あらすじ
『ことり』につぐ7年ぶりの書き下ろし長編。小さなガラスの箱には亡くなった子どもの魂が、ひっそり生きて成長している。箱の番人、息子を亡くした従姉、歌声でしか会話できないバリトンさん、竪琴をつくる歯科医……「おくりびと」たちの喪失世界を静謐に愛おしく描く傑作。
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Posted by ブクログ
子を亡くす悲しみとは。結婚式と歌をもって解き放たれるのか。
悲しみを抱き、生き延びるのはどこまでも待ち、よい耳を持たなければならない。
最後のバリトンさんの歌の場面は圧巻だった。
小川洋子さんの長編の中でも本作は一番沈痛かも知れない。
ここの子どもたちはみな不慮の死なのか。集団で虐殺された影も感じる。
そこで言葉を残したバリトンさんの恋人の手紙はまるでアンネの日記のようだ。
コーネルの小箱も物語世界について、これ以上の喩えはないのではないか。
<メモ>
・なぜ産院は爆破され、元・産院となるのか。
・死を忘れたことの象徴が博物館の廃館。
・博物館ケースの再利用は、生の展示物化。
・なぜバリトンさんの言葉はすべて歌になってしまうのか。歌とは生の象徴だ。だから(死者が奏でる)”一人一人の音楽会”では歌っていけない。
Posted by ブクログ
連休初日、どこにも出かける用事もなく、また気分でもなく、ひとり部屋で小川洋子を読める幸せ。
静かに、どこまでも静かな気持ちになっていく。ひたすらに心地よい文章。
幼稚園ではないが、以前訪れた自由学園明日館を思い浮かべながら読んだ。
「安寧のための筆記室」とはなんと魅力的な言葉か。書きものをして心を休ませるための場所。どこかに本当にあったらいいのに。せめてその小説が本当にあったらいいのに。と思った。
美容師さん、虫歯屋さん、従姉妹、クリニーング屋さん、バリトンさん。誰もがとても愛しく魅力的。
擦り切れるほど観ているおおきなかぶのビデオテープ。「プログラム8番」と園長先生が映し出される場面で、ずっと思い出せずにいた子供達がお世話になった大好きな園長先生の顔が急に思い出されてビックリした。こんなことってあるのか。目鼻立ちがくっきりとして、声も溌剌として滑舌がよかった先生。なによりも笑顔が魅力的だった先生。
終始懐かしさを感じる物語の中で、本当の懐かしい笑顔に会えた。
雨にピッタリの物語だった。
Posted by ブクログ
廃墟となった郷土資料館のガラス箱は
今は幼稚園で亡くなった子どもたちの無言の声と成長を保存するための小箱となっている。
幼稚園で小箱の管理をする番人。
歌うことでしか話せないバリトンさんが持ってくる
入院中の恋人からの手紙を解読する作業。
丘で行われる、亡き人たちの物で作った耳飾りで自分1人だけで行う音楽会。
幼稚園の朽ち果てた遊具で時折遊ぶクリーニング屋さんの奥さん。
息子を亡くし、彼が歩いた場所しか歩けなくなり
死者の小説しか読まなくなった従姉。
生きる人と小箱に積み重なる死んだ子どもたちの成長の記録。
一人一人の胸にいつまでも成長し続ける子どもたちの記憶。
それを思う尊さと深い幸福と孤独。
きっと彼らは幸せなんだろうなと思う反面
滲み出てくる悲しみを感じるのはどうしてだろうなあ。
生きてる人も死んだ人も、世界が全てまとめて小箱なのではないだろうかという錯覚。
Posted by ブクログ
奇妙な世界観で、不気味さを感じながら読み進めていったが、ふと東北の震災の跡なのか?とイメージしてみたら全てが腑に落ちた。愛する人を失った者達が、何かに縋り、そこに居る人と手を取り合い、静かに生きている。そう、静かに幕を閉じる事を願っているようにも思えた。こちら九州での地震を経験しながらも、ここまでの境地には辿りつけない…東北の震災は、遭遇してしまった人達をまだ置き去りにしているんだなぁ…。小川さんの文章の美しさをそのまま纏った装丁にうっとり。
Posted by ブクログ
昔、幼稚園だった家には、棚にいくつものガラスの箱が。その箱の中には、死んだ子供が年を取るにつれて必要なものがその都度、おさめられている。また、一人一人の音楽会が開かれてる。遺髪を弦にした小さな竪琴の奏でるメロディ。小川洋子さんの世界が静かに、静かに広がっています。「小箱」、2019.10発行。時折、ほんとにそうだと納得の言葉が散りばめられています。字を書く音が心を安らかにする。2人で1冊の本を読むのは、手紙を1通やり取りするのと同じ。
Posted by ブクログ
子どもを失ったというのは希望や未来を失ったのと同義だ。人々がどれだけ穏やかに暮らしても、箱の中での成長を楽しみに見守っていたとしても、子どもの声がしない日々はもう朽ちていくだけのもののように思える。晴れやかな結婚式も、みんなが真剣にやればやるほど虚しく響く。
最後まで、何故子どもが1人もいないのか、何故子どもが産まれないのか、その理由は明かされない。箱の中に大事に置かれたそれらはきっと誰にも言えない悲しい物語を内包しながら、愛を受けて満たされているだろう。手放せないものを大事に持ち続け、自分なりに愛することを肯定されても、死が増殖していくだけの世界を残酷に感じる。ふとした瞬間にとてつもない寂しさが襲ってくる本だった。