あらすじ
映画監督西川美和が惚れ込んで映画化権を取得した、
『復讐するは我にあり』で知られる佐木隆三渾身の人間ドラマ!
映画『すばらしき世界』(2021年2月公開)原案。
復刊にあたって、西川美和監督が書き下ろした解説を収録。
人生の大半を獄中で過ごした前科10犯の男が、極寒の刑務所から満期で出所した。
身寄りのない無骨者が、人生を再スタートしようと東京に出て、職探しを始めるが、
世間のルールに従うことができず、衝突と挫折の連続に戸惑う。
刑務所から出て歩き始めた自由な世界は、地獄か、あるいは。
伊藤整賞を受賞した傑作ノンフィクション・ノベル。
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Posted by ブクログ
新年1冊目。一気読みした。
正直、小説とは全然思えなかった。でも、小説なんだね。
正直星とかつけたくなかったけど、私の人生に影響を与えてくれた本であるという意味で星をつけた。
すばらしき世界を観て衝撃を受け、原案小説ならば絶対に読まねばならないと購入。もっとはやく観た直後に読めばよかった、、!
まず思ったことは、西川美和はすごいなということ。これだけ長い小説なのに、この小説が伝えたいことを余すことなく映像化したのは天才だと思う。
というか、小説を洗練して、映画という形で世に出したように感じる。
忘れているだけかもしれないけど、映画と違う点で印象に残っているのは、元妻と子供と山川で現場のアパートに行ったときに「俺が悪かった」とつぶやこうとしたところ。
今までの山川だったら思うことはなかったと思う。自分の度量がなかったなんて思えなかったと思う。山川のことを根気よく見守って、人間への信頼を取り戻そうとした人たちの気持ちが山川の心の壁を少し溶かしたからだと思う。
自分の非を認めるということは、自分の弱さを認めるということで、ひとりで生きて来ねばならなかった山川には出来ないことだったのではないだろうか。
なんで野菜が買えないんだろう?とか、なんですぐそんな怒っちゃうんだろう?とか、不思議だった。でも、私がいま考えている「普通」が出来ない人は当たり前にいて、出来ないから弱者に分類するのは違うんだなと思った。
難しいけど、違うんだなと思った。
なんか本当に感想を文章にするのが難しい。
普通ってなんだろう。正義ってなんだろう。社会に適合するってなんだろう。
また、後書きが興味深い。後書きあってのこの本だなと思う。西川美和が、映画は原作をそのまま表現しては意味がないというようなことを書いていたのが原作紙のもの映像化反対派としては心に残った。
感想を書くにあたって、自分がすばらしき世界を観たあとにどういう感想を書いていたのか見直した。いい意味で頭が空っぽだった時期だから、自分の感性が豊かで、物事を考えようとしていた感想だった。
今回うまく感想が出てこないことがショックだった。最近本当に冊数を重ねる読書しかしていなかったから、これからは自分の人生を豊かにするために本を読んでいこうと思う。
Posted by ブクログ
役所広司さんの写真のカバーがかかってて、それが本来のカバーよりちょっとサイズが小さくて、「カバーが二重にしてあるな」って気づくしかけなのかな?と思いました。「身分帳」という小説は、随分前に出版されて、その後絶版になっていたようだ。このたび掘り起こされて、映画化に伴い、また本が出版されたということのようだけど、それによって、初版の「身分帳」に関係者の ”その後” が追加されたことによって、このルポの重みがいや増し、感動を呼ぶ…という感じになっている。
もともとの「身分帳」は、人生の大半を刑務所で過ごした 主人公の田村氏が、刑期満了で出所し、日々を危なっかしく過ごしていく様子がリアルに描かれたものである。身寄りのない田村氏に、身元引受人の弁護士、アパートの近所のスーパーの主人で町内会長、同じアパートに出入りする新聞配達の若者たちが関わり、彼と社会をつなぐ役割をする。
長い刑務所生活で、カッとなりやすい自己を分析し、なんとか重大な犯罪を犯すのを踏みとどまる田村氏だが、やはりそう簡単にはいかず、せっかく自分を心配してくれて、手を差し伸べてくれている人がいるのに、変な態度で人の思いを踏みにじってしまったり、信頼を裏切るようなこともしてしまう。読んでいて、ハラハラしたり、悲しかったり、それでも彼を見限ることなく関わろうとする人たちに、感心させられたりする。
田村氏は凶悪犯罪を犯した人に違いなく、もし現実にこんな人が自分の身近に住んでいたら恐ろしいとは思うのだが、なんというか、時々すごく「まっとうなこと」を言うし、もしかしたら彼が正しくて世の中が間違っているのでは、と考えてしまうようなところがある。だからこそ、周りの人も彼をほおっておけなかったり、この人を題材に小説を書こうと思ったりした、というわけだ。
とにかく自分を曲げることができず、かたくななまでに「道理を通そう」としたために、わやくちゃな人生になってしまった、という感じで、文字通りドラマチックな人生なのだ。
あわわわ・・・あわわわ・・・と、彼の波瀾万丈な人生に巻き込まれたような感覚に陥りながら読み進め、文庫本のページ数をけっこう残したまま「身分帳」は終わる。
↓このあとネタバレ注意
そしてページをめくると、主人公の田村氏が福岡で孤独死し、作家が警察から呼ばれる、っていう「後日談」が展開される。
ここで私はもう、胸がいっぱいになって、号泣でした。
田村氏は殺人という、許されざる犯罪を犯したことには違いないが、一生懸命生きた。「幸せになる権利があったか」「許されていいのか」とか、そういう考えが、不思議と浮かんでこない。とにかく一生懸命に生きた、ただそれだけだ。
時がきて、その命が尽きるまで、人は、一生懸命に生きるしかないのだ。
後日談はその後もいろいろと続く。昭和が終わり、戦後の厳しい時代を生きた人ひとたちも、もうこの世からいなくなっていく。刑務所も変わる。人権意識も根付く。田村氏が生きた、暴力団が影響力をもっていたり、町内会長が近所の人達のトラブルを仲裁したりする時代ではなくなった。でも人は生きていく。
「生きる」ということを、ストレートに、まざまざと、精魂込めて書いた、すごい物語だと思った。
Posted by ブクログ
殺人罪で刑務所の服役を終えた山川の出所後の人生。
山川の人となりや考えかた、人との交わり方を深く鮮明に描き出していて迫力がある作品でした。
著者が他人を描くのにこれほど迄に山川になりきれるものなのか?と思うくらいに様々な場面で山川の心情がこちらにも伝わってきました。
ただ最後がこの終わり方?九州に就職の面接に行くのに、大家から立ち退き料を貰い、借金を返そうとする場面で終わり?
どうやって収集をつけたら良いのか分からない終わり方だった…。
Posted by ブクログ
すごく面白かった。復讐するは我にありよりこっちの方が断然好き。札幌高裁の人が偲ぶ会に来たところで何故かめっちゃ泣けた。佐木隆三さんは本当にすごい。
西川美和さんよ本当にありがとうと思う。映画も観たい。