あらすじ
マイケル・ポーターやチャン・キム、クレイトン・クリステンセンらHBRを代表する教授陣による経営戦略論の決定版!新規事業の創出や既存ビジネスを進化させていくうえでの圧倒的な英知がつまった1冊であり、全てのビジネスリーダーにとって欠かすことのできない経営戦略の入門書。
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Posted by ブクログ
『HBR ストラテジー論文ベスト10 戦略の教科書』添付範囲まとめ
― 競争構造を読む、競争を超える、そして戦略を実行する ―
今回の添付範囲を一つの流れとして整理すると、本書が示している戦略論の骨格はかなり明快です。
①業界構造を正しく理解する → ②競争そのものを再定義する → ③企業ではなく「戦略的な打ち手」を見る → ④現場と経営を接続し、戦略を実行可能な原則に落とす
という一連の体系として読むことができます。
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1. ポーターの「5つの競争要因」――競争相手だけを見てはいけない
添付の「5つの競争要因」は、マイケル・ポーターのFive Forcesです。
業界の収益性を左右するのは、単純な「競合企業との競争」だけではありません。
競争要因問い
既存企業同士の競争同業他社との競争はどの程度激しいか
新規参入者の脅威新しい企業が参入しやすいか
代替品・代替サービスの脅威顧客が別の方法で同じ目的を達成できないか
買い手の交渉力顧客側が価格や条件をどこまで支配できるか
サプライヤーの交渉力供給者側にどれだけ価格決定力があるか
重要なのは、
「業界が生み出した価値を、誰がどれだけ持っていくのか」
という視点です。
たとえば市場そのものが成長していても、顧客の交渉力が強すぎたり、供給者が利益の大半を獲得したりすれば、自社には十分な利益が残りません。
したがってポーターの業界構造論は、単なる「競合分析」ではなく、
価値の創出量と、その価値の分配構造を分析するフレームワーク
と理解する方が本質に近いです。
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2. 競争要因を見る目的は「分析」ではなく戦略行動を決めること
添付では、5つの競争要因を検討すると、業界構造全体へ視点が広がることが強調されています。
業界構造が理解できれば、自社にとって何が有利なのかが見えてきます。
大きくは次の3つの戦略行動につながります。
① 現在の競争構造に適応する
現在のFive Forcesを前提として、自社が最も有利なポジションを取る。
つまり、
「この構造の中で、どこに立つべきか」
を考える戦略です。
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② 競争要因の変化を先読みする
競争構造は固定ではありません。
* 技術変化
* 規制
* 顧客行動
* 流通構造
* 新規参入
* 代替技術
などによってFive Forcesそのものが変化します。
したがって、
どの競争要因が、どちらの方向に変わろうとしているか
を予測し、その変化を先取りすることが戦略になります。
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③ 業界構造そのものを変える
さらに一歩進むと、自社がFive Forcesを受け入れるだけではなく、
自社に有利な業界構造をつくる
ことも可能になります。
つまり、
Positioning
↓
Anticipation
↓
Industry Shaping
という3段階で競争戦略を見ることができます。
ここまで来ると、戦略は「競争に勝つ方法」から、競争ルールを変える方法へ進みます。
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3. 「競争優位=競争相手を倒すこと」という誤解
添付の「逆説に満ちた競争優位」は非常に重要です。
戦略には軍事用語が数多く入っています。
* 本部
* 指揮官
* 前線
* 兵站
などです。
そのため無意識のうちに、
戦略=敵を倒すこと
と考えやすくなります。
しかし、レッド・オーシャン戦略は、この戦争の論理とはむしろ逆です。
戦争では領土が有限なので、
敵から領土を奪わなければ前進できません。
一方、ビジネスでは必ずしも市場は有限ではありません。
競争相手が存在していない、
新しい顧客、新しい用途、新しい価値、新しい市場空間
をつくることができます。
これがブルー・オーシャン戦略です。
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4. データが示す「既存市場の改善」と「新市場創造」の違い
添付では、1008社を対象にした調査が紹介されています。
新しい製品・サービスについて、
* 86%:既存製品ラインの拡大
* 14%:新市場・新産業の創出
でした。
売上への貢献では、
* 既存市場型:62%
* 新市場創造型:38%
ところが利益への貢献を見ると、
* 既存市場型:39%
* 新市場創造型:61%
となっています。
これは非常に示唆的です。
つまり、
企業活動の大部分は既存市場の改善に向けられている一方、利益の多くは少数の市場創造から生まれている
ということです。
したがって、競争戦略には、
「既存市場でどう勝つか」だけでなく、「そもそも競争しなくてもよい市場をどうつくるか」
という問いが必要になります。
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5. ブルー・オーシャンは「飛び地」ではなくコア事業から生まれやすい
ここも添付の重要なポイントです。
ブルー・オーシャンというと、
「自社とはまったく違う新規事業を始めること」
と誤解されがちです。
しかし、掲載されている事例を見るとそうではありません。
自動車産業の例
* フォードT型
* GMによる車種・所得階層別の商品構成
* 日本メーカーによる低燃費・高信