あらすじ
○本書は、私たちが暮らす場所の地形にはどのような特性があって、どう変化してきたのかについての見方を紹介する歴史地理学入門。近年各地で発生している水害や地形災害は、単に地球温暖化や異常気象だけで説明できない。どこで、どのように災害が発生しているのかについて理解を進めるために、地歴、地形環境やその歴史的改変の知識が欠かせない。
〇日本人の大半は平野に居住している。そもそも平野は川によってつくられた。平野は、扇状地・自然堤防・後背湿地・氾濫平野・三角州などに分類でき、後背湿地や氾濫平野は、主に水田に利用され、集落は自然堤防沿いにつくられてきた。
〇近年相次ぐ大型台風による洪水や山崩れは、地形的に災害の発生しやすい低地や地盤の弱いエリアに集中して発生している。本書は過去の日本人の土地との付き合い方、地形環境の改変の歴史を豊富な事例とともに紹介、大災害時代の必携教養として伝えたい。
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Posted by ブクログ
大学卒業以来、久々に読んだ歴史地理学の本。
日本の地形は主に侵食力のある河川によって作られたもの。
「堤防を作ると洪水が起きる」説明の箇所は必読だと思う。
堤防で完全に河川を囲ってしまうと、土砂が堆積して川床が高くなるため
さらに堤防を高くする必要がある。また、水の逃げ場が無いので、
一旦堤防が決壊すると、被害は昔よりも大きくなる。
また、堤防の後背地に開発されたエリアの地盤沈下が進めば、
相対的に河川水位より低くなり、洪水時の被害は大きくなる。
結局はイタチごっこを数十年・数百年単位で繰り返しているわけである。
どこに住むか検討するにあたり、地形の変遷に関する知識は必須。
今でこそ、日本各地は都市化が進み、以前は人が住めなかった
斜面や低地もコンクリートで覆われ居住できる。
昔その土地がどのような場所だったのか跡形も無いところもある。
さて、個人的に最も心配なことは、川を堤防で囲い、嵩上げや強化を繰り返し、
後背地をコンクリートで固めるという、人口増加時代のインフラ事業を
どう維持しているのかということだ。
気候変動による激甚災害が増え、今後人口が急激に少なくなる日本において、
全国各地に作りすぎたインフラを維持できるとは、とても思えない。
だとすれば、我々は普遍的に安全な地形の場所を選んで居住しなければならない。
結局のところ、河川の氾濫や山地の地滑りなどを回避できる場所、
即ち、伝統的に集落として発達してきた場所が選ばれるのではないだろうか?
数十年先の「危機」を考えると、古地図の閲覧は単なる趣味道楽ではなく、
現実味を帯びた実学であると感じさせられた。
Posted by ブクログ
先日読んだ「地形で読む日本」の前の作品があったということで、順番を違えて手に取った一冊。
著者が提唱する歴史地理学の入門第一弾という位置付けです。
歴史地理学は「空間と時間の学問」。歴史学と地理学における空間と時間のギャップへの、架け橋の役割をも果たすもの、としています。現在、歴史と地理は別々に学習すべきものという印象がありますが、もともとは一緒に学ぶべきものでした。確かに、歴史と地理はお互いに影響し合うものです。個人的に興味がある分野でもあります。
そして著者は、「私たち日本人はどこで暮らしてくたのか」を知るためには、空間と時間を同時に視野にいれた、歴史地理学の視角こそ有用として、この視点での学びの重要性を強調します。
その背景には、頻発する豪雨などの災害への危惧があります。特に冒頭で大都市の川沿い高層マンション群を指摘します。防災対策として、歴史地理学の視点から、この地形が、もともとどのようにつくられ、どのような性格の土地なのかを知り、これまでどのようにその土地を利用し、どう改変したのかを確認するこは災害対策の前提であるとし、日本の人口が集積する平野部の成り立ちを中心に展開していきます。
内容が専門的ではありますが、近年の災害への対策として、どのような視点で考えるべきか、その根幹を問われる一冊でした。
