あらすじ
地獄変の屏風を画くため、娘を火にかける異常の天才絵師を描いた「地獄変」、映画「羅生門」で一躍世界に名を馳せた「藪の中」など、古い物語の中の人物を見事に近代の中に蘇らせ得た、芥川王朝物の第二冊。他に「運」「道祖問答」「袈裟と盛遠」「竜」「往生絵巻」「六の宮の姫君」「二人小町」を収める。(解説=中村真一郎)
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4月の感想会(芥川龍之介・魔術)から地獄変を読んでみる。久しぶりに吐き気がした!堀川の殿様に仕える絵師の良秀は嫌われ者だが、娘は気立てが良く可愛がられ、良秀の自慢の娘だった。ある時、良秀は大殿様から地獄の様子を描いた屏風を描くようにと命じられる。しかし良秀は実際見たものしか描けないと言い張り、牛車に女性を乗せて燃やしてほしい、その様子を描きたいと大殿様に申し出る。大殿様は承諾し、牛車に乗せたのは良秀の娘だった。良秀は目の前で苦しみながら死んでいく娘の姿を描き、屏風を完成させますが、首を攣って自殺した。⑤
我が娘は死なざるを得ない状況、良秀の絵師としてのプライドなのか、堀川の殿様への復讐として、見るたびに断末魔の叫びが聴こえるような地獄絵図を描ききった良秀。正気の沙汰ではないが、良秀のプロ根性を見た。さらに、それを書ききった芥川龍之介のプロ根性・叫びだったのかもしれない。
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読んでいて、書き手の顔が浮かんでこない。僕にとって、そういう感覚を覚える作家はそう多くない。第三者に語らせるという、表面上の技巧の話ではない。作者と関係の無い場所で起こった出来事を、作者と関係のない人が記述したものを読んでいる感覚。しかし、どの作品も無駄がない。何故、これ程読みやすいのか。読み手が、敢えて文章の意図を汲み取ろうとせずとも、文字を追っているだけで、流れるように物語が進んで行く。今回は軽く読みさらってしまったので、今後、精読を重ねたい。
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地獄変
お猿の存在が印象的でした。鬼気迫る文章に魅了されました。
語り手の信頼できなさも面白かったです。
藪の中
感情による脚色が施された証言によって生じる不透明さが不気味でした。
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わたしが一番好きな本。
とりわけ、『袈裟と盛遠』『藪の中』が好き。
その作中の女性が好き。
女性は男性に対して唐突に、大胆な事をする。ある種の凄みをもって。
男性はそれを受け入れるしか術はない。
『袈裟と盛遠』は、「盛遠という男性が袈裟という女性の亭主(渡)を殺害する前夜」の話である。
袈裟と盛遠は互いに憎しみあいながらも関係してしまっている。
盛遠は袈裟に言う。
「渡を殺そうではないか」
袈裟はそれを、なんと承諾する。
その時の「いきいきとした」表情に盛遠は困惑するが、この誓いを全うする事を心に決めざるを得ない。
それは何故か??
『藪の中』に登場する女性も同様の突飛さがある。
それは
自分を手籠にした盗人・多襄丸に対しての
「では何処へでも連れて行ってくだい」
であり、
その後、夫を指差して幾度となく叫ぶ
「あの人を殺してください」である。
女性はスキャンダラスだ。
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芥川の王朝物のなかから短めのもの十一篇が収録された短編集。
芥川って今まで本当に「羅生門」と「蜘蛛の糸」しか読んだことがなかった。なんかもう馬鹿みたいだけど、めちゃくちゃに上手い!自分が今までどれだけ教科書的な先入観に侵されていたかを反省。
とにかく文章を目で追うだけでうっとりしてしまう。「運」の、簾の隙間から覗く往来の風景描写。「地獄変」「邪宗門」での、『大鏡』の語り手を思わせる人を食った語り口。「道祖問答」「好色」「二人小町」の洒落たユーモア。漱石門下で西洋文学の読み方をガッチガチに身につけながら、日本中古の説話集から題材をとることによって、捉え直された物語のエッセンスが凝縮され、完全に〈今〉の小説と感じられる。たしかにこの人はすごい発明家だ。
「竜」は西崎憲の「雨竜見物」の元ネタかな?というかそれが収録された『蕃東国年代記』の宇内というキャラクター自体、「邪宗門」の若殿をモデルにしているように思える。『蕃東国〜』は日本をモデルにした架空の極東の島国という設定で、西洋から見た東洋のイメージを巧みに織り込んでいたが、芥川にもそういう逆輸入されたオリエンタリズムが溢れていて、だからこそ現代的なんじゃないだろうか。小説の形式としては完全に西洋文学で、平安貴族界のドンファンを描いた「好色」や、黄泉の使者すら手玉に取る女たちを描いた「二人小町」などの喜劇はフランスっぽい。「邪宗門」の摩利信乃法師もアポリネールの贋救世主みたいだし、「道祖問答」はオスカー・ワイルドっぽい。全体に、ユルスナールの『東方綺譚』も思い出させる。
