【感想・ネタバレ】明治維新の意味(新潮選書)のレビュー

あらすじ

世界史に類を見ないスピード感をもってなされた国家制度樹立(ネーション・ビルディング)。それを可能としたのは、議論を尽くしつつも真に能力ある者が政策を選びとり、時には手続きも飛び越えて最重要の改革を実行することへの合意だった。日本を代表する政治学者が、大久保利通や伊藤博文らの言動にあらためて光を当て、維新史の新たなる解析を試みる。

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Posted by ブクログ

明治維新を否定的に捉える過激で感情的な原田伊織氏の本を読んだ後なので、北岡伸一氏の資料に基づく冷静な学者としての見解は対照的であった。

確かに倒幕は下級武士たちが権力奪取を狙ったクーデターであり、そこにテロリズムと言われるようなやり過ぎな行為もあったのだと思う。

ただ、若い下級武士の政権であったからこそ、廃藩置県、地租改正などで旧来の体制を完全に作り変える、短期間での富国強兵を実現できたのは間違いないと思う。また柔軟な思考で必死で勉強したからこそできた事。

大久保利通や伊藤博文といった優れたリーダーが、意志と能力のある人の意見を集めて手続き論や世論の支持は二の次として取り組んだのが明治維新の改革だった。
しかし統治機構が整うにつれ政治の制度化と合理化が起こり、強力なリーダーが出にくくなった。
そこでは多数をとることに優れたリーダーや組織の利益をもたらすリーダーが見識や能力に関わらず組織を率いる事になって行った事が、先の大戦での敗戦に繋がって行ったという。

創業者や建国者から代が進むにつれて組織がおかしくなるのは今も昔も同じ。

1945年の敗戦後、リーダー達が新しい日本を作り、70年以上の平和と経済的な繁栄をもたらした事は疑いようのない事実。
一方でGHQの息がかかった憲法や押し付けられた価値観に大きな影響を受けたのも事実。
世界は大きく変化しており、日本も変わらないといけないが、どちらの方向に進めば良いのだろう。
真に教養をもたないと判断を誤り、同じ歴史を繰り返す。

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2024年09月16日

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近代日本の歩んできた道がわかりかけてきた。 西洋においては宗教が国家の基軸をなしているが我が国聞において基軸とすべきはひとり皇室あるのみ。この精神が、戦争に負けた日本をも支えている。
日本国憲法制定前後の政治状況についてもこの著作のように分かりやすく解説してほしい。

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2022年08月11日

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政治史や外交史の碩学である著者の明治維新論。1912年9月、まだ無名のジャーナリストであった石橋湛山(当時28才)が『東洋時論』(東洋経済新報社が出していた雑誌)で明治時代の最大の事業は、日清日露の戦争に勝利し、植民地を拡大したことではなく「政治、法律、社会の万般の制度および思想に、デモクラチックの改革を行ったことにあると考えたい」と書いていることを紹介しつつ、著者も湛山の意見に賛成であると言う(p.11)。著者は講座派的な明治維新を低く評価する立場を批判しつつ、明治維新革命の意義を丁寧に世界史的な文脈の中で考えていく。現在、JICA理事長として感じている途上国の発展の困難さの実感が背後にある。

本書は、序章以下終章まで13章構成。第1章「江戸時代の遺産」から第11章「議会政治の定着」までがここで考えられている広義の明治維新の範囲である。全体の叙述は最新の研究成果にも目配りが行き届いていて、かつ平易にバランス良く叙述されている。大久保利通や伊藤博文、原敬や福澤諭吉への評価が高いが原資料からの直接の引用などに基づいており、素晴らしい。とくに大久保の評価は高く、彼の政治家としての資質の高さには驚かされる。残念ながら、大久保も伊藤も原もみんな暗殺されてしまった。

明治維新の成功は、最良の人材が徹底的に議論し、国益のためにベストを尽くしたことであり、それが大久保の言う「公議輿論」だった。しかし、「日露戦争以後、様々な集団において制度化、合理化(マックス・ヴェーバー)が進み、それとともに、リーダーの凡庸化、平凡化が進んだこと」(p.322)が昭和の失敗につながっていったと著者は考えている。これはまた現代の私たちになお突きつけられている課題であると言える。

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2021年03月27日

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明治維新のキーワードが「公議輿論」であることから、政治参加の拡大という観点に立って江戸時代末期から、参加拡大の一つの到達点である明治憲法制定・国会開設までを説明してゆきます。文章は平易、論旨は明快で説得力があると思いました。また実に多くの文献を読んでいることが分かり、参照する際にはページ数まで示しているところに学者としての良心を感じました。大変な良著だと思います。

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2025年04月29日

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幕末好きにも楽しめる本。

明治維新は、「下級武士による国家創造のプロジェクト」であり、欧米の帝国主義に対する応答でもあった。近代国家の枠組みを取り入れながらも、文化的・精神的には天皇制という伝統を中核に据えた点で、日本独自の道を歩んだ革命。

今日の国家体制への第一歩として必要なステップだったと思うが、真の意味で近代化と言えるのか。支配層が交代しただけで、国民の意識はいきなりは変わらず、そこに急速に天皇思想を染み込ませる事で国民意識を浸透させる必要があった。実際には、旧態依然の意識解体は、第二次世界大戦の敗戦で決定づけられる事になる。

天皇を名目的主権者とする中央集権国家により、統一法制(民法・商法・軍法)、全国規模の徴兵制・教育制度を敷いた。「藩を超えた一体の国家」という抽象的な存在が生まれた。しかし、維新政府の実態は、西郷・大久保らによるエリート官僚制。憲法制定や議会開設はあっても、選挙権は極めて限定的。天皇制を通じた国家統合の装置としての統治機構だった。華族制度を廃止し、地主制度の解体したのは戦後である。つまり、日本の近代化は「国家再編」としての明治維新と、天皇の求心力に頼りまだ残っていた藩や身分などに対する「意識再編」の二段階で行われたのではないか。

