【感想・ネタバレ】しんがり 山一證券最後の12人のレビュー

あらすじ

負け戦のときに、最後列で敵を迎え撃つ者たちを「しんがり」と言います。戦場に最後まで残って味方の退却を助けるのです。
四大証券の一角を占める山一證券が自主廃業を発表したのは、1997年11月のことでした。店頭には「カネを、株券を返せ」と顧客が殺到し、社員たちは雪崩を打って再就職へと走り始めます。
その中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の社員がいました。彼らの一部は給与も出ないまま、「しんがり」を買って出て、無一文に近い状態になっています。この中心にいたのは、会社幹部に裏切られながら業務の監査をしていた人間たちで、証券会社では「カネを稼がない、場末の連中」と陰口を叩かれていた人々でした。・・・
山一證券の破綻を、記者会見で号泣した社長の姿とともに記憶している方も多いことでしょう。「社員は悪くありませんから!」という絶叫でした。
社長までが泣く、その大混乱にあって、「しんがり」の彼らはなぜ筋を通そうとしたのでしょうか。逆襲なのでしょうか、意地でしょうか、優しさなのでしょうか。
山一が消えたあとも、彼らは不器用な人生を送っています。しかし、決して不幸ではないと言います。「会社の破綻なんて人生の通過点に過ぎないよ」「潰れたって、何とかなるんだ」と。
一生懸命生きていれば、きっと誰かが見ていてくれる。――そんな彼らのメッセージは、どんな会社が潰れても不思議のない、リスク多き時代を生きる人々の励ましとなるのではないでしょうか。

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Posted by ブクログ

『しんがり』
清武英利

清武英利さんの『しんがり 山一證券 最後の12人』は、実話に基づいたノンフィクション作品で、1997年に自主廃業した山一證券の“最後の砦”となった社員たちの姿を描いている。

1997年、老舗証券会社・山一證券が突然の自主廃業を発表。
社長の号泣会見は世間に衝撃を与え、「社員は悪くありません!」という言葉が記憶に残る出来事だった。

- 社員の多くが再就職に奔走する中、業務監理本部(ギョウカン)という“場末”と呼ばれる部署にいた12人の社員たちは、会社に残り続けた。
- 彼らは無給で、顧客資産の清算業務や、帳簿外債務(約2600億円)の社内調査に取り組む。
- 「とばし」と呼ばれる不正会計処理や、総会屋への利益供与など、会社の闇を暴くために奔走する。
- 彼らの行動は、誇りと責任感に満ちていて、沈みゆく会社の“しんがり”として最後まで筋を通した。

この作品は、ただの企業崩壊の記録ではなく、働くことの意味や、誇り、仲間との絆を深く問いかけてくる。

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2025年10月12日

Posted by ブクログ

『ーーたぶん、会社という組織には馬鹿な人間も必要なのだ。いまさら調査しても、会社は生き返るわけではない。訴えられそうなその時に、一文の得にもならない事実解明と公表を土日返上、無制限残業で続けるなど、賢い人間から見れば、馬鹿の見本だろう。しかし、そうした馬鹿がいなければ、会社の最期は締まらないのだ。(p.321)』

全JTCで働くサラリーマンに読んでほしい作品。

たとえるなら、「救いのない半沢直樹」といったところだろうか。

経営陣の不正によってある日突然、経営破綻した山一證券。
その事実を日経新聞で知った社員も多かったという。
主人公である嘉本さんもそのひとり。

これは、トップ経営陣の不正を暴く物語である。
しかしながら、つぶれることはもう決まっているのである。
その不正を暴いたところで山一證券が生き返ることはもうない。
これが「救いのない半沢直樹」と感じた点である。

それでもなお、真相を突き止めるために奔走する“しんがり”たち。
彼らを突き動かすのは責任感、使命感である。
真相に近づくにつれ、怒りややるせやさを感じることも増える。
それでも立ち止まらずに立ち向かう姿勢にわたしはシビれた。


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以下、本書の内容引用(ネタバレ注意)

気に入ったフレーズ

p.315
会社という組織をどうしようもない怪物に喩える人は多い。しかし、会社を怪物にしてしまうのは、トップであると同時に、そのトップに抵抗しない役員たちなのである。

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2025年09月17日

Posted by ブクログ

ノンフィクションとは思えない読み味の良さと人間ドラマである。決して「ざまぁ系」のような逆転劇ではなく、ただそこには人の意地と良心があり、我々は不器用な彼らを語り継ぐことが最大の賞賛となるのだろう。

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2025年08月17日

Posted by ブクログ

ハンナ・アーレントは「エルサレムのアイヒマン」でホロコーストの中心人物アイヒマンを見るからに極悪非道な悪人ではなく平凡な官僚だと評し悪の凡庸さを主張した。

山一証券を破綻に追い込んだ人たちも同じ構図なのではないかと思う。確かに出世欲や金銭欲が人よりあったのかもしれないが、最初は些細なことで始まり、それを周りは見て見ぬふりをし、いつのまにか歯止めが利かなくなる。誰が悪いのかよく分からず悪の権化みたいなものはおらず、ただただ倫理観が欠落していただけではないかと思う。倫理観すら独自にあった可能性もある。恐ろしいのは空気のような実体のなさで、エルサレムのアイヒマンとの類似に気づかされる。これは人間の集団心理としての特徴で人間の闇なのではとも思わされる。

一方で救いもある。それは主人公のシンガリの人たちだ。彼らの使命感や正義感、仲間を思いやる心は人間の光だと思う。彼らの巨額の簿外損失の実態を解明していく物語は涙なしでは読めない。こういう社会人人生でありたいと思う。

