あらすじ
味噌、醤油、ヨーグルト、日本酒、ワインなど、世界中にある発酵食品。著者はあるきっかけで“発酵”に魅せられ、日本だけでなく世界各地に伝承された美味なる食品を求めて旅をした。発酵とは、見えない自然を捉え、ミクロの生物と関係を結び、暮らしの中に喜びを埋め込む。この総体が発酵文化であり、そのローカル文化を通して人類の不思議を解くのが「発酵文化人類学」。発酵には、オーガニック、美容、ライフスタイル、イノベーションへの発展の側面があり、単なる食品にとどまらず、人間にとっての未来の可能性があり、歴史・文化を見直すきっかけになる。発酵は、今、人類の未来を左右する最も注目を集めている分野のひとつと言える理由がそこにある。
著者は発酵のしくみや人間と微生物との関わりを学ぶ中で、発見した。発酵には未来と過去があり、“微生物と人間の共存”は社会を見直すキーワードそのものだということを。
生物学、哲学、芸術、文化人類学などの専門用語を平易に解説した待望の文庫化。参考文献満載。解説・橘ケンチ(EXILE)
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Posted by ブクログ
著者の文章の書きぶりは至って口語的でちょっと軽めなのだが、内容はしっかりとタイトル通りに「発酵×文化人類学」をやっていて、かなり読み応えがあり、面白い。『もやしもん』が好きだった人ならまず間違いなくハマる。騙されたと思って読んでみてほしい。
『もやしもん』を知らなくても、味噌、醤油、日本酒やワインやビールなどの醸造酒あたりが好きだったり、ちょっと興味があるけど詳しくは分からん、という人なら、それらを扱っている章のみ読むだけでも、相当いろんなことが分かる。「発酵」という事象の奥深さ、その「発酵」をキーワードにして人類の文化や技術について学んでいく「文化人類学」の面白さがミッチリと網羅されていて、「発酵で作られた食材・酒」も「文化人類学」も好きな自分としては、楽しめないわけがないという本だった。
400ページ近くあるが、急がずゆっくり読むのがいい。急ぐ気がなくても、面白いと感じる場所にさしかかったら、あっという間に一章まるまる読めてしまうから。
Posted by ブクログ
文化に根付いてきた発酵が分かりやすく書かれていた。技術を時系列(というほど難解ではないが)で追っていくのは、ただ知識を垂れ流されるよりも頭に入る。
さらにそれを踏まえた上で現在発酵を用いてどのような取り組みがされているのかについて触れられているので、内容がするすると入ってくる。
また、著者のデザイナーという経歴もあってか、美術や音楽を食品やそれに携わる人々の比喩として用いることもあり、知識が多い人は物事を説明する時、類似する事柄をいくつも思い浮かべられるんだろうなと思った。
Posted by ブクログ
とても面白かった。
基礎微生物学から発酵文化の地域性や今までと今後の展望まで、簡潔に分かりやすく書いてある。
ここまで広範囲な内容を書くにあたってかなり勉強したことと思う。努力がすごい。
学生に読んでもらうのにもちょうど良い難易度(お酒の話はピンとこないかもしれない)。
ただ、個人的には文体とラブアンドピースなメンタリティがちょっと好みではなかったかな…。
微生物の世界は計り知れない。
腸内細菌がヒトの脳機能に影響を及ぼしている可能性があるという研究報告あるように、微生物には今までの常識では考えられないような役割が存在しているように思う。
著者は、人間が都合の良いように微生物を改良してきたと書いているが、私は微生物が「人間という環境に順応するように進化してきた」の方が正解に近いのではないかと思っている。
都合よく飼い慣らされ、相手の手伝いをしているのは微生物ではなく、人間なのではないだろうか。微生物がいなくて困るのは我々の方なのだから。
Posted by ブクログ
気になっていた一冊。
はじめのうちは、独特の文体と、そりゃさすがにこじつけてんじゃないの!なんて思いながら読み進めていたが…
次第に発酵が進んでくるのか、いったん著者の見ている視点に乗っかってみれば、心地よいグルーヴ感に浸りながら最後まで楽しく読めました。
手前みそな感想ですが。
Posted by ブクログ
作家さんにはよく「この本を書くために物書きになったんだな」と思うようなズバ抜けて突き刺さる一冊があるけど、この本がヒラクさんのそれではないかと思う。
世界が広がる、何度読んでもためになる、大好きな本です。
Posted by ブクログ
2020.7
発酵についての本を大きく超えて、人や社会の形を問う本。発酵や微生物や菌との関係から人間や社会を考えるとこんなにおもしろいことになるのか。この世にいる生き物のひとつとしての自分のこれからの生き方のスタンスが何となく見えた。上に前に成長して進化して…じゃないな、もう。足元や全体や見えないものを感じて環の中の個としていってみようかなと。
Posted by ブクログ
発酵×地域文化で発酵文化人類学。それぞれの地域の風土に併せてどんな発酵文化が生まれてきたのか少しマクロ的に教えてくれる。そして発酵の基礎についてもかなりの紙幅が割かれている。
過去からの技術や知識の体系を追ってみると、なぜそんなことができたのか?と不思議に思うことが多々ある。キノコの可食判定もそうだし、フグの肝の糟漬もそうだけど、たくさんの犠牲なしには成り立たなそうだ。発酵もそのひとつ。目に見えない微生物の働きをどう技術として習得して生活文化にしてきたのか。もはや先人への尊敬しかない。
現代では工業化された発酵がほとんどで自分で漬物も漬けなくなったし味噌も作らなくなった。発酵と腐敗を区別せずに安全の名のもとに手作りの梅干しも売れなくなると聞く。もっと発酵のことを知らないと文化も知識も失われ、化学式で表される工業的な発酵しか残らなくなるのでは?と危惧してしまう。
Posted by ブクログ
発酵×文化人類学!?
最初びっくりしたが、読んで納得。
それぞれの地方で獲れる食材と、その場所で生きている菌類を、人間があれこれ工夫して活動させて生まれたのが発酵食品なのだから、文化的な営みでもあるというわけだ。
ブリコラージュ(レヴィストロース)とか、贈与とかはまあ、お嫌いな方は読み飛ばしてもよろし。
独特な文体(「~であるのだよ」)で、軽々と、ジャンルの垣根を飛び越して、面白さを伝えていく。
「正直詳しくないんだけど…」と思いながら読み始めたが、こういうビギナー読者にもやさしい本だ。
発酵はたしかに、今やちょっとした社会現象だ。
身の回りをふりかえると、塩麴、甘酒のブームが来ているから、その実感はある。
レトロ志向なのかと思っていたが、ムーヴメントとしてはずいぶん幅広いようだ。
そのことを教えてもらえたのは第6章末の「発行ムーブメントの見取り図」。
菌類の遺伝子を編集する、バイオイノベーションが盛んになっているというのだ。
一瞬、頭の中のイメージがくるっと回ってめまいがした。
冷静に考えてみれば、人間に有用な発酵菌なのだから、そういう方向に進めようと思う人がいて当然だ。
が、何か抵抗感があるのはなぜだろう…。
Posted by ブクログ
【カビとともに生きるロマン】
柑橘類には緑のカビ
いちごには毛(?)の長い白黒のふさふさしたカビ
メロンは黒斑のカビ
うんうん、カビって生えるものとの相性があるよね。
おもしろいよねー。
昔、酵母汚染!という主張に関わることがあって
そのとき初めて酵母や乳酸菌のこと調べて
実際問題、酵母や乳酸は味方にするととても心強く
そして逆に敵とみると超やべえやつ
という知識があった。
だって当たり前に存在するものですよ。
それを人間の生きる環境下から除去するって、
…how?
発酵と腐敗は同じもので、
要は人間がその状態をよしとするかどうかであって。
ちなみに確か乳酸菌数の上限値縛りがあるのは
浅漬だけだったかな、そんなんもあるみたい。
発酵すてき!
やっぱロマンがある。
手前味噌文化にふれたい!
…味噌スープ、うちの娘大好きなのよ。
みそから一緒につくったら絶対楽しいよねとか。
自然界からもらい受け、利用し、共生し、…
というか生かされてるよね。
というのを改めて本書で感じました。
ありがたや。
そして発酵文化を生業とするの、うらやましい。
厳しいだろうけどロマンがある!
パイナップルを切りました。
2日後に食べたらシュワシュワするよー
さて発酵か腐敗かどっちかな?
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これに感化されてもやしもんが気になっている。表紙が可愛くて手に取っただけだったが、単なる発酵の仕組みを学ぶような本ではなく、人間と自然の関わり等まさに人類学的な部分もあり、著者の一見バラバラに見える興味関心(デザイン・発酵・)が線でつながった様子は、まさにconnecting the dotsなのかな、と。
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親しみやすいユーモラスな文章。お酒に関する章、最終章が好みだった。最後まで読んだときに、タイトルが『発酵文化人類学』たる意味が深く理解できた。
Posted by ブクログ
発酵文化人類学
発酵の仕組みと文化人類学を初めて学ぶには、非常に良書。個人的には文化人類学に関しては既知情報が多かったが、発酵の仕組みを学ぶことができたのは面白かった。発酵とは、腐敗と紙一重の奇跡であり、人間の役に立つかで正否が決められている唯心論的なものであるという冒頭の一文は唸らせる。
発酵とブリコロールのところでは、日本の農村の大豆の使い方の多様性に改めて驚かされる。農村では、米、大豆が主な収穫物であるが、大豆をもとにした醤油、味噌、豆腐、納豆、米をもとにした米麹や日本酒など、非常時にバラエティに富んでいる。豆腐の味噌汁なんでものは塩と大豆に工夫を凝らしたものにすぎないが、その工夫というのがまさに発酵なのである。発酵は保存の手段でもあるが、それを利用することで、バラエティの少ない食物から、彩り豊かな食卓を作る触媒でもある。発酵おそるべしである。
なお、発酵とは、微生物を媒介とする人間と植物の輪の循環というのもいい得て妙だ。ここではマルセルモースの贈与論などが引かれているが、コミュニケーションとは常に過不足があり、永久機関のように回り続ける。贈答品のやり取りそのものに意味はなく、そのやり取りによって立ち上がる交流の輪にこそ意味がある。ここに、西洋哲学の基本概念である自由意思を持った個人の解体を見ることができるが、発酵とは、微生物を介した人間と植物、ひいては自然界のループの一つのブリッジにすぎない。そして、発酵を学ぶことで、我々もまた、大きな視野でみれば、チェーンの一つであるとも感じられる非常に大きな示唆があるのであった。
後半は、日本酒、醤油、ワイン、味噌づくりなど多くの発酵食品を手掛ける若手の起業家に注目されていたが、現在、高級ブランド化している日本酒や醤油などは、ハイリスクハイリターンの製法で臨んでいるからこそ価値があるということがわかった。発酵は一歩間違えると腐敗となる。そのため、資本主義は加工や無菌室などをうまく使って腐敗が起きる可能性を減らしてきた。しかし、今のブランド化している日本酒や醤油などは、加工によって失われた薫りや味わいなどを求めて、一切加工しないものを志向している。これもまた面白い取り組みである。
Posted by ブクログ
発酵が人類の生活を向上させている。しかし発酵と腐敗は表裏一体。人間がコントロールするためには未解明なこともたくさん。醸造家は微生物とのコミュニケーションしている。それを頂きながら醸造家とコミュニケーションする。生きる意味に踏み込めるテーマ。面白かった。
Posted by ブクログ
おもしろかった。かつて学んだ文化人類学がこんなふうに立ち上がってくるのはとても楽しい。特にPART2の風土と菌のブリコラージュは、著者の考え方が伝わってきて興味深く読めた。
ただ、読みにくい。本書がおもしろくてわかりやすいこととは別である。ブログを元にしているということだからか、体系的ではなく(そこは著者も冒頭で述べている)、見出しがないのも難点だろう。大文字が見出しかと思いきや違ったり、所々に1行空きが挿入されるのもブログの名残りか。図と文章の連携も甘く、これは著者のせいというよりは編集者のせいとも言える。
日本各地の醸造文化の紹介にはワクワクさせられる。続刊に期待!