あらすじ
女性は数学が苦手、男性はケア職に向いていない、白人は差別に鈍感、年寄は記憶力が悪い……
「できない」と言われると、人は本当にできなくなってしまう。
本人も無自覚のうちに社会の刷り込みを内面化し、パフォーマンスが下がってしまう現象「ステレオタイプ脅威」。
社会心理学者が、そのメカニズムと対処法を解明する。
【ステレオタイプ脅威とは】
周囲からステレオタイプに基づく目で見られることを怖れ、その怖れに気をとられるうちに、実際にパフォーマンスが低下し、怖れていた通りのステレオタイプをむしろ確証してしまうという現象。
●直接差別的な扱いを受けたり、偏見の目を向けられたりしていなくても、社会にステレオタイプが存在するだけで、人は影響を受けてしまう。
●努力をすればするほど、その影響は大きくなる。
●自力で抜け出すのは難しいが、ちょっとした声がけや環境設定で無効化することができる。
(日本語版序文より一部抜粋)
「ステレオタイプ脅威」自体は、対人関係の問題を研究する学問である社会心理学の世界では有名なモデルである。しかし、実社会ではまだよく認識されていないように感じる。
その理由の一つは、ステレオタイプが、「差別」と「偏見」と混同されやすいことにあるだろう。ステレオタイプは、あるカテゴリーの人にどういった「イメージ」があるかという認識面(認知という)に焦点をあてた概念で、社会心理学のなかでも「社会的認知」と呼ばれる研究領域で扱われる。これに対して偏見は、ネガティブな他者へのイメージに対する拒否的、嫌悪的、敵意的感情であり、この感情に基づいた行動が差別である。簡単に言えば、ステレオタイプは認知、偏見は感情、差別は行動ということになる。
たとえば、社会全体にある「女性はリーダーシップ力が欠ける」というイメージはステレオタイプ。このイメージをもとに女性のリーダーや上司に不満を感じやすくなるのが偏見。差別は「だから登用しない」といったように、個々人の能力の査定に基づくのでなく、女性だからというステレオタイプで実質的な被害を他者に与えてしまうことである。
さて、多くの研究や社会での施策では、実際に人々がいかに偏見を持つか、差別的な行動をとるかということを扱う。近年は、自分が自覚していなくても偏見を表明してしまう、無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)という概念も注目されている。現実にまだまだこうした無意識のゆがみがあることで、その対象とされる人々は窮屈に感じる。たとえば、男性社員には決して言わないのに、女性社員にだけには「早く帰らないと子どもが大丈夫?」と言うのも、「子どもは女性が育てるもの」という無意識のバイアスのあらわれと言えるだろう。逆に、女性の方が多い保育や看護の職場では、男性が無意識のバイアスにさらされていることもある。
しかし、この書籍のテーマは「どんな偏見の目を向けられるのか」「実際にどう差別されているか」ではない。周りからの偏見や差別がなかったとしても、「本人が周りからどう思われるかを怖れる」だけで、ステレオタイプ脅威の影響は出てしまうのである。
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Posted by ブクログ
他者からどのように見られているか?を意識させられることで、それが事実かどうかは関係なく、パフォーマンスに影響してしまうという現象があるのだという。困ったことに、実力があるはずの人ほど悪影響が出やすいとも。
そんなに人が皆、一律にプレッシャーに負けるものなのかとも思うのだが、これは心理実験の結果なので、プレッシャーに負ける人の方が多い傾向にあるということなのだろう。
プレッシャーからの脱し方として示されているのが、ひとつにはクリティカルマスを越えること。クリティカルマスは、当事者が感じる多寡なので、何割を超えたら良いと一概に言えないのがミソだ。
もうひとつはナラティブ。ステレオタイプを超えるストーリーを自分の中に持つことで、プレッシャーを跳ね除けることができるらしい。
こうしてみるとステレオタイプを超えるには、ロールモデルの存在は一挙両得で理にかなっているようだ。
Posted by ブクログ
「ステレオタイプ脅威」という概念を知れたのが収穫。
いままでの人生の中でこれが原因でパフォーマンスが悪くなったように思えるような出来事がたくさんあることに気づけたし、逆に人に対してステレオタイプ脅威を引き起こすような言動や行動を無意識にしていた出来事にも気づけた。
ステレオタイプ脅威を自覚できるだけでパフォーマンスは全然違ってくると思うし、脅威を引き起こすサインを自分が出していないかを意識することができるようになると思う。
Posted by ブクログ
データが豊富で示唆に富んでおり、ちょうどよいくらいに、分かりにくい。
これが自分自身の体験を考え直す機会を与えている。
以下、要点抜粋。
・ステレオタイプが効くのは、上位者にも顕著。ステレオタイプを覆さなくては、という無用のプレッシャーでパフォーマンスが下がる
・ステレオタイプを覆そうという努力は、成績下位者にはプラスに働くこともあるが、限定的。
・直前にステレオタイプを否定的するだけで、効果は無くなる(数学のテスト)。反対に、ステレオタイプを起こすアイデンティティを喚起するだけでも悪影響が出る。CM・クイズなど
