あらすじ
今から三十年以上前、小学校帰りに通った喫茶店。店の隅にはコーヒー豆の大樽があり、そこがわたしの特等席だった。常連客は、樽に座るわたしに「タタン」とあだ名を付けた老小説家、歌舞伎役者の卵、謎の生物学者に無口な学生とクセ者揃い。学校が苦手で友達もいなかった少女時代、大人に混ざって聞いた話には沢山の“本当”と“噓”があって……懐かしさと温かな驚きに包まれる喫茶店物語。(解説・平松洋子)
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Posted by ブクログ
するするっと読める本。
「幼い頃タタンと呼ばれていた私」のお話し。
タタンの実体験としての記憶だから自然に流れていくのに、「タタンとは呼ばれなくなった大人の私」が思い出して語るには矛盾や違和感があって、その違和感が読者の中でも膨れたところで、ここはもしかしたら曖昧かも、というような一文が入る。
最初の方は、そうか昔の記憶だと思い出補正も確かにあるよね、と何も思わなかったのに、特に最後の一編は序盤からとても警戒しながら、疑いながら読み進めた。途中からミステリ小説になったのかと思った。
ただひたすら最後の一文に向けて書かれたのだなという印象。面白かった。
Posted by ブクログ
以前夏の文庫フェアに入っていて、表紙がかわいくて気になっていたが、レビューを読むとちょっと私の想像(ほっこり喫茶店もの)とは違う感じなので、読まずに数年経ってしまった。読んでみたら、実際、想像とは違う感じで、現実に不可解なファンタジーが入り交じる感じだったのだが、意外に好きな不可思議さだった。
大人になった主人公の目線から語られる子供時代の、記憶が曖昧な感じや、今思うと…という視点の語りは、このちょっと不思議な世界に妙なリアリティと疑惑を感じさせる。
著者の中島京子に「これは本当にあったことですか?」と聞いてみたくなる。
自意識過剰な「学生」の描写が面白くて、そのこじらせた自意識と、草野球チームに誘われる妄想シミュレーションには笑ってしまった。やはり、著者の文章にはユーモアがある。
また、主人公の祖母が言う「ぱっと消えてぴっと入る」は印象深かった。友達のトモコは本当にいたのかな?