あらすじ
実存主義とは、「事物の存在」とは異なる「人間存在」の特有なありかたをあくまでも守りぬこうとする思想的文学的な動きをいう。実存主義を育てた第二次大戦直後の思想的状況と、実存思想の歴史的系譜を語り、ハイデガーやサルトルの思想を紹介しつつ、実存、自由、状況、他者、不安、賭、価値、神など実存主義の諸問題を論ずる。
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最も分かりやすい入門書
本書は、恐らくですが、実存主義の入門書としては、日本で一番分かり易い。
哲学に関して全くの素人の私でも、内容が理解できた。
本書は、西洋哲学全般の歴史、哲学がどういった経緯で発展して来たのかを語りつつ、徐々に実存哲学の時代にまで読者を導いてくれる構成になっています。
又、実存哲学を理解する際に初心者がぶち当たるであろう特別な用語についての解説も丁寧かつ平易であり、
例えばハイデッガーの「現存在」の「現」の部分が持つ特別な意味や、サルトルの「対自存在、即時存在」の概念の解説が丁寧。
ただ、サルトルが述べている「実存は本質に先立つ」と言う観念は、本書の解説を読んでも今一つよく解らなかった。
本質より前に実存が先にあると言われても、だからどうなんだ?、と思ってしまう。
これは本書のせいと言うより、実存哲学(正確にはサルトルの唱える実存哲学)が内包する根本的な問題なのかも知れない。
Posted by ブクログ
読んだ理由は『ミュウツーの逆襲』を観たからだったと思う。
実存主義についてなんとなくの枠組みは見えてきた。
思っていた通り、神谷美恵子の著作は実存主義の理解なしでは精読できない。
あとで読み返す。
Posted by ブクログ
本文164ページのごく短い書物でありながら、哲学解説書ではなく哲学書と呼びうる重厚さを備えた本格派の新書。
まず、1962年発行ということもあり文章が非常に格調高い。実存主義者らしいロマンチックでいて切実な言葉運びは、読み進めるには大変だがこれぞ思想、という趣を感じさせる。
また内容の面でも、著者の評価や考えが積極的に表明され、ある種の「実存主義史観」が形作られている。実存を限られたエリートの特権と捉えるハイデガーを著者は批判し、実存をあらゆる人間の主体的な在り方と広く捉えるサルトルを称揚する。このあたりは教科書的な記述と異なって楽しく読めた。
実存主義にはキリスト教的実存主義と無神論的実存主義の2分類があるというが、この両者の間に非常な隔たりがあることがわかった。
キルケゴール、ハイデガー、ヤスパースなど前者に属する哲学者の思想は、乱暴に言えば、人間が存在する理由を問われて「神が人間を作ったから」と答えるようなものだろう。非クリスチャンの私には共感しがたい感覚だし、飲み込んだところではいそうですか、で終わってしまう。内に閉じた思想という印象で、あまり魅力的には映らなかった。
一方の無神論的実存主義は、神すなわち根源的な究極の存在を否定する。むしろ人間は本来的に自由な存在であり、自分の選択に責任を持ちつつ積極的に「まだ見ぬ自分」への挑戦を続けるのが人生だと説く。こちらはむしろ、今日では手垢まみれのあまりに聴き慣れた言説になってしまっている。
思うに実存主義は目新しい大発見という類いのものではなく、ギリシアの時代から何度となく繰り返されて来た終わりのない「人間とは何か」という議論の、比較的新しい潮流ぐらいに思っておくのが丁度いいのだろう。
つまらなかったという訳ではないがあまりに穏当な結論で拍子抜けの気分。教養の道は険しい。
Posted by ブクログ
実存主義とはなんなのかということと実存主義者とされる思想家たちの思想を教えてくれる、ありがたい。人間は代替不能だ、死んだ人間を追って死ぬひとはあっても死んだ犬を追って死ぬひとはないだろうという記述には、著者の強い主張というよりは実存主義の人間中心主義から来るものであるにしても、かなりひいた。とはいえそういうものを批判した構造主義的な相対主義もなんだかなと思うし、実存主義のもつ切実さをどうにか取り入れて行けたらいいなと思う。
Posted by ブクログ
実存主義の思想についてわかりやすく解説している入門書です。著者は、サルトルの『存在と無』の訳者であり、本書でも主にサルトルの無神論的実存主義の立場に依拠して、実存主義思想の系譜を紹介しています。
本書ではまず、サルトルの『実存主義とは何か』にもとづいて、「実存」という概念の基本的な意味が説明されます。つづいて、無限と虚無のあいだに置かれた「中間者」として人間を規定したパスカル、ヘーゲル哲学から抜け落ちてしまう神の前に立つ個人のありかたを追い求めたキルケゴール、神の死の時代を生きる実存的人間の生を称揚したニーチェの思想がとりあげられ、実存主義の先駆者として位置づけられています。
次に、有神論的実存主義の諸思想家がとりあげられます。ここでは、ドストエフスキーの文学の影響のもとで独自の実存思想を構築したロシアの思想家のシェストフとベルジャーエフが解説されています。また、存在の歴史に思索をめぐらせるハイデガーや、現実の歴史的状況のなかでその限界を超える実存のすがたをえがこうとしたヤスパースの思想も紹介されています。
最後に、『存在と無』に依拠して、サルトルの無神論的実存主義の思想の解説がなされています。著者はサルトルの入門書として、勁草書房「思想学説全書」の一冊として『サルトル』を出版していますが、本章はさらにコンパクトなサルトル哲学の概説ということができるように思います。