・脅威にさらされる、自分に悪影響を与えるアイデンティティが現れると、それでアタマが満たされる。プラスや中立のものは意識されない
・クリティカルポイントがあり、特定の人数以上となると、キレイに思い込みは心配にならなくなる
・自分が本当にどのアイデンティティを重視しているか、思い出させる。かつ、その安全な環境が信頼できると、重視していないアイデンティティのステレオタイプはなくなる
・ステレオタイプに相対することは学習なんだ、という信頼で、接触のキッカケは増える
・運動テストでも「運動神経」と「スポーツインテリジェンス」で、全く正反対の効果
Posted by ブクログ
ステレオタイプ脅威=ステレオタイプを追認することを恐れ本来の実力を出せなくなること、が本書のテーマ。
数学のテストを受ける女子学生、
知能テストを受ける黒人、
スポーツテストを受ける白人など
「元々そういうのが苦手な人たち」というわけではなく
心理的なプレッシャーが実際の生理学的な影響を与え、パフォーマンスを下げることにつながっている。難しい証明だがいろいろな角度から研究を進め、対応策も見出し始めている。これまでステレオタイプ脅威のせいで埋もれてきた才能を考えると慚愧に堪えない。
日本発売は2020年だが、米国で発売したのは2010年というのも驚き。
Posted by ブクログ
この手の本を2冊購入した。
アンコンシャスバイアス、無意識の認識。
思い込みが強い人とどう付き合うか?
2冊の著者は、社会心理学の研究者で、2人とも黒人。
彼らは生まれた時から不躾な視線を向けられ、自分の中でどう折り合いをつけているのか。
Posted by ブクログ
黒人である筆者が自ら体験してきた差別をきっかけに、ステレオタイプの脅威を人種や性別、病気の有無などさまざまなカテゴリを通して心理学者として丁寧に研究している。
「(女性にのみ)早く帰って子供の面倒をみなくて大丈夫?」といった配慮の言葉も時として差別を助長することもある、というエピソードが心に残った。
Posted by ブクログ
ステレオタイプによる付随条件によって人の能力が制限されることを科学的研究を論拠に解説。また、この対応としてカウンセリング的介入ではなく環境の変更によっても対応可能など現実的側面からの検討も興味深い。
Posted by ブクログ
ステレオタイプが、無意識下にまで
いかに影響しているか解き明かす本。
黒人は知的ではない、女性は理数系が弱いなどの
ステレオタイプが、余計なプレッシャーとなり
実力を発揮できないようにさせる。
環境によって脅威を取り除くなど、
対策編もとりあげている。
タイトルは原著の
「口笛でビバルディ」のほうが、
中味に合っている気がした
Posted by ブクログ
自分自身のアイデンティティとは?
ステレオタイプ(先入観、思い込み、固定観念、偏見など)が、人の心理やパフォーマンスにどのような影響を与えるかを社会心理学によって検証した一冊。
たとえば、才能が無いのだから、人の何倍も努力しなければいけないという考え方。ともすれば「やればできるはず」の根拠の無い根性論にも行き着いてしまう。本書ではこれもステレオタイプのひとつで、"過剰な努力"と表現している。
「自分はXXXだから」と、ひとりで結論づけて自身の可能性にブレーキを踏んだり、うまく行かない理由をステレオタイプと都合良く結びつけて、チャレンジすることを諦めていないだろうか。自分自身にそう問いかけずにはいられなかった。
また、たびたび登場するアイデンティティという単語が強く心に残った。自分とは何者だろうか?存在が、所属
を生み、ステレオタイプへと繋がっていく。
良書だと思うが、気になった点も2点挙げさせていただく。
1. 著者自身が黒人で、人種差別がアメリカで根深い社会問題であることは理解できるが、テーマであるステレオタイプへの考察が、人種問題からのアプローチに少々偏り気味なことは少し残念だった。
2. 帯で謳っている「男性はケア職に向いていない」「年寄は記憶力が悪い」は、本書では検証されていない。またカバーが白人の若い男女なのは、恐らくマーケティングの要素もあるのだろうが、ミスリードされて手にする読者もいるはず。
#StayHome
Posted by ブクログ
ステレオタイプ脅威=人が所属する学校や職場等の集団の中で悪いステレオタイプを意識しすぎてしまい、実際にパフォーマンスが低下してしまう事を数々の実験で検証をしていく内容です。
この本を読んで、自分の職場にも似たようことがあるなーと感じました。会社によるかもしれませんが、様々な場所から人が集まる社会集団=会社だと思いますので、どうしても偏見や先入観などの悪いステレオタイプが発生することもあります。
特に今は多様性が謳われている時代です。何でもかんでも理解することは難しいと思いますが、まずは受け入れること、そして人に対する見方や考え方を分け隔てることなくフラットにしていくことが大事なんだなと感じました。
Posted by ブクログ
バイアス関連の並行して読んでてそのうちの1冊。
タイトル通りにフォーカスされていて読みやすかった。出来ないと言われると出来なくなってしまう。
刷り込みや思い込みって結構パワー強い。そこから足掻いて自己啓発本読み漁る層の本質って、出来ないって自分で無意識のバイアスもかけてるんだな。
なんでも出来ます!やれます!も危ない偏りだし、バランス感覚を考えるには良い本だった!