▼本書は、私たち日本人がどこに暮らしてきたかについて、振り替えることを目的としている。暮らしてきた場所の地形が、どのような特性を持っていて、どのように変化してきたのかについての見方を紹介しようとするものである。
▼近年各地で発生している水害や地形災害は、単に気候温暖化とか、異常気象とかだけで説明できるものではない。水害や災害がどこで、どのように発生したかについて理解を進めるためにも、地形環境やその歴史的改変に注目しなければならない。
▼近代科学としての地理学と歴史学の分類は、カントが、「地理学は相互に隣接している事象の記述であり、空間と関連する」、また「歴史学は相互に継起する事象の記述であり、時間と関連がある」としたことに由来する。簡略に表現すれば、地理学を「空間的併存」の状況を記述する学問、歴史学を「時間的継起」の様相を記述する学問、と定義したのである。
▼すべての空間的事象は時間的(歴史的)存在であり、すべての歴史的事象は空間的存在であることになろう。空間を考えるために歴史過程への視覚を保ち、また歴史過程を考えるために空間への視覚を保つことなくしては、さまざまな事象の実態へは十分に接近し難いことになる。前者が地理学の側からの歴史地理学の視覚であり、校舎における歴史学からの視覚もまた、同様に歴史地理学と呼ばれる。
▼ハザードマップの原型とでも言うべきは土地条件図であるが、土地条件図が地形の基本的様相を表現しているのにたいして、ハザードマップは一定条件の本での災害予測、ないし危険度予測を表現しているという点の認識が重要であろう。
▼日本の平野の地形は、河川が下流域で土砂や泥土を堆積し、あるいは河川が上流域で山地。丘陵を侵食し、そのような過程を繰り返すことによってつくられてきた
▼現在確認することができる平野の台地や低地は、それら自体がつくられてきた長い歴史の結果である。言うならばこれらの地形そのものが、その土地を形成した歴史あるいは記憶を物語るものであろう。地理学には地形史ないし地形発達史という研究分野があり、このような過程を重視する視角である。
<目次>
第1章 歴史地理学は「空間と時間の学問」
第2章 河川がつくった平野の地形
第3章 堤防を築くと水害が起こる
第4章 海辺・湖辺・山裾は動く
第5章 崖の効用、縁辺の利点
第6章 人がつくった土地
第7章 地名は変わりゆく
第8章 なぜそれはそこにあるのかー立地と環境へのまなざし
Posted by ブクログ
恥ずかしながら地理の知識は中学生以下で止まっており、輪中などの単語がそれなりに有名であることをこの本で知った。電子書籍では図版が見にくかったのが難点だったが、小字の移り変わりなど楽しく読めた。
Posted by ブクログ
著者は歴史地理学の分野の専門家。
まず、その分野がどんなものか興味があって、本書を読むことにした。
空間の学問(地理学)と時間の学問(歴史学)をつなぐ分野であるとのこと。
時間地理学なる分野もあり、ビッグデータの利用が進めば、これも何か進展がありそうな気がするが、本書では深くは紹介されていなかった。
さて、筆者は「微地形」(プレート移動など大規模な地殻運動でできたものではない地形)についての業績で知られる人とのこと。
私の出身地近くの濃尾地方が取り上げられることも多く、土地感覚があるので、興味深く読んだ。
人間が堤防(連続堤)を作ることで、天井川を作り出し、さらに水害のリスクを高めてしまったという指摘が考えさせられる。
湖や海の岸、山裾が動くのを古い地図と重ねながら読み解いていくのも面白かった。
棚田の多くが昭和の食糧増産のために、耕作に適していない土地に無理に作ったものであるとのこと。
もっと古くからあるもの、人々の知恵の結晶のようなものというイメージで見ていたので、びっくりした。
ただ、この本は、以下の2点が残念だった。
・地図が小さい
→細かい文字や模様が読み取りづらく、筆者の指摘する事象が確認しづらい。
・専門用語の定義が少ない
→初出のところできちんと書いてほしい。
Posted by ブクログ
