あらすじ
もしも隣人が異星人だったら? もしも並行世界を行き来できたら? もしも私の好きなあの子が、未知のウイルスに侵されてしまったら……? 同性愛、フェミニズム、差別と情報統制――マイノリティからのまなざしを受け止めつつ、人々の挫けぬ心を繊細に描く、「いま」と未来の物語。切なさと温かさ、不可思議と宇宙への憧れを詰め込んだ、韓国SF短編集全15編。
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SFの枠を超えた美しい短編集
宇宙人や未来技術をテーマにしたSFでありながら、新潮クレストで出ていても違和感がないような、美しく静謐な短編集。(逆にハヤカワではなさそう)
SFの説明は極限までミニマルにそぎ落とされ、SF要素に相対した(多くは複雑な過去を持つ)主人公たちの気持ちを推し量らせる形でそのリアリティを醸している。
表題作の「となりのヨンヒさん」はやはり秀逸
凡百の「ハートフルな」異星人交流物とは全然違う、新しい形の絆。最後にヨンヒさんが主人公にかけた「言葉」は、彼女(彼?)の故郷の衛星の美しい火山のように、私の心にも煌きを残していきました
Posted by ブクログ
うーんなるほど。作者がジェームズ・ティプトリー・ジュニアに影響を受けたこと、よくわかる。
SFだが、情緒に訴えるところも、生きとし生けるものへの深い愛情を感じさせるのも良い。
パラレルワールドものでジェームズ・ティプトリー・ジュニアが出てくる「アリスとのティータイム」、人に紛れて暮らす異星人を養子にした女性と異星人の友情を描く「養子縁組」、隣に暮らす異星人との交流を描く「となりのヨンヒさん」が特に良かった。「ヨンヒさん」は、最高。人種差別の暗喩ではあるだろうけど、それだけではない。人間からは「ガマガエル」と蔑まれる容姿の異星人の、故郷を思う心情と、人間との束の間の友情は本当に切ない。異星人が「イ・ヨンヒ」という、韓国では古くさいと思われるような名前を名乗っているのもおかしいが、本当の名前は名乗れないというところは考えさせられる。
「養子縁組」も異星人との友情が描かれるが、どちらかと言うと異星人の子どもの特徴を含めて愛する親の姿が心に残る。「跳躍」はケン・リュウみたいだなと思った。
第二部のカドゥケウスシリーズはもっとたくさん書いて連作長編にしてカドゥケウス社の支配の始まりから終わりまで書いたら『火星年代記』みたいになったんじゃないかと思う。
LGBTや障がい者の社会参加なども興味深いが、南北問題や、(南にもかつてはあり、北には今もある)情報統制など朝鮮半島特有の問題を扱った作品は特に印象に残る。
作者は地方からソウル大学に合格し、翻訳者、弁護士としても活躍中とあるから、とても頭のいい人なのだろうが、作品は才気ばしった感じというよりは、共感させるもので、そこも凄いなあと思った。
他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
どこかの新聞で紹介されてたんだと思うが、タイトルだけメモして、どんな風に書いてあったかは忘れてしまった。唯一「韓国のSF小説」であるということだけ。
とは言え、慣れるまではちょっと戸惑い、なかなか進まなかった。一つ言えるのは、私がこれまで読んできた日本のSF小説とは大分趣が違ったということだ。まぁ、言うほど日本のものも読んでないけど。
ほぼ短編集と言って良い。独特の世界観があった。最後の数篇は同じ世界線の別の話だが、これも交わることはなく。訳者があとがきに書いておられるように、様々な社会的背景などが内包されているらしい。例えば朝鮮半島における問題であるとかも。ただそれを知らずとも読める。どれにも少し寂しいものも感じた気がする。表題の「となりのヨンヒさん」は今、タイトルを書きながら『となりのトトロ』を思い出してしまった。違うけど、似てないこともないような…。