【感想・ネタバレ】壁の男のレビュー

あらすじ

彼はなぜ絵を描き続けたのか?
〈最後の一撃〉が読者の心を撃ち抜く感動の傑作長編。

北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。
決して上手いとは言えないものの、その色彩の鮮やかさと力強さが訴えかけてくる。

そんな絵を描き続ける男、伊苅にノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが、寡黙な彼はほとんど何も語ろうとしない。
彼はなぜ絵を描き続けるのか――。

だが周辺を取材するうちに、絵に隠された真実と、孤独な男の半生が次第に明らかになっていく。

〈最後の一撃〉が読者の心を撃ち抜く感動の傑作長編。

解説・末國善己

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Posted by ブクログ

ネタバレ

【仕事の休憩時間には絶対に読むな】

凄まじい文圧
文字で殴りつけてくる
何の身構えも無しに読み進めて完全に打ちのめされた

たとえこの作品が映像化や舞台化されたとしても
原作超えは絶対に起きない
それほど構成力以上に純粋な文章力、
人の行動原理を描き切るのが抜群に上手い

本作は絶対に仕事の休憩時間など
そんな半端なスキマ時間に読んではいけない
文章に横っ面を殴り飛ばされて精神が不安定になる
なんなら午後からの業務に多大なる支障を来たす

幼い娘の壮絶な闘病生活の描写など
あまりの文圧で胸が掻きむしられる
妻となる大学時代の高嶺の花に猜疑の目を向けなければならない場面は重苦しくて仕方がない

壁に絵を描く
部屋中に描く
それでは飽き足らず所有地の壁に描く
乞われて近隣住民らの壁にも絵を描く
金銭の収受は頑なに断り
ただただ無償で下手くそな絵を描く

作中でこの男の行動原理が様々な角度から語られる

SNSで話題となり観光地化された町の立役者として
闘病生活の果てに息を引き取る幼い娘を持つ悲劇の父親として
大学時代の高嶺の花と運命の再開を果たし、そんな彼女が抱える影に踏み込む青年として

他にも、嫉妬と劣等感によって崩れかけた父母の板挟で、自身もまた父と同じ仄暗い火を胸に宿す学生時代
そして無二の親友夫婦との絆を深めていく社会人成りたての頃──

絵を描く男の実直さ

その下地となった、様々な出逢いの末にそれら全てから惜別を告げられる壮絶な半生

この構成力も凄まじい

しかしやはり、まだ全貌が見えてこない状態から綴られる一つ一つの行動原理の描写
この描写があまりにも的確なので
否が応でも男の心情、そこから自ずと振る舞ってしまう言動が読んでいる自分の中にそのまま乗っかってくる

あまりに重苦しく、一文一文の圧力に揺さぶられる良作
文章で真っ向から組み伏せられる心地良い敗北体験でした

0
2023年11月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

才能の有無で人の価値は決まらない。
絵の才能がある母が言うことはきっと正しい。
たどそれを真実として自分の中に持って生きられるほどまだ自分はこの考えに納得はできない。誰よりも才能が欲しいから。
ただ父の劣等感もよくわかる。
だからこの嫌悪感はきっと同族嫌悪なんだと思う。

笑里ちゃんのとこはただひたすらに辛かった。
生々しく、でも淡々と残酷に進んでいく時間。

伊刈を抱きしめてあげたい。

と思ってたら親父は弱さを一応認められる人だったし、謝れる人だった。でも本質はなかなか変わらない。

澤谷の子どもの名前は笑里。
なんかここらでわかった気がする。
だからえりなはえみちゃん、っていう若干距離のある呼び方してたし、家出てくなんてことをすぐに決められたのか。

絵を描いたのは、女の子の絵を描いたのはそう言うことだったのか。色んな人と関わってきた伊刈の人生だけど、その中でも重要な母、笑里、りえなのどれかかと思っていたけど、結局美里だったのか。
でも街に描いたのは違うのかな?
いずれにせよノンフィクションライターと同じで、
伊刈への興味がなくなることなく、かつ、これだけ人生を見せてもらってもわからないことは多いんだなと。人一人の人生を見せてもらった感覚。

0
2022年11月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

伊苅がどうして、小さな集落の家屋に稚拙で奇妙な絵を描き続けたのか、どうして金銭の見返りも求めないのか、どうしてその稚拙な絵が多くの人の胸を打つのか、言葉に表すとなんだか嘘っぽくなるけれど、その根っこにある大きな愛情と悲しみが胸を打った。

各章に渡ってこれまでの伊苅の歩みや選択、彼を取り巻く人々が時系列バラバラに描かれるのだけど、そのちょっとした違和感がどんどん後の章で明らかになり、深いヒューマンドラマとミステリが組み合わさったような読みごごちだった。

0
2021年10月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最後まで読まないとわからないが、最後まで読むと面白い。

現実でこういう人がいるのか!ってくらいの優しい人。
こういう人になれるのは、素晴らしいことだと思った。

0
2020年10月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

第4章まで読み終えた段階では、貫井氏の作品としては、やや物足りなさを感じていた。しかし、第5章を読み終え、伏線の回収の見事さにも感心したが、それ以上に、伊苅の生き方に強い感動を覚えた。一体、どれだけの人が伊苅のような生き方ができるだろうか。

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2020年09月30日

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