あらすじ
「もっと早く、せめて団塊ジュニアが結婚、出産期に入るまでに、手が打たれていれば……」。1・57ショック(1990年)から30年。いまだ出生率が低迷し、人口減少が始まっている日本。家族社会学者である著者は、失敗の原因を、未婚者の心と現実に寄り添った調査、分析、政策提言ができておらず、また日本人に特徴的な傾向・意識、経済状況を考慮しなかったからだと考える。日本特有の状況に沿った対策は可能なのかを探る。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
毎週観てる「マル激 トークオンデマンド」に著者の山田昌弘さんが出演し、この本が紹介されたので興味持って手に取った。
山田さんは「パラサイト・シングル」や「婚活」などの言葉を生み出した社会学者。本のタイトルの通り、日本の少子化対策の失敗を論じている。
読んだ感想として、「なんだ、もう答え出てるじゃん」ということ。
本当にすべてその通りで、データを使ってしっかり論を補強しているので、納得するしかない。
特に秀逸なのが以下2つの考察
・欧米固有の以下4つの価値観を少子化対策の前提にしてしまったことが失敗の要因
①個は成人したら親から独立して生活するという慣習(若者の親からの自立志向)
②仕事は女性の自己実現であるという意識(仕事=自己実現意識)
③恋愛感情を重視する意識(恋愛至上主義)
④子育ては成人したら完了という意識
・日本固有の前提(価値観)
①将来の生活設計に関するリスク回避の意識
②日本人の強い「世間体」意識
③強い子育てプレッシャー(子供への強い愛着)
この欧米固有の価値観と日本の価値観は相反するので、当然欧米固有の価値観に立脚した対策が有効なわけがない。
この日本人の価値観の①は、要するに「甘ったれている(=精神的に子供のまま)」ことが原因だと思う。すでに経済的に没落し始めているのに、自分たちは「中流以上」だと思い込む。日本の没落を証明するデータは山ほどあるのに、それをまともに見ようとしない。子供が都合の悪い、嫌な物を見ない心理と同じ。しかし、これは価値観だけに容易に変えられない。
本の最後で、親の生活水準と若者が将来中流以上の生活を送る見通しのパターンを以下4つにまとめ、少子化対策はこのタイプ②に対して行う必要があると結論付けている。
タイプ① 親:中流以上 子:見通しあり
タイプ② 親:中流以上 子:見通しなし
タイプ③ 親:苦しい 子:見通しあり
タイプ④ 親:苦しい 子:見通しなし
その通りだと思うが、そのための以下2つの方策はどちらも実現性に乏しい。
①結婚して子供を2、3人育てても、親並みの生活水準を維持できるという期待を持たせるようにする
②親並みの生活水準に達することを諦めてもらい、結婚、子育てをする方を優先するようにする
①は不可能。すべての経済指標が示している。日本は今後経済的に落ちていくしかない。つまり、貧しくなる。そんな中で①を実現できるはずがない。
つまり、②しか選択肢がないわけだが、甘ったれた日本人は中流以上に落ちているという現実をいつまで経っても認めないのだろう。
岸田が言ってる「異次元」の少子化対策も、具体案が出てないので論じるに値しないが、この本で述べている従来通りの「欧米固有の価値観」に沿った対策しか出てこないだろう。となると、最後に書かれた「望ましくないシナリオ」に向かって進むしかない。タイプ①とタイプ④の2つに分断される=アメリカ化である。私は、今の自民党にまともな政策を考える能力があるとは思っていないので、間違いなくその方向に進むと確信している。
最後に、この少子化問題は若者の問題のように語られるが、私は違うと断言したい。この問題は、60〜70歳以上の団塊世代の「老人」や、現役で働いている「団塊ジュニア」世代(私もここに入る)の問題だ。前述の通り「意識」の問題で、その意識を強固に持って手放さない、甘ったれている主体は、若者以外の世代の人間だ。そもそも、日本を経済的に没落させたのがこの世代だ。今の若者はその煽り(影響)を受けているに過ぎない。
日本の人口構成は逆ピラミッドなので、老人ほど人数が多い。よって、政治的な影響力が強い。この甘ったれた世代の意見(意識)が政治に反映されることになる。大半の政治家もその世代だ。しかも、日本は既得権益(≒価値観)を容易に手放さない(手放せない)社会だ。コロナ対策でもそれが証明された。こんな状況で、数年以内に有効な少子化対策など打てるわけがない。
私は、こういう本を読んで、事実を知って、しっかり「絶望」することが大事だと思っている。「今のまま」だと希望はない、と自覚する。そうすれば、変化しようという意識が生まれる。自分たちの「甘え」を自覚して危機感を持つ。そこからスタートするしかない。
正直言って、日本人にそれが出来るとも思っていないが、出来なければ、2流国/3流国に落ちぶれる未来が待っているだけ。むしろ、そこまで落ち切った方が早いのかもしれない・・。
Posted by ブクログ
少子化対策の担当者でもないのに、こんな本読んでどうするつもりだ、私?と思いつつ、サブタイトルにも惹かれて読みました。読んで気づいたけど、著者の山田昌弘氏は「パラサイトシングル」という言葉を創った人で、私はまさに20年近く前にその言葉に触れて、「これって私のことだわ」と思って焦って婚活し(笑)、今は氏が「失敗した」と言っている少子化対策に多少なりとも影響を受けつつ子育てしている。つまり、氏の研究対象である団塊ジュニアを代表する「地方在住の中流階級」ってところだ。
この本の分析によると、日本の少子化対策はそもそも、都市部に住んでいて経済的に安定しているカップルのことしか想定していない。非正規雇用で、結婚・出産すれば生活を維持していくのが難しい若者にとって、今のような政策は意味がない。
私もいつも、日本の官僚や政治家は想像力に欠けている、というかほとんど想像力がないと思っている。っていうか、想像しようとすらしていない。自分たちのような階級の人のことしか知らないし知ろうともしない。GO TOキャンペーンにしたって、旅行に行こうなんて思えないぎりぎりの生活の人のことなんてこれっぽっちも考えていないことがわかる政策だった。(あれって政策と言っていいのかな?)
これまでの政策の間違いや、間違っていたということを裏付けるデータなど、とても興味深かった。(自分のことともかぶるし)。で、興味深いなぁ、面白いなぁで終わってしまうのは新書としてはダメで、解決策というか提言みたいなのがあればいいんだけど、本書では最終章で、「日本で、有効な少子化対策はできるのか」ということで、2つ方策をまとめている。
①結婚して子どもを2、3人育てても、親並みの生活水準を維持できるという期待を持たせるようにする。
②親並みの生活水準に達することを諦めてもらい、結婚、子育てをする方を優先するようにする(日本人の意識改革)。
というもので、どちらも「簡単にいくものではない」としている。
①については、私の身近では、近隣の市が競い合うようにして子育て支援策を充実させてきているので、子育てにあまりお金がかからなくなってきており、もともとどちらかが定職についているカップルにとって、子どもを1人育てるなら、2人でも3人でも何とかなりそう…という動機付けにはなっている気がする。でも、そもそも定職に就けず、結婚もしづらい若者にとって有効な政策は何も行われていないと思う。
②については、今の世の中、かつてのようにみんなが皆トウキョウに行きたい、都市に住みたいとは思わないし、都市でかっこいい職業に就いて高給もらうのがステイタスではなくなり、お金のかからない田舎暮らしやオタク文化に価値を見出す人もいて、価値観が多様化しているので、けっこうアリかな、と思う。
でも日本の政策担当者はアタマが硬いので、あらゆる価値観を認めて柔軟な少子化対策を執り行うのは無理だろうな!