また、はじめてまとまった作品群を読んだが、こんなに〈恋〉をテーマにした作品が多いのはイメージになかった。愛ではなく、より執着と幻想に近い〈恋〉。あるいは、その執着を引き起こす〈運命〉を取り扱い、身を滅ぼすほどの破滅へと人を導く恋の引力を物語の中心に据えていたのが意外だった。「藪の中」はここに男のメンツ問題が絡んできてドラマティック。でもこれ、誰の話が正しいにしろ、女は責められる謂れなくない? 一番好きなのは「邪宗門」!未完なのを知らずにエッと声を上げてしまった。こんないいところで……。
作中の女性観にイラッとするところがなくて、これもすごいと思う。もちろん王朝時代を舞台にしているのだから、登場人物たちは夜這い当たり前・女は男の所有物・行き遅れは無価値、という価値観の持ち主なのだが、それに対して地の文には人を物のように扱うことへの批判的な目線がはっきりと感じられるのだ。同じ目線は男女の関係だけではなく、身分制度というものにも当然向けられている。また、理想のみを見て実態から目を背けることの滑稽さをも描いており、崇めるにせよ見下すにせよ、他人を自分に都合よく解釈する視線には疑問を呈している。その上で、キャラクターをオブジェのように作り出して配置する物語作者としての自覚も強い。この二つが合わさると、今日基準のリテラシーで眺めても手放しで素晴らしいと思える作品になるのだなと思った。フィクション作家はみんなこうであってほしいものだよね。
あと、思ってるより全然エンタメ小説だったのも驚きだった。どんだけ先入観強いんだよって感じだけど(笑)、文体も勿体ぶったところがないしリーダビリティが高い。芥川が衒学趣味と言われたのは、自然主義小説全盛期に虚構世界のディテールを突き詰める人だったからなのかもしれない。精巧に作られたジオラマをのぞいているような、色褪せないきらきらのブローチみたいな小説。
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『運』
『道祖問答』
『袈裟と盛遠』
『地獄変』
『邪宗門』
『竜』
『往生絵巻』
『好色』
『藪の中』
『六の宮の姫君』
『二人小町』
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今 読み返してみても 新鮮に面白い!
芥川さんの作品は斬新で スゴイと思う。
人の心の裏側や 黒い部分、理不尽なこと・・・
人間の 光と闇の部分について教えてくれる 教科書的な存在。
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藪の中;1921年(大正10年)。
上質なサイコミステリのよう。古今の推理小説を探しても、これだけシャープな短編は稀だと思う。無駄のない研ぎ澄まされた構成に、常套句になるだけのことはあると納得。1つの殺人に3つの解釈、真相は今も…。
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正直、前半の『運』『道祖問答』はあまりおもしろくなく、妙に説教臭さばかり鼻についた。『袈裟と盛遠』に至っては全く意味がわからない。
次の『地獄変』は伊藤整などの小説評論や近代文学の概括によく出てくるので期待しつつ、流石にちょっと面白いなと思ったが、その続編みたいな入り方で始まった『邪宗門」の前半はまた退屈になり、後半になって盛り上がってきたところでこの作品は中絶。
『龍』『往生絵巻』とまた説教臭いのが続き、買ったのを少し後悔し始めながら『好色』を読み始めると、平中が侍従のとこに忍び込む夜の情景がやたらにリアルで、文字通り実際にみるようだったことで急に感動を覚え、『藪の中』は少し狐に摘まれたような感じで終わり、読み返そうか、いやでもあと一息でもうこの本も終わりだからと振り返りたい気持ちを断ち切って『六の宮の姫君』を読み切って少し切なくなり、『二人小町』で爆笑した。黄泉の使の間抜け加減と小野小町、玉造小町の女子会ノリが強烈だった。
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平安な雰囲気がよろしい。「新・平家物語」の後に「袈裟と盛遠」、「少将滋幹の母」の後に「好色」、「大鏡」の後に「地獄変」を読んだので、更に面白かったかも。
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地獄変・邪宗門・好色・薮の中 他七篇
(和書)2010年04月16日 19:20
1980 岩波書店 芥川 龍之介
芥川竜之介って短編小説として知られているけど、批判というものを見事に捉えていた人なんだなって感じています。柄谷行人と似ていると思います。
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芥川の中では聞いたことの無いような作品が多かった。いい機会に読めたと思う。一つひとつの短編同士が繋がっていることでいくつかのまとまりとしてすんなり溶け込むことができ、彼の中では非常に読みやすかった。しかしまだ最近のものと比べると難しく感じるので今後も慣れ親しんでいきたい。やはり有名どころは面白く「地獄変」や「藪の中」は秀逸だった。
