【感想・ネタバレ】半日の放浪 高井有一自選短篇集のレビュー

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

 これが母の消える三日前の事であった。それから二日,常と同じ生活があり,三日目,母は在郷の百姓から僅かの米を購った。そしてそれを布の袋に入れ,私の方に掲げて見せて言った。
「このお米,どの位あるか判って」
「二升くらい」
「そうよ,二升。よく判ったわね」
 母の口から微笑が拡がり,暫く袋を弄んでいた...続きを読むが,やがてその儘の表情を変えずに言った。
「もう,死ぬわよ。いいわね」
 袋は母の手から離れて,畳に重い音を立てた。私の感覚は母と再び親しみ合えたと信じる中に眠って,母の裡にあるものを読めなかった。それにしてもこの時,母が何故柔い微笑を見せたか,私には判らない。
(「北の河」本文p42,43)

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