きっと使命感や正義感、仲間を思いやる心は光だけでなく闇側の駆動要員にもなっている。左遷された尊敬する先輩を復権させるという使命感や会社を存続させなければと悪事に手を染める正義感。道を分けたのは何なんだろう?答えはまだ見つからないけど自分を客観的に律さなければと痛切に感じる。

いい本を読んだ。
清武さんの筆のうまさも秀逸でプロローグの最後の2段落で物語に引き込まれてしまった。

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2025年08月06日

Ryu

購入済み

なんとなく知っているが詳しい内容はよく分かっていなかった山一証券破綻について理由・経緯が分かる上に、こんな熱い志持ったサラリーマンたちがいたんだと目頭が熱くなる内容。
自分が同じ立場だったら、しんがりとして残れたか…無理だろう。次の職や将来、家族などの不安で真実追求や清算処理なんてする余裕は絶対にない。でも、それをした人たちが実際にいた。その志、信念には感服するばかりで、読み終わったあと、色々と考えさせられた。すべてのサラリーマンに読んで欲しい一冊。

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2024年08月15日

Posted by ブクログ

山一証券破綻時、姫路で勤務していたが、勤務先のビルの一階がとてつもなく立派なショウルームのようなフロアーに、なんと山一がメリルリンチに! 富裕層しか相手にしません感満載、長続きしないと思っていたがその通り…

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2024年07月13日

Posted by ブクログ

コンプライアンスを生々しく考えさせられる本。会社がおかしな意思決定になるのは、無責任で決められないトップ、ものを申せない経営陣、哲学が強く暴走する事業部長、恩義を感じて黙認する社員など、いろいろな人間味が混ざっている。
社内調査という柔らかさがあるからこそ、外部監査とは異なり見えてくる事実があるのは興味深い。登場人物のひとりのように、聖書や仏教から人生訓を持つのも良いかもしれない。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

あの社長の涙の会見は覚えている。
専門用語や、部署と役職名が多出するため少し読みづらい。
しんがりと言うからには敗戦したのであろうが、山一證券は何と戦って敗戦したのか?
戦うべき兵隊である社員には、戦うべき敵が隠されていて戦えていない。不戦敗だ!
一部の上層部による籠城戦。敵は彼らの義理、見栄、保身。敗戦要因はバブル崩壊、総会屋などなど。

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2025年07月22日

Posted by ブクログ

おもしろかったが、証券業界の仕組みがむずい。
12人の中に「パソコンが得意」って人がいるのが時代を感じるw

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2025年05月06日

Posted by ブクログ

世間を揺るがせた事実が基になっているだけあり読みごたえがあった。粉飾の場合は殆どがなるべくしてなった事象であり当事者に同情の余地はないが、会社の最期を見届け締め括るしんがり達には男気のようなものを感じる。もし自分の会社がこのようになった時に、終身雇用のサラリーマンの運命と割り切るには自分の心が追いつかないと思う。

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2023年12月10日

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経済小説としても読みごたえがあった。その後、粉飾決算で世間を騒がせた多数の企業と同様で、組織がだめになる時って、ある意味共通点があると思う。

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2023年01月26日

Posted by ブクログ

20年以上前の山一証券自主廃業を締め括ったギョウカンを描いた渾身の作品。登場人物にも、描いた作者にも、心から敬意を評したい。まさに渾身という言葉がピッタリだと思った。本当に色んな意味で、この時代に読んでも変わらない何か突き動かすものを感じた。

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2021年10月11日

Posted by ブクログ

昔、本社勤務の頃の自分を思い出して、気持ち悪くなった。会社は欲にまみれた組織で、利に聡い者が役員になり、いざという時に持ち前の逃げ足の速さを発揮する。
矜持を持ったしんがりメンバーは今の時代、存在するのだろうか。強い愛社精神など持ち合わないのが一般的でクールな生き方となった今、沈む船から一目散に逃げ出すことは、役員から平社員まで恥ずかしいことではないとされるだろう。
それゆえに、もはやこの作品も歴史小説と言えるかもしれない。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

山一証券破綻期に会社の破綻理由や清算業務に向き合った社員の話。損か得かではなく、善悪で生きる様子に心を惹かれた。

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2025年11月11日

Posted by ブクログ

山一證券の破綻はバブル崩壊の象徴としてよく覚えている。コンプライアンスというのは日々の業務の中で軽視されがちだが、何故必要なのかよく分かる。
そして経営者が何をしてはいけないのかもよく分からせてくれる。

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2025年05月29日

Posted by ブクログ

山一證券の破綻を描いただけのようにしか自分は思えません。
範囲が広すぎて焦点が絞れて無いのでは。
題材は面白いのにね。

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2021年12月10日

Posted by ブクログ

コンプライアンス、コーポレートガバナンスが叫ばれる現在、この当時の先延ばし、隠ぺい、保身、バブルに踊ったというのもあるだろうが、見た目さえ整えれば、何やってもよい、結果が出るなら危ない橋だってわたる、会社のためという名の無責任、本当に過去の悪癖悪習なのか。
「主な登場人物」を見て、どんな劇的な活躍があるのかと期待して読んでいくと、あまりにもあっさり描かれ/描かれていなかったりで、ドラマ性は薄いのだけど、それは現実の世界はそれほど演出過多にできていない、ということなのかもしれない。
それにしても、山一證券は役員多かったんだな。

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2019年12月11日

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