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地獄変は相変わらずの壮絶さ。高校の時の国語の先生と絶賛し合ったのがとても懐かしかった。好色は恋狂いってまさにこんな感じだと思えた。今まで真剣に人のことに恋した事のない人ほど人に真剣に恋すると辛い思いをするものですね。
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芥川龍之介の『蜘蛛の糸』『藪の中』『悪魔』『羅生門』『不思議な島』『地獄変』を読んだ。残酷さの感覚が簡潔と感じる。故意に怖がらせようとか驚かせようとか言う作者の押し付けが皆無。ぐーっと引きこまれる感じは、耳元で読み聞かせて貰っている様な感じになる。漱石とか太宰が回りくどく感じたよ…芥川読むと。物凄く現代的、と言うのかなぁ。
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芥川龍之介の王朝物。
「運」…仏のご利益についての短編
「道祖問答」…道命阿闍梨と翁の短編
「袈裟と盛遠」…袈裟と盛遠の独白からなる短編
「地獄変」…地獄変を描く絵師の短編
「邪宗門」…異形な沙門をめぐる短編(未完結)
「竜」…源隆国と思われる人が双紙を編む短編
「往生絵巻」…多度の五位という人物が出家した短編
「好色」…平貞文の短編
「藪の中」…今昔物語の『妻ヲ具シテ丹波ノ国ニ行ク男大江山ニ於テ縛ラルル』を題材にした短編
「六の宮の姫君」…身寄りのない姫と、姫を残して京を去る男の短編
「二人小町」…小野小町と玉造小町の短編
「運」の題材も今昔物語『貧女清水観音値盗人夫語第三十三』だそう。
「地獄変」、「邪宗門」の堀河の大殿とその若殿は、
藤原基経と藤原時平のことだろうかと思いつつ読み進めていたけど、
実際の人物に定められるものではないようでした。
モチーフにはしているのかもしれません。
「邪宗門」は、本当に良い所で未完となっており、続きが気になります。
「袈裟と盛遠」は、ちょうど吉川英治の「新・平家物語」で、
このエピソードを読んだところだったので、また違った趣を楽しみました。
「六の宮の姫君」の最後に、慶滋保胤が出てきます。
この話は小泉八雲の「和解」と少し似ています。
単純な感想ですが、どの短編も、「すごく面白い」です。
Posted by ブクログ
地獄変と好色が特に良い。
良秀の屏風の描写は本当に鬼気迫る。
昔の文豪というのは、現代の我々が読みやすいかは措いても、描写力(心情も含む)が桁違いにすごいと思う。
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藪の中が読みたくて購入。
発見が多かった。
地獄変が、こんな話だったとは。いやはや、記憶は本当にあてにならない。
国語の教科書で読んだ記憶では、自宅が燃えてる様子を描いていた程度だった。
猿のサイドストーリまであったなんて。
娘の胸の内は闇のまま。
藪の中は想像力を掻き立てる。
当事者達(!)フルキャストで登場。おしげない。豪華。
独白だからできること。
この話の真相をどう推察するかで人となりがわかる鏡。
好色のオチが衝撃的。完全故に人が死ぬ。
全編時代がかっている。
妙に星新一を思い出す。
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表題外の収録作について。
「袈裟と盛遠」は個人的に感じ入るものあり。
二人が複雑な葛藤を経てどうしようもなく堕ちてしまわざるをえない様が、(私には)他の作品と少し違った読後感を持った。
邪宗門が完結していないのが、それもここから盛り上がるであろう部分で終わっているのが本当に残念でならない。
芥川は後書きで、未定稿を上梓する理由の一つとして「作者の貧」を上げている。それ自体は残念だが、世に出てくれて、また途中までだが読めてよかったと思う、「読ませる」作品である。
また、本作品は芥川にしては長編に思う。
Posted by ブクログ
*青空文庫
「地獄変」
字面を追うだけだった高校生くらいの頃に一度読んだことがある。
あらためて読むと、オチは最初からみえみえなのだが救いのなさがエグい。しかし、クライマックスの情景の美しさである程度相殺されてる。
人の残酷な感情というのは自らを追い詰めるが、「美」と共存することで精神の均衡を保っているのかもしれない。
あと、前に読んだ時よりスラスラよめた。どんだけ読めなかったのかと…
「藪の中」
主観の違いでまったく話が違っているが、それぞれ嘘のつもりで言っているわけだはないので推理小説とはまた違う味わいがある。
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そろそろ「藪の中」を読まなきゃいけないと思って購入しまんた。
ワタクシ、あんまりいわゆる「文学作品」って読まないんです。
そんな文学部日文科生。文学部崩壊の危機ですな。
いやー、面白い! 芥川素敵すぎる☆ 読み応えありまくりすてぃ。
芥川のことだから結末に何かあるだろう、って先が気になる感じが最高によいですな。
「藪の中」以外にも読んだことのない作品があったので、なかなか教養の勉強になりました。
好きな人を嫌いになるためにウン○を盗むってネタ、教養に富んだ小話に使えないかしらん?
