【感想・ネタバレ】世界地図を読み直す―協力と均衡の地政学―(新潮選書)のレビュー

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Posted by ブクログ 2022年09月30日

著者の北岡伸一さんは東京大学法学部教授、日本政府国連代表部次席代表や国際大学理事長、JICA理事長、政策研究大学院大学客員教授と歴任されており、日本の外交を最もよく知る人の一人である。
本書は北岡さんの実際に訪れた国での経験をベースに、日本の外交がどうあるべきか、大国とどのように付き合っていくべきな...続きを読むのかを記述している。地政学について造詣が深いわけではない私が読んでも理解しやすく、読みやすい本である。地政学ビギナーが初めに手に取る本として、とっつきやすくていいのではないか。
外交は二国間で語られることが多い。例えば、日米関係、日中関係、日露関係、日韓関係など。しかし本書では、外交がマルチになってきている今こそ、二国のみに注目するのではなく、その周辺国まで含めて理解することで、日本の国際的な立ち位置を見極めることが外交上重要と説く。

本書の構成は以下の通り
 序章 自由で開かれたインド太平洋構想――日本の生命線
 第1章 ロシアとその隣国たち――独立心と思慮深さを学ぶ
  ジョージア、アルメニア、ウクライナ、トルコ、フィンランド、バルト三国
 第2章 フロンティアとしてのアフリカ――中国の影と向き合う
  ウガンダ、アルジェリア、南スーダン、エジプト、ザンビア、マラウイ
 第3章 遠くて近い中南米――絆を強化するために
  ブラジル、コロンビア
 第4章 「海洋の自由」と南太平洋――親密な関係を維持できるか
  パプア・ニューギニア、フィジー、サモア
 第5章 揺れるアジア――独裁と民主主義の狭間で
  ミャンマー、ベトナム、東ティモール、タジキスタン
 終章 世界地図の中を生きる日本人

日本の脅威となるロシア、中国を中心に、彼らの影響力や脅威が世界でどのように効いているのかを書き出している。その上で、日本の立ち振る舞いがどうあるべか、を意見を述べている。
著者の見識は的確で、例えば「ロシアは安全保障に敏感な国、四方から包囲されているという被害意識が強い」という認識は、ロシア隣国の国民として必ず持っておかないといけないと思う。まさにそこを見誤ってしまったのがウクライナであった(西側諸国が煽ったのもあるが)。大国と隣り合う国の安全を保つためには、相手のことを正しく理解して、逆鱗に触れない立ち回りが求められる。

私としては、日本という資源を持たない、国土も狭い小国が生き延びていく生命線は、日本を支持してくれる国を増やすことだと思っている。日本という国を理解して友好的な関係を築いてくれる人材を世界中に作ることが、広義での安全保障につながる、という著者の意見は完全に賛同する。領土問題など、直接的な利害関係を持っている国との友好関係を作るのは絶妙な距離感が必要であるが、第三国と友好関係を作っておくことは、国際社会の中でのプレゼンスを高め、これが日本という国を守ることにつながると思う。
日本国内では海外にお金を使いすぎ、という批判が出ることもあるが、これは保険のようなものなので、予算の中で一定の支出を国外に使うことは必須と思う。これまでに日本が築いた日本の信用を落とさないような振る舞いを今後も政府には期待したい、国民も理解すべきかと思う。

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Posted by ブクログ 2020年06月21日

JICA理事長を務めた著者が、訪れた国々についてその歴史や政治的なバックグラウンドを説明しつつ、そこに日本がどう関わっているかを説明した本。エッセイ形式で読みやすい。
日本の国際関係を考える場合、中国やアメリカ等大国との関係ばかりに目が行きがちであるが、この本で取り上げられているような国々(アルメニ...続きを読むア、コロンビア、ウガンダ等)のことももっと意識されるべきであるし、日本が今後国際的な信用を向上させる上でも重要になる。
のだけれども、そういう意義などを置いておいても、世界の様々な国の歴史を知れるだけでも単純に面白い。

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Posted by ブクログ 2020年01月12日

この本で著者は、国際協力機構(JICA)の取り組みを通して"他国の国々と協力しあえる信頼関係"と"他国の理不尽な強制を退ける力の必要性"を伝えてくれます。旅行記ではありません。
また日本に馴染みのある近隣諸国をメインにするよりも、他の国々との関係性か...続きを読むら日本の国際的な立ち位置について述べていきます。本書で取り上げた国は、インド・ロシア・ジョージア・アルメニア・ウクライナ・トルコ・フィンランド・ウガンダ・アルジェリア・南スーダン・エジプト・ザンビア・マラウイ・ブラジル・コロンビア・パプアニューギニア・フィージー・サモア・ミャンマー・ベトナム・東ティーモール・タジキスタン。訪れた国の簡単な歴史と周辺国との関わりや日本国の関わり方・国際協力機構(JICA)の関わりを簡潔にまとめてくれています。また「中国の影響力の拡大に対抗して、ODAで相手を親日にしようなどと考えない方がよい。相手には相手の国益がある。援助が相手国が自主独立の国として発展してくれれば良いという考え方が必要。」とい記述はとても大事だと思います。
著者の北岡伸一氏は東京大学名誉教授。国際協力機(JICA)理事長や国連大使、国際大学学長等を歴任した方です。著者は、世界から見た日本の評価をよく伝えてくれています。日本がより評価される立ち位置を示してくれています。ただこの観点の発言は政治的な発言とも捉えられかもしれないため評価は様々だと思います。
特に印象に残ったのは、「日本は、難民を受け入れる事ができないが苦し紛れではあっても難民を受け入れている国への援助として、難民が自活できるように職業訓練を行っている。その取り組みが評価されている」と述べている。外国は目に見えやすい援助を好むが、バックアップの仕方もゆっくりであっても評価されるものだと思いました。
日本が世界の中で国民を守るためには、世界の国々から日本と一緒に協力していきたいと思ってもらえる国になる事が必要がある。日本だけが孤立しない事が必要だと思いました。