ー 一九一八年には維新の敗者である東北から、総理大臣が登場することになる。原敬である。要するに維新から内閣制度の創設、憲法の制定、議会の開設に至る変革は、既得権益を持つ特権層を打破し、様々な制約を取り除いた民主化革命、自由化革命であり、人材登用革命であった。そしてその趨勢は、明治憲法体制の中で、長く取れば、明治末から大正まで続いたのである。

ただし、明治維新で優れていたのはエリートに関しては極力身分や出自を選ばず活躍出来たこと。それを本書では人材登用革命と言うが、その通りだと思う。そしてそれこそが最大の改革である廃藩置県に繋がる。藩主の意に反して廃藩するには旧態な身分があっては出来ず、それは武士道における割腹のようでもあった。

ー 廃藩置県が近いうちに実現すると思っていたものは、誰もいなかった。ところが急速に話は進み、九日に、廃藩置県の決行が決まった。一四日に断行ということが決まったのは、一〇日だった。そして実際に一四日に決行された。疾風怒濤とはこのことである。薩長土肥と言い習わされてきた土佐も肥前も、相談されていなかった。しかし西郷が賛成するとは、予想外だった。最後は、反乱があれば自分が兵を率いて叩き潰すという西郷の言葉で、廃藩置県は実行された。明治政府の成立までは、薩長などの主要藩の支持によって、多くの決定はなされてきた。版籍奉還にしても、その黙認があったから可能であった。ところが、廃藩置県は西郷、大久保、木戸ら、天皇に直属する官僚が、藩の意見に反して実行した変革であった。彼らはみずからの背景にあった藩を解体する作業を断行した。長州や薩摩は中世以来の伝統を持つ藩であった。これを解体してしまったのである。かくして、今回は藩の後ろ盾を持たない天皇制官僚たる木戸、大久保、西郷らのイニシアティブによって、廃藩置県は実行されたのである。

幕末から明治にかけての政治的な動乱と人物の魅力を伝える本。傑出した人物が次々と登場して自分の仕事を果たした時代。今と何が違うのか。幕府の威信が失われ、藩の秩序も揺らぐ中、「自分は何を信じ、どう生きるか」を一人ひとりが問われた。正解も安定もなく、だからこそ「思想と行動を一致させた人間」だけが立てたのだろう。

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2025年04月20日

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明治の政府がどのように成立していったが詳細な内容が理解できます。特に岩倉使節団が2年にも及ぶ欧米視察を行っていたというのは驚きでした。

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2022年04月17日

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 大久保―伊藤―(原)史観というのは言い過ぎかもしれないが、ここらの政策については、ほぼ肯定されている。むろんキチンと議論を整理してからではあるが。
 
 明治維新は、始まりはオールスターであったが、段々と欠けていく過程が淋しい。元老がいなくなるとともに、結局、セクショナル・インタレストを振りかざすようになったという指摘は重い。

 

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2021年09月26日

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幕末から明治維新については、何となく知っている気がしていたが、改めて当時の国際関係を含む政治史についての本書を読んで、大久保利通の偉大さや伊藤博文の博学さなどを認識した。明治維新は、無血とは言わないが、旧体制の指導者も取り込んだ革命であり、後に元勲や元老と呼ばれる有能な下級士族の個人的資質や能力に大いに助けられて実現したものと言えそうだ。当時の政治指導者の国際感覚や内政に対するバランス感覚がすごい。その明治維新という偉業が制度化・合理化され、天皇大権の絶対視と軍の政治介入が進んでいくというその後の展開は、明治維新に胎蔵されていたものなのかどうかについて、著者は否定的だが、そこは色々な意見があるところだろう。

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2021年07月10日

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明治時代を通した一連の政治的な動きから明治維新を描いた本。
それぞれの出来事が詳しくは述べられていないため、やや物足りなさはあるものの、政府・政治の全体的な流れを掴むことができる。
明治期の憲法制定・議会設立・選挙の動きと現代の政党政治体制のつながりが暗示されているようで興味深い。

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2021年02月20日

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明治維新に関する本はいくつも読んだが、政治学者による明治維新史は、他と異なる視点で新鮮。特に、明治期の藩閥政治から国会開設、その後の政治史の分析は分かりやすく的確で、何度も読み返したい。

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2021年01月16日

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西洋では、絶えざる戦争がより強大な軍備を必要とし、それを支えるためにブルジョワジーに対して課税し、そのためにブルジョワジーの政治参加を認め、議会が成立するという流れがあった。日本では、徳川氏を中心とする盤石の態勢ができたために、それは起こらなかった。

明治維新から、内閣制度の創設、憲法の制定、議会の開設に至る変革は、既得権益を持つ特権層を打破し、様々な制約を取り除いた民主化革命、自由革命であり、人材登用革命であった。

明治6年の地租改正によって、作物の出来高に応じ、天候などに左右されていた税収は予測可能なものになった。地租は貧しい農民には重かったので、土地を手放すものが増え、一方で地主への土地集積が進んだ。土地を手放したものは職業を求めて都市に流入し、労働者になった。地租改正は、日本の資本主義の発展の不可欠の前提を作り出した。

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2025年01月17日

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明治維新以降の体制確立の流れは理解できたが、その底流の本質が何だったのか歴史をなぞりすぎたばっかりにぼやけてしまったのが残念で、今ひとつ自分の理解を高めることができなかった

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2021年02月23日

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