それにつけても「邪宗門」の続きが読みたきことよ。ムキャー!
【目次】
運
道祖問答
袈裟と盛遠
地獄変
邪宗門
竜
往生絵巻
好色
藪の中
六の宮の姫君
二人小町
解説 中村真一郎
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高校時代、国語の教科書で読んだ時はよく分からなかったけど
大人になってこうゆう文学作品をじっくり読んでみると面白いです。
特に藪の中が好きで感想文を書いた思い出が(笑)
文章も分かりやすいし読みやすい。
なんといっても芥川調の暗さが独特でたまりません。
真相は藪の中…答えは読者の心でそれぞれ出てしまう。
Posted by ブクログ
初めてまじめに芥川を読んで、その偉大さを知りました。私的には「藪の中」と「袈裟と盛遠」が特に秀逸だと思いました。登場人物が順番に語っていく形式が好きなのかもしれない。「藪の中」は真相が最後まで分からないけど、私的には殺された男の話が真実だったのではないかと。もしくは全ての話が嘘のどちらか。「袈裟と盛遠」は二人の倒錯めいた愛情の描写が本当に凄い。「邪宗門」が未完なのが残念すぎる。とにもかくにも大正期にこれだけクオリティの高い短編を書いていた芥川はほんと天才だな!
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現代でもありそうな作風で一番面白かった『邪宗門』ですが、何故そこで終わるのですかね、芥川先生。未完に終わった作品の中で最も後味の悪い作品でした。
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「好色」だけ読んだ。現代の高校生と似たようなテンションだなーと思った。「『見た』だけでもいいから返事欲しいな」という文に対して「見た」って本気で送り返す侍従強すぎる。そしてめげずに60通も和歌を送る平中もすごい執念というか、絶対惚れさせると躍起になる優男そのものにしか見えない。平中にとっては悲劇でしかないのに、コメディのように見えるところにおもしろさがあるのかも。
Posted by ブクログ
「地獄変」がお気に入りでこっちのほうを買ったが、マイナーなほうなのか。
語り手の丁寧語がこの先の結末へのほの暗い予感を醸し出しているし、想像通りに物語のクライマックスの、気狂いじみた感じがよい。
加えて、この語り手は客観的中立な体をしているが、これも一つの主観のような気がする。良秀はただの頭のおかしい人なのか?本当に大殿様と良秀の娘はなんでもないのか?
Posted by ブクログ
地獄変、道祖問答、袈裟と盛遠、竜往生絵巻、六の宮の医者。二人のこまち、が入っている。中でも印象的なのは、二人のこまち。と藪の中。
ふたりのこまちは、死にたくないあまりに女の武器を使って使いをたぶらかす。死なないように説得する。
おいて後悔する。使いは二度とだまされない。ように取り扱わない。女は怖いという。
藪の中は、、それぞれの視点から事件が語られる。殺された人は例として話される。面白いと思う。
Posted by ブクログ
これも王朝物のセレクション。未完で尻切れ作品の「邪宗門」のような作品もあるが、芥川の短篇の代表作「地獄変」と「藪の中」の完成度がやはり高い。京の都なのに死体が道端に放置されているのが珍しくない時代なので全体的に重い雰囲気だが、戯曲形式の喜劇作「二人小町」が一番面白かった。芥川のユーモアのセンスが光る小作品だが傑作。