あらすじ
どこにも、逃げられないよ──。
長老との結婚を拒絶する女は舌を抜かれてしまう、という掟のある村で、ある少女が結婚相手として選ばれる「雀」。
ある日突然、武装集団によって、泥に囲まれた島に拉致された女子高生たちを描いた「泥」。
アイドルを目指す「夢の奴隷」である少女。彼女の「神様」の意外な姿とは?(「神様男」)。
管理所に収容された人々は「山羊の群れ」と呼ばれ、理不尽で過酷な労働に従事し、時に動物より躊躇なく殺される。死と紙一重の鐘突き番にさせられた少年の運命は?(「山羊の目は空を青く映すか」)……など。
時代や場所にかかわらず、人間社会に現れる、さまざまな抑圧と奴隷状態。
それは「かつて」の「遠い場所」ではなく、「いま」「ここ」で起きている。
あなたもすでに、現代というディストピアの奴隷なのかもしれない――。
様々な囚われの姿を容赦なく描いた七つの物語。
桐野夏生の想像力と感応力が炸裂した異色短編集。
カバーイラストは、かわいさと残酷性を併せ持った作風で物議を醸すLA在住の画家、Luke ChuehのRough Waters。
解説・白井聡
※この電子書籍は2017年12月刊行の文春文庫を底本としています。
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Posted by ブクログ
まさに奴隷状態に置かれている人々をモチーフ(?)に書いた短編集。
設定はさまざま。ボコ・ハラムに誘拐された女子生徒たちと思われるものや、北朝鮮の人民を連想させるもの、何の情報も得られず、閉ざされたコミュニティでひたすら働くしかない炭鉱労働者、江戸時代に国外逃亡した男、など。
一つだけ現代の日本の女の子(の母)を題材にしたものがあって、「アイドルになりたい」という夢の”奴隷”となり、あらゆることを犠牲にしている、という設定なんだけど、かなりシリアスだった。AKBやら乃木坂なんちゃらやら、次々に現れては消えていくアイドルの、華々しい活躍の陰に、こういう”奴隷化”された人たちがいるんだな…と、ちょっと背筋が寒くなる。
私たちは平和な日本にいて、ニュースで中東のテロや、ボコ・ハラムの誘拐事件を聞いても、「死者何十人」とか、「数百人誘拐された」とか、本当は驚くべき数字だが、多すぎてもうピンと来なくなっている。でもその「数百人」の一人一人は、当たり前だがちゃんと尊厳を持った、大切な一人一人で、その当たり前のことに想像力を働かせて書かれている「泥」という一編は圧巻だった。社会的な問題提起だけが作家の仕事ではないと思うけど、問題提起というか、どんな遠くの国の出来事でも、ここまで想像力を働かせることができる、という意味でとても意義深いと思った。