【感想・ネタバレ】慶應義塾大学大学院SDM伝説の講義のレビュー

あらすじ

経済、ビジネス、科学技術、政治、コミュニティ……。現代社会の複雑な諸問題を解決するためには、部分に特化した専門知識だけでは不十分で、分野を横断した全体統合型の学問=SDM学(システムデザイン・マネジメント学)とその実践が注目を集めている。こうした時代の要請に応えるため、2008年に設立されたのが慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)だ。社会のニーズを考慮しつつ、多様な分野についてシステムの観点から研究に取り組み、問題解決に挑んでいる。

その慶應SDMで、2011年から2017年までの7年間、学生の間で絶大な人気を博し、今なお「伝説の講義」と呼ばれている名講義を紙上で再現したのが本書だ。ベースとなったのは、吉田篤生元特別招聘教授による「経営・財務戦略論」。混沌とした現代社会にあって、「我々はいかに生き、どのように仕事をし、企業のリーダーや経営者たちは、どのような方向に舵を切り、企業を牽引するのがよいか?」。凄腕税理士として経営の最前線で得た豊富な経験と物理学や哲学を始めとする幅広い知識をSDMのフレームワークで再整理し、問題の核心に鋭く迫り、未来の指針へと昇華させている。

「経営財務の講義だと思っていたが、それだけでなく人生哲学を教えてもらった」と言うのは、本講義を受講したある修了生の感想。企業の本質とそこで活躍するためのヒントが散りばめられた本書は、企業経営者はもちろんのこと、起業希望者やビジネスパーソン、これから社会に出る学生など、幅広い読者にとって“新たな発見”を見出すことができる「伝説の講義録」となっている。

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Posted by ブクログ

情報を探し出す最も良い方法は、情報を見つけにいくことではなく、情報を発信し続けることである。

営業が顧客の困りごとを見つけるのが最も効率的なんだけど、なかなかこの発想になれないんだよなぁ。

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2023年12月29日

Posted by ブクログ

SDMとは、一言で言うと「システムズエンジニアリング」と「デザイン思考」を融合した学問です。科学技術領域も、社会領域も、人間領域も、「全体統合されたシステム」という視座でとらえ、解決を図っていくのが特徴です。
(引用)慶応義塾大学 大学院 SDM伝説の講義 企業経営と生命のシステムに学ぶデザインとマネジメント、著者:吉田篤生、発行:日経BP、発売:日経マーケティング、2020年、12

この本は、税理士であり、元慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)特別招聘教授の吉田篤生氏によって著された。
まず、個人的に私が面白いと感じたのは、曼荼羅を由来とする問題解決のツールである「マンダラチャート」の紹介だ。マンダラチャートは、縦3マス、横3マスを組み合わせたチャート。中心のマスにあるキーワードを据え、その周囲に関係するキーワードを配置し、その周囲に配置したキーワードを中心にしたマスを作り、またそれに関係するキーワードを周囲に配置するということで深堀りしていく手法(同書、20)だ。このマンダラチャートを見て、私は、あの大谷翔平を思い出した。大谷翔平も高校1年生のときにマンダラチャートを用いた目標を立てたという。本書には、吉田氏が作成した「国家マンダラ」なるものが掲載されており、よく出来ていると感動した。マンダラチャートは作成してみると分かるが、全体を俯瞰して見ることができ、細部を虫の目で見ることが可能となる。また、中心に据えたキーワードと取り巻くキーワードを確認することにより、MECE(漏れなく・ダブりなく)の観点からも有効であると感じた。

本書には、ゲストスピーカーをお呼びして、講義さながらの雰囲気を味わうことができる。東京で日本酒を製造している株式会社豊島屋本店の吉村俊之社長からは「不易流行」に基づく老舗のビジネスモデルを紹介していただいている。また、西島株式会社の西村豊社長からは、定年制を廃止するなど従業員にも優しい経営を実践する方法を紹介する。この二人のお話は、近江商人の三方良しを実践するなど、まさに冒頭記した科学技術領域も、社会領域も、人間領域も、「全体統合されたシステム」という視座で捉えた経営であると感じた。その二人の話を伺い、私は、稲盛和夫氏の言葉を思い出した。「自分を犠牲にしても他の人を助けよう」とする利他の心を判断基準にし、周りの人たちのことを考え、思いやりに満ちた事業活動を進めていく。まさに、京セラを一代で築き、JALを再建させた偉大な経営者である稲盛氏もSDMの考えを実践しているのだと感じた。

そのほか、本書では、経営危機に陥った企業との闘いも紹介している。先代の社長から事業承継し、大幅な債務超過を相続した若き社長の奮闘だ。税理士でもある著者の吉田氏が若き社長とタッグを組み、借入金返済を迫る金融機関に挑みながら返済していく姿は、従業員や会社を守るという必死さに感動を覚えた。確か、世界で最も進んでいる電子政府国家と言われるエストニアでは、税理士がいなくなった国と言われる。しかし、実際は、エストニアでも税理士や会計士は存在するという。税理士である吉田氏のようなSDMを実践して課題解決を図る会計業務コンサルは、AIが進化してもなくなることはないのだと感じた。それは、SDMが人間に主軸を置き、金融機関と折衝することなどは、科学技術の進展のみで解決できない領域を含んでいるからだと思った。

本書を読み、一番心に残ったのは、複式簿記の原型を作ったルカ・パチョーリの言葉だ。パチョーリは、帳簿のバランス合計に「神の賛美と栄光のために」と記すことを勧めたという(同書、181)。
普段、私達は、目の前の仕事に追われ、周りが見えないことがある。課題に直面しても、「なぜ起こったのだろう」と、そのことばかり考えてしまっていないだろうか。物事は、宇宙や自然の摂理に則り、繰り返す歴史の流れの中で、科学技術、社会に貢献しながら周りの人たちを幸せにしていく。その解決方法が最も最適解であり、地域や事業を継続していく秘訣であると感じた。そのため、私は、その根幹となる学問がSDMであると思った。
吉田氏によれば、現在、500年に一度の大転換期が訪れ、我が国は、世界が調和し協調するという方向性に貢献できると確信していると言われる。いま、私は一人ひとりがSDMの実践を求められていると思った。

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2020年07月24日

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