Posted by ブクログ
人種に対する偏見と差別。この本はアメリカ在住の、主に白人及び黒人学生が被験者となり、ある一定の条件下でそれら学生が個々の能力が人種、性別等の違いが関係なく発揮出来るか等の実験がされ、その結果が書かれております。数学や陸上競技、バスケットボール、音楽について、人が持つステレオタイプとそれに苦しむ各人種の人々。一方、黒人差別を是正する為に白人及び黄色人種に対する理不尽である意味差別的な措置。トランプ大統領が誕生した社会的背景についても書かれておりますので、気になる方は是非読んでみて下さい。一方、黄色人種(アジア人)についての記載は殆どありませんので、別の本を探して読んだ方が良いと思います。
Posted by ブクログ
人の内面にあるステレオタイプ脅威なるものが、無意識のうちに自分にプレッシャーをかけることによってパフォーマンスに影響を与えているという事実を、多数の実験を通して実証的に検討していく内容だった。
内容としては非常に興味深く、自分のこれまでの経験を通しても納得のいくものだった。偏見とは違う形でステレオタイプとして扱うことで、より本質的な考察が出来ているように思えた。
主として伝えたいことは理解しやすいが、多くの実験が絡まり合った構成になっており、すこし頭を整理しながら読んでいく必要があった。忙しい人は、序文と1~3章、11章を読むだけでおおよその筋はつかめると思う。
Posted by ブクログ
人をある種のカテゴリーで見る「固定観念」のことを「ステレオタイプ」というのですね。
例えば次のようなもので、発言する者にとって都合がいい「偏見」要素を含むものが根強く生き残っているように思います。
黒人はさほど知的ではない。
白人は運動神経がにぶい。
女性は理数系に弱い。
女性の方が保育士や看護師に向いている。
理系の人は空気が読めない。
女性はリーダーシップ力が欠ける。
子どもは女性が育てるもの。
男子は運動能力が高いはずだ。
太った人は自制心に欠ける。
慢性疾患者は生活がだらしない。
高齢者は記憶力が悪い。
これらの「ステレオタイプ」は当てはまった時に声を大きくして言われます。
当てはまらない時は何も言われないので、正しいような感覚が埋め込まれてしまいます。
実際にそう言われることで、そのような傾向に振れるということが確かめられているようです。
こうした「ステレオタイプ」の脅威は強力でしぶといため、我々の人生にひつこくつきまとっているのは実感できます。
近年は多様性とか個性という理解を深めようという機運が高まっていますが、社会的に刷り込まれた意識を変えるのは簡単ではありません。
日本では特に男女が必要以上に区別されやすい風潮はなかなか解決されないと思っています。
女子アナウンサー、女医、女子大生、女社長、肉食女子のような○○女子、歴女のような〇女、など。
「女のくせに」という偏見が(無意識に)あってこその表現だと感じます。
本書は、著者が黒人であるが故に白人とは差別された多くの経験をしてきたことが基になって書かれているようです。
ほぼ全編アメリカにおける黒人や人種に関する差別の問題と、それを解決する方法について語られています。
原書の copyright は 2010年なので、アメリカで初めて黒人の大統領となったオバマになって1年後に出版された本です。
著者は黒人差別の「ステレオタイプ」解消に追い風が吹いてきたと感じていたにちがいありません。
しかし、それから7年後に、はっきりと「偏見」を口にするトランプが支持されました。
こんなアメリカ社会をどのように見ているのか気になるところです。