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Posted by ブクログ 2019年11月09日

日本政治外交史の研究者でもある著述が、JICA理事長や国連大使として見聞した、国際政治の一幕を解説。
馴染みのない国の意外な日本との繋がりなど、
興味深い。

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Posted by ブクログ 2022年02月26日

まず、アカデミックな地政学の本かと言えばそうではない。
端的に言って、知的な旅行記といった風情。
具体的には、日本の援助機関のトップとして各国に(やや表敬気味の)出張に行ったときの楽しい思い出話である。
著者の他の本のような骨太かつややライト寄りな論考を期待して手に取るとちょっと違うな、となるだろう...続きを読む

著者は、安倍政権の積極的平和主義構想の思想面でのリーダーのひとりでもあり、したがって日本が世界で評価されるにはこれこれだ、とか、あるいは援助を通じてこんなに評価されている、というエピソードが多い。それが悪いわけではなく、やはり誇らしいものはある。もっとも、こうした国際支援の現場のあの独特の「ノリ」を経験したことのある人なら、海外の日本人への賞賛が多分にリップサービスであることも知っているだろう。

総じて、例えばなぜロシアと西欧はウクライナを巡ってここまで進退極まるほど対立しているのか、といった地政学的視点を学ぶ本というよりは、将来国際支援や外交、商社のようなクロスボーダービジネスに憧れる若者向けのガイドブックとして読まれるべき本かと思う。

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Posted by ブクログ 2021年10月17日

平成30年間は日本停滞・衰退の時代
GDP世界シェアは18%('94)→6%('17)
なぜか? 世界史の視点で探求する
1.フィンランド大国の狭間で過酷な運命を受け入れ
'40年ソ連侵攻「冬戦争」 '41バルバロッサ作戦に追随
'43単独不講和承認...続きを読む対独  '44対ソ降伏 賠償対独参戦
マンネルハイム大統領
 余力を残して和平協定・譲歩
 余力をなくすと完全な屈服・亡国
2.戦前日本軍の教育 視野狭窄
 軍人に社会科学的なものの見方
 視野の広い世界観
 →世界のリーダー並みの人材を育てられなかった
 ⇒これは今日的課題である
  トップリーダーの貧困
*優れた見識の著者だが、本書は散漫の印象
 テーマが大きすぎてまとまりが弱い

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Posted by ブクログ 2019年12月29日

北岡伸一氏(1948年~)は、国連次席大使(2004~2006年)、国際大学学長などを歴任し、現在、独立行政法人国際協力機構(JICA) 理事長。東京大学名誉教授、法学博士。専門は日本政治外交史。
本書は、新潮社の有料会員制情報サイト「Foresight」に連載された「日本人のフロンティア」(201...続きを読む7~2019年)と、 防衛省・自衛隊関連のニュースを主とする新聞「朝雲」(朝雲新聞社)連載の「春花秋冬」(2014~2015年)をまとめたもので、大半は著者が過去数年間に訪れた国々について書かれたものである。
私は、藻谷浩介氏の『世界まちかど地政学』シリーズのような、見聞に基づく世界の国々の客観的な分析を予想して購入したのだが、著者の経歴、および現JICA理事長という立場に基づく本書は、世界の国々と日本との関係についての考察であり、日本が二国間関係においてそれらの国とどのように付き合っていくべきかという、部分的にはかなり政治的色彩の強い提言となっている。著者は、最初、書名を『政治学者の世界地図』としようとして、やめにした、と書いているが、そのままの方が内容的にしっくりくる。
取り上げられた国は、ジョージア、アルメニア、ウクライナ、トルコ、フィンランド、バルト三国、ロシア、ウガンダ、アルジェリア、南スーダン、エジプト、ザンビア、マラウイ、ブラジル、コロンビア、パプアニューギニア、フィジー、サモア、ミャンマー、ベトナム、東ティモール、タジキスタン、と、著者のようなミッションでなければなかなか訪問する機会のない国ばかりであり、そうした点では大変興味深い情報も少なくない。
著者は最後に、「日本の場合、非西洋から近代化してきた歴史と、西洋とは異なる途上国へのアプローチが、世界の信頼を集めていることを、本書の中から読み取っていただけると思う。明治以来、多くの日本の知識人や政治家が、日本は東西文明の架け橋になるべきだ、と主張してきた。・・・非西洋から発展した歴史を基礎に、民主主義的な国際協調体制を、それぞれの国の事情に応じて支援していくこと、これが日本の理念に他ならない。それを自覚し、言語化し、発信し、かつ戦略的に行動すること、これが今後の日本外交の大方針ではないだろうか。」と結んでいるが、著者のそのメッセージは十分に受け取ることができる一冊と思う。
(2019年12月了)

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