あらすじ
「自分革命」を起こすべく親友との縁を切った女子高生、家系に伝わる理不尽な“掟”に苦悩する有名女優、無銭飲食の罪を着せられた中二男子……森絵都の魅力をすべて凝縮した、多彩な9つの物語。
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Posted by ブクログ
森絵都さん初読。
どの短編も読み返したくなる。素晴らしい。
特に⑦。読み終えると同時に泣いた。40ページちょっとで、主人公の人生を深く辿らせるその手腕に脱帽。⑤、⑥の着想も圧巻。
①ウエルカムの小部屋
周囲の反対を押し切り、自称「発明家」の彼と結婚したその後の私と、トイレ。
②彼女の彼の特別な日 彼の彼女の特別な日
バーでの出会いの場面を彼と彼女の視点から。題名からして心地いい。
③17レボリューション
17歳。千春は自己改革のため、親友イヅモに一年間の絶交を申し渡す。しかしこのイヅモが本当にいい味。助演女優賞!
④本物の恋
カフェにて。8年前にほんの一瞬、一緒にいただけの彼を見つけ、彼も私に気づいた。秘密がうまく練り込まれている。
⑤東の果つるところ
あとがきに家系図は2日がかりとあった。お腹の子を「おまえ」呼ばわり以外は着想、ストーリーともに見事!
⑥本が失われた日、の翌日
いやいや、こんな着想できるか。極上のショートショート。
⑦ブレノワール
母と喧嘩し、ブルターニュとガレットを捨てたジャンが長い道のりの果てに辿り着いた、真実の白い花。
⑧ヨハネスブルグのマフィア
東京港湾合同庁舎、こんな場所で始まり、終わる10年間の「恋」。
⑨気分上々
最終行ちゃうやろ、どこから題名持ってきとんねん!最後の言い訳、中2男子が母親にできるか!思わず漫才のツッコミを僕は一人で入れてしまいました。いい感じです。
森さんの次は「みかづき」読みたいな。
Posted by ブクログ
「このからくりを知るのに必要なのは一定の時間だけだったのに、夫にはそれが待てなかった。そして、私は夫が待てるようになるまで待てなかったのだ。」p15
「いつもいつも無駄のない動きをする大人たちが、あたしにはときどきうらやましい。おもしろみはなさそうだけど、迷って立ちどまらずにすむ。」p58
「これだけは肝に銘じなさい。幸福など断じて恐れてはいけない。びくびくしている人間を幸福は見くびり、もてあそんだ末に身をひるがえす。」p140
名前の呪縛に人生を翻弄されたからこそ、自分の子供に宛てた手紙、「外の世界に踏み出せばごまんと他人がいる。何者にも縛られることはありません。」という言葉の重みが感じられた。
「彼らは絶えず死を見つめ、生きることに集中していない。なぜ死者よりも生きている人間の伸びやかな躍動を大事にできないのか?」p171
「身内にはなりえない他者として切り離す、それが彼らにとって最大の防御であり攻撃なのである。」p177
「言葉ってのはチャリのチェーンと一緒で、使ってないとさびついてくるもんだ。」p238
Posted by ブクログ
短編集。「自分はどんな人間か」を探す物語のように感じた。特に好きな作品二つ。『東の果つるところ』―「血が繋がっていようとなかろうと、その男が好もしい人物であるならばおまえといい関係を築けていけることでしょう。好もしくなければ切って捨てればいいのです。たとえ血が繋がっていても。」家族って、血の繋がりってなんだろう。でもこの言葉に救われる人も多いんじゃないかな。『気分上々』―森さんらしい青春小説!ラストシーン、母親がぷっと笑ったところで、なんだか少し泣きそうになった。