているが、もうすこし体系化できそう。「失敗の本質」と併読が、楽しい。
Posted by ブクログ
豊臣政権、日本帝国軍、石炭産業のみっつの事例をもとに①成功体験への埋没。②機能体の共同体化、③旧環境への過剰適応という組織の死に至る病を検証。
組織の共同化による情報の秘匿、意思決定の硬直化、不適材不適所の発生。滅びの美学。
そういうのは仕組みや、兵站を考えずに、精神主義に基づく人力だけで乗り切ろうとする日本的メンタリティに脈々と息づいているように思う。
(要はこういうのは官僚制の逆機能の一言で要約される)
日本海軍は対馬沖戦の成功体験にしがみつき、兵站(ロジスティクス)をおろそかにしたため、二か月のうち10日しか作戦海域に出られないというお粗末さ。
こういう戦う前に負けが決まった体制、仕組みで多くの人を戦士ではなく、飢えさせた帝国軍。
自己陶酔のなんちゃって愛国者たちは放置して、負けるべくして負けた組織や精神含めた文化を総括し、市民、組織人は、豊かになるために今とこれからを考えるべき。