あらすじ
現代のロンドン。日本からビクトリア・アルバート美術館に派遣されている客員学芸員の甲斐祐也は、ロンドン大学のジェーン・マクノイアから、未発表版「サロメ」についての相談を受ける。
このオスカー・ワイルドの戯曲は、そのセンセーショナルな内容もさることながら、ある一人の画家を世に送り出したことでも有名だ。彼の名は、オーブリー・ビアズリー。
マクノイア曰く、「とにかく、世界は知ったわけだ。あのオスカー・ワイルドを蹴散らすほどの強烈な個性をもった若い画家が存在するということを」。
保険会社に勤める病弱な青年・ビアズリーは、1890年、18歳のときに本格的に絵を描き始め、ワイルドに見出されて「サロメ」の挿絵で一躍有名になるが、その後、肺結核のため25歳で早逝。
フランス語で出版された「サロメ」の、英語訳出版の裏には、彼の姉で女優のメイベル、男色家としても知られたワイルドとその恋人のアルフレッド・ダグラスの、四つどもえの愛憎関係があった……。
退廃とデカダンスに彩られた、時代の寵児と夭折の天才画家、美術史の驚くべき謎に迫る傑作長篇。
※この電子書籍は2017年1月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
オーブリー・ビアズリーという画家を、皆さんご存じでしょうか?
彼は19世紀イギリスの画家で、非常に耽美的で退廃的な作品が特徴です。このお話は、そんな耽美主義の鬼才とも呼ばれるビアズリーについての作品です。
この作品の醍醐味は、何といってもオスカー・ワイルドとの関係性、そして姉・メイベルの描写です。
ワイルドとは、『幸福な王子』や、この小説の題にもなっている『サロメ』を手掛けた小説家のことです。
ビアズリーは実際にワイルドの『サロメ』の挿絵を描いているので、関係性は少なからずありますが、この小説ではより濃密に二人の関係性を描いています。
また、歴史にはあまり出てこない姉のメイベルですが、この小説ではビアズリーとともに生きる主人公のように描かれています。メイベルの視点から見たビアズリーの狂気的な一面が見られることも、この小説ならではだと感じます。
ビアズリーとワイルドの関係性はどのように描かれるのか。
メイベルはいったいどうなってしまうのか。
この小説で歴史の謎に迫ってみませんか?
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Posted by ブクログ
当初、ワイルドが"サロメ"なのだと思っていた。彼がオーブリー・メイベル姉弟や恋人ダグラスらを破滅させる存在なのだと。
違った。メイベルこそサロメ。紛れもなくファム・ファタールだった。
出会った当初に、ワイルドがメイベルに「君はもっと君にふさわしい妖艶な役を演じた方がいい。ファム・ファタールのような」と声を掛けたが、この時点でワイルドはメイベルの本性を見抜いていたのかもしれない。
ラストも圧巻。メイベルは、あの瞬間、確かにサロメになった。
Posted by ブクログ
サロメの作り方。嫉妬心を操って弟を利用しようとしたワイルドを逆に嵌めたはずが、それが原因で弟は死に自分も破綻する姉。最後に破綻した者同士が「サロメ」の演者と観客として再会。
「サロメ」の挿絵の作者は知らなかったけど、作中の描写からあの絵のことだと容易に想像できるほどインパクトがある絵。こんな裏側があったとは驚き!原作を読みたくなる。
Posted by ブクログ
戯曲原作の「サロメ」の作者オスカーワイルド、それを有名にした挿絵を描いたオーブリービアズリーとその姉メイベルビアズリーの話。ヘロデ王ヘロディアサロメオスカーンのどれにあたる?
Posted by ブクログ
オーブリー・ビアズリー展でこの本を購入した。
「酷い英訳だったが挿絵が好評で売れた」の裏側。
今の自分と重なる点からいえば、強い愛情と正義、自己実現の執着を以て、愛情の対象を破滅させ得る。
物語としては解説の中野さんがよく良い射ており、"2人の天才を追いかけるうちに自身が化け物のようになっていった"がしっくり来る。
最後は怒涛だった。
深い愛を持って弟の安全を願った、自身のキャリアを望んだ姉が弟を含む3人を突き落とした。
病気で長くないことが分かっていた弟のその後の仕事を思えば良い結果だったのか、弟が熱望した未来を壊したことが何よりの不幸なのか。
弟に信頼された姉の愛ある裏切りによって、弟の夢は半分絶たれ、本人を含む関係者の誰もハッピーエンドに終わらない。その巧妙な計画と行動力は凄まじい。
酷い英訳と美しい挿絵で出版させたのはメイベルで、サロメはメイベルだった。
個人的には、オーブリーの意思を応援しながら読んだので、オーブリーの英訳と挿絵で、2人が悪名高く世間を賑わせる世界も見てみたかった。それもまたハッピーエンドにはならないのだろうが。