新書というより、きちんとした歴史地理学の教科書的な内容なので、とっつきやすくはない。読む側も、ちゃんと読まなくてはいけない感じ。だから、この内容を新書として出すのが間違っているように思う。また、せっかくの内容なのに、地図が見にくいのもいただけない。
ということで、出版社の姿勢に対しては☆2つなのだが、内容は勉強になったので☆3つにしました。
Posted by ブクログ
◯出だしでカントの自然学が出てきて、これは壮大な体系の理論が打ち出されるのか、テーマ的にも興味深いと思ったが、内容としては事例に則した紋切り型の解説という印象であった。
◯個々の章では、ブラタモリさながら古地図と現代の地図の比較、自然の状況が描かれており、とても面白い。後書きにもあるが、河川に関する部分が大半を占めている印象。
◯新書くらいのページ数だからか、若干の物足りなさを感じる。とても興味ある章も少なくないのでもっと深掘りしてほしいと感じる。
◯地図や写真が多いのは理解を促進できて大変好感であった。
Posted by ブクログ
堤防を築き河川のコントロールを始めた結果、河床に砂利が堆積し天井川となり、堤防のかさ上げや砂利取りを続ければなければならない運命となった人類。旧約聖書の禁断の木の実のようだ。
Posted by ブクログ
河川による地形の形成過程や、地形と人々の生活との関わりなどについて、事例を挙げながら解説しています。少し文章が堅い感じがしました。また、せっかくの興味深い事例も、図版の少なさとその文字の小ささ(特に地形図)ゆえに、よく理解できないところもありました。地形の形成過程をイラストで説明したり、歴史資料を豊富に引用したりすれば(私としては)もっと読みやすくなったのではないかと思いました。
Posted by ブクログ
地理と歴史が親しい学問領域であるなどいろいろと勉強させていただいたが、結局河川氾濫原と後背湿地でだいたいカバーできちゃうような場所に日本人は住みたがるようです。
Posted by ブクログ
まあまあだった。
タイトルやサブタイトルから受ける印象と少し違って、地形の成因やひとびとの地形への働きかけ、あるいは地名についてのいろんな話が含まれている。やや散らかった印象の本。一章や終章の哲学的な話などは不要(本論の補強などにもなってないし)。
それに、地名の由来とかの話は余計かな。。
遊水地と後背湿地のことなど、河川との関係などの記述は多くてよかった。新幹線基地が氾濫想定地域にできるのは、氾濫するから住宅などはなく土地が空いていたというのは説得力がある(都市計画的な観点もあろうけれど)。
平安京のころ、東側の鴨川で堤防のかさ上げや保護をしていたというのも面白い(そんなころから河川工事がなされていたとは)。七世紀の狭山池以来のかさ上げ工事(ダム再生)の歴史のことも。
いったん決壊すると被害が大きいという点で、堤防により水害が大きくなる可能性、という指摘は妥当だが見出しの付け方はややオーバーにもおもえる(ほかにも都市化などの影響もあるだろうし)。
宇治川での切所や木曽三川での押堀など、堤防の決壊あとにできるというのはそうだし、それらの地域に多いとの指摘は妥当だろうが、連続堤でなく輪中でも成り立つだろうにともおもう。全体的に連続堤を好んでないような記述がかんじられる。
埋め立てや干拓の記述はやや冗長にかんじたが、八郎潟が、オランダの防潮堤技術が導入されたことや、工業化や減反により目的喪失があったとの指摘は興味深い。
Posted by ブクログ
著者が富山生まれで京都大学に長年籍を置いていたからであろう、日本人といっても東日本より西日本が中心となり、また河川や湖沼に重きを置いた著作となっている。新書という限られた分量の中では仕方なしか。
寝屋川流域は1964年から1996年の33年間で最大1メートル以上沈下した、との事。太古は河内湾であった事は知ってはいたが、やはり水害には特に気を配らなければならない一体なのであろう。
西日本に馴染みがある人には読み易く感じるだろう。一方馴染みのない人には読みづらい所もあるか。
ジュンク堂書店近鉄あべのハルカス店にて購入。