あらすじ
人類が宇宙へ広がってから6000年。辺境の巨大ガス惑星では、都市型宇宙船に住む周回者(サークス)たちが、大気を泳ぐ昏魚(ベッシュ)を捕えて暮らしていた。男女の夫婦者が漁をすると定められた社会で振られてばかりだった漁師のテラは、謎の家出少女ダイオードと出逢い、異例の女性ペアで強力な礎柱船(ピラーボート)に乗り組む。体格も性格も正反対のふたりは、誰も予想しなかった漁獲をあげることに――。日本SF大賞『天冥の標』作者が贈る、新たな宇宙の物語!
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Posted by ブクログ
こんなに面白い小説を読んだのはいつぶりだろう。
読みながら、読み終わってから、ずっと考えていた。
小説を読む人がうっすら目をそらしてることがある。
それは「本当に面白いと思っているのか?」ってこと。自分はミステリとホラーを読むけれど、
心のどこかにある「これはいつもの展開だな」「見た記憶あるな」。心が動くのは新規性がある時だけ。
グルメがゲテモノにたどり着く感覚も、本読みという観点では多少わかる気がする。
じゃあ、なんでTCRはこんなに面白いんだと、俺は切れそうだった。
よくあるガール・ミーツ・ガールの展開にSFを加えただけ。それなのに、こんなに面白い。
小さい頃に何度も読みふけった冒険小説と同じ感覚を、歳を重ねて沢山の本を読んで来た今の自分が味わえることに感動すら覚えている。
「本を読んで心が震えた」なんてやっすい言葉を、文字通り使いたくなるほどの面白さだった。おそらく小説でこのレベルに感動したのは「星を継ぐもの」ぐらいしかない。
まず地の文も会話も、テラとダイオードがいる世界に即した書かれ方をしていることに驚く。
小説の会話はある意味記号と同じで「こういう台詞を言った」という情報でしかない。
でもTCRでは「んっ」とか「んお」とか「あは」とか、彼女たちから出た声をそのまま書き起こしているように感じる。読み手と登場人物に垣根がない。
地の文は基本、第三者風テラ視点で描かれていて、その説明の仕方や比喩表現から彼女の枠にとらわれない発想力が伝わってくる。気がつけば読み手はテラの考え方や性格が手に取るようにわかる。身体にコンプレックスがあり、他人を気遣う優しさがあっても、本性の自由な気質が抑えられない。そして失敗しては自省する。それが初登場のテラだ。そこへテラを上回る規格外のダイオードが現れて、彼女の心は救われながらも、次第にダイオードを振り回していく。この関係性がまさに「ツインスター・サイクロン」だと思う。
テラとダイオードの会話から伝わってくる。気遣いはしても遠慮はしないというスタンス。初期のテラからは考えられない、まさに「ウマが合う」状態。お互いに「そういう関係」を望みながらも叶わないと思っていたからこその、とても近いのに最後の最後で壁があるような、ある意味究極のバディにも見える。それがもどかしくもあるし、だからこその良いとも言える。
「あなたの船を飛ばしてもいいですか」
「いいですよ好きなだけモフらせてやります嗅がせてやりますから、こっちに来てもいいって言え!」
「むしろおっきくて柔らかそうなのって……」
クールな反面むっつりなダイオード。ぽやぽやしたお姉さんなのに、ちゃんと大人としての知識も、邪な視線にも敏感なテラ。作中にもある「私が何にも知らないと思って寄せてきましたよね」に全てが詰まっている。アピールに気づいていながらも、気づかないフリをしていたのはテラで、アピールを明確にしなかったのは、星の外に一緒に行ってくれるか、拒否されたらどうしようという恐怖で動けなかったダイオード。その二人が、もう死ぬかも知れないという最後の最後で本音をさらけ出す。
「来てくださいな、ごほうびあげます」
これに全てが詰まっている。この下りを読んだ時の衝撃はとんでもなかった。
二人と一緒に旅してきたAMC粘土の俺が成仏しそうになった。
そして全てが終わって帰る時の会話では、もうテラはダイオードのものになると覚悟を決めた強さが宿っている。個人的には「小さな火竜みたいに強い抱擁だった」って表現が、ダイオードがムガーっ!って抱きついてる様を表現していてすごく好き。
FBBの深部が実は生物で、エダが落ちた時に拾われて魚の知識を与えたことで、ベッシュという形で少しづつ脱出を測っていたという壮大なスケールも良かった。
そうだ。一つだけ。
深部から脱出する時の「外部ログは4038気圧を計測していた」という一文。
そしてエダの「全てを等価で変換できる粘土が世界を作ったらそれは夢か?」という問い。
さらにダイオードの「二人手も繋げずに、バラバラに底に落ちた」という言葉。
自分はこれを読んで、二人はあの時一度死んで、エダによってAMC粘土で全く同じ存在として作られたのでは?……って思ったんだけど、皆はどう思う?
最後に。
この作品は確かに女女のクソデカ感情が交錯する百合SFなのは間違いない。
しかし軽い文体の根底にあるのは、テラとダイオードの中にある「自分らしく生きたい」という欲求に従った結果、女女として鍵がハマるように巡り合った二人の物語だと思っています。
ここ十年でも間違いなくトップに入る小説でした。
おいおいおい。これが後3冊もあるの……。嬉しくておかしくなりそう。
Posted by ブクログ
ある星にたどり着いた宇宙船の人々はその星に資源があることを期待していたが、あいにく着いた星はガス惑星で資源を得られそうになかった。しかし、大気中を泳ぐ魚が資源化できることが分かり、漁を発達させ、得られた資源をもとに繁栄していく。結果的に主人公らの時代では封建的な氏族社会になっていたが、テラとダイの二人は異例の女性同士のペアで漁に挑み、色々な慣習を打ち破ろうとする。
スピード感のある漁の様子とテラとダイの絡みが魅力。ガス惑星に沈んでいる生き物が自身から魚を作っており、人類にそれを大気圏外まで運んでもらうことで脱出を図っている、という話も個人的には好みだった。
オーディブルで聴いたが、耳慣れない単語が多かった印象で、なかなか理解に苦戦した。用語などを別に調べて分かるようにはなったが、文章で読んだ方が分かりやすかったかもしれないと思った。