【感想・ネタバレ】貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析のレビュー

あらすじ

以下は、齊藤誠・名古屋大学教授の解説から――。

「こうして書いてくると、勘の鋭い読者は、「あぁ、暗号通貨のことね。フェイスブックだって、通貨を発行しようとする時代だからね」といわれるかもしれない。確かに、暗号通貨(cryptocurrencies)という革新的な金融技術が、ハイエクという天才の頭の中で考えた構想を実現する技術的な基盤を提供する可能性は十分にある。

しかし、ハイエクが「理想の通貨」(これは、ハイエクの言葉ではなく、私の勝手な強調)について突き詰めて考えたことは、ある意味、とても当たり前で、ずいぶんと地味なものであった。そんな通貨は、社会経済にとって大変にありがたいのだけれども、その通貨の発行者にとってそれほど儲かりそうにない代物なのである(もしかすると、持ち出しにさえなるかもしれない)。

それにもかかわらず、私的主体が格好のビジネスチャンスとして独自の暗号通貨を発行しようと競い、主権国家が、国際的な通貨覇権を握ろうと自前の暗号通貨を国際標準にしようと企てるかもしれない。暗号通貨をめぐるさまざまな思惑のために、通貨制度は頑健性を高めるどころか、その脆弱性を強めてしまいかねないのである。

ハイエクの構想では、政府の思惑とは独立に通貨制度が実体経済をしっかりと支える仕組みを作り上げることを意図していたが、暗号通貨という金融技術は、通貨制度を実体経済から引き剥がし、仮想空間の最果てへと強引に引き連れていく怖さがあるのである。言い方を換えると、暗号通貨技術は、「理想の通貨」にとって革新的すぎる可能性がある。」

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Posted by ブクログ

1/3くらい何言ってるか分からんかった
貨幣も他のものと同じように競争させることで理想の通貨が生まれていくという主張
確かに1国1貨幣という前提に疑問を呈してるのは良い

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2023年06月04日

Posted by ブクログ

ビットコイン、リブラ、中銀デジタル通貨。いま、お金をデジタル化する動きが進んでいる。成功するか、あるいは成功すべきかは今のところ分からないけれど、この動きを理解するための古典として本書を読んだ。

◆貨幣発行自由化論とは
どんな国を見まわしても、貨幣を発行しているのは国(ないし中央銀行)だ。そして1つの国で1つの通貨はあたりまえになっている。そんな中で、ハイエクは一見突拍子もないことを主張する。インフレやデフレが起きるのは、貨幣発行権を国が独占しているからだというのだ。貨幣発行を自由化し、民間の銀行が自分で貨幣を発行してお互いに競争すれば、通貨の価値は安定する。

◆そもそもなぜ独占はダメなのか
ビール会社が1社しかなかったとしよう。1社だと大量生産できて効率的だし、上司の好きな銘柄を把握して店を選ばなくて済むのでラクなようだが、困ったことも起きてしまう。
独占ビール会社は何を考えるか。儲けたい。儲けたいからビールの値段を上げよう。1缶200円のビールを400円にしてもビール好きなお父さんはたくさんいるので、そこまで消費量は減らないはずだ。(さすがに1缶1000円にすると日本酒やハイボールに鞍替えするかもしれないし、そもそも酒を飲むのをやめてしまうのでそこまではしない)
他方、ビール会社が4社だったらどうか。1缶250円にした瞬間に(よっぽど美味しくなければ)他社に切り替えられてしまう。この場合、ビール会社は値上げしない。
独占は、価格の高騰を招くので、消費者にとって不利になる。

◆国(中央銀行)はなぜ貨幣価値を安定させられないのか
上記は非常に教科書的な話だが、ハイエクは通貨に関しても同様に、独占は消費者(=貨幣を使う人)の利益を損なうという。まず国には、インフレを起こして景気を良くさせたいというインセンティブがある(少なくとも政治家からそのような圧力が加わる)。それから国債を中央銀行に引き受けさせて、増税せずに使えるお金を増やしたいと思う。加えて、真の価値なんて誰にも分からないという技術的な問題もある(市場には価格発見機能がある)。だから国は通貨の価値を維持できない。たとえ通貨であっても、民間の競争に任せた方がうまくいくというわけだ。

◆理論上は同意するがそうは言っても…
理論上は同意するものの、通貨発行自由化が実践可能かと問われればボクには自信がない。果たして完全な競争は達成できるのか。国の支配がGAFAの支配に代わるだけではないのか。また、通貨発行銀行が夜逃げしないとも限らない(国だって夜逃げするんだもん)。
とはいえ、ハイエクの主張は明快であり、新しい通貨を考える上の理論的な基礎として、読んでおきたい古典には変わりない。多くの国がインフレに苦しめられていた当時と時代背景は異なるが、時代を超えて読まれていく古典だと思う。

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2020年08月23日

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