あらすじ
刑事一課のエース、上内亜梨子(かみうちありす)は焦っていた。時効まであと一箇月。眼前で取り逃した渡部美彌子(みやこ)の矛盾に満ちた行動、彼女の足取りを消す奇妙な放火殺人、そして美彌子本人からの手紙……何かがおかしい。この逃亡劇にはウラがある。巧緻に張り巡らされた伏線が視界を反転させる時、急浮上する驚愕の真相とは――。圧倒的なディテールと極限のリアリティで「刑事の仕事」を描く本格警察ミステリ。(解説・大矢博子)
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Posted by ブクログ
上巻星4.0, 下巻星4.3
「捜査書類に語らしめる」というコンセプトで編集された小説スタイルが掛け値なしに素晴らしかった。これは前作の『新任巡査』でも使っていない大技であり、『刑事』に歩を進めてよかったと思えたところ。しかもそれを示すことが実質的に「読者への挑戦状」となっていることも、物語の示す刑事職の「文書主義」「法律で戦う者たち」という気概が込められているように感じられた。ほかの刑事小説にはないユニークな味わいがあった。結末の対決シーン相当の描写も良かった。
ただ、主人公が影で同僚を応援する風に〆たのは、義心を感じる一方、なんだか気味が悪くも感じた(あまり手放しでカッコ良いものとは感じられなかった)。実際にはそうした応援なしではなかなか難しいという実態は想像に難くないけれど、女性刑に対するあしながおじさん的なムーヴというか、保護的な印象に読めてしまった。あのムーヴをカッコ良い行為としておくこと自体が原田が公安向き(裏でこそこそ良かれと思って物事を進める奴っぽい)であることを、逆説的に示してしまってるようにも感じられた。
そうしたひっかかりはあるが、全体の出来にはさして疵にならない。細部まで考証された、刑事課の刑事の仕事ぶりを小説に仕立ててくれた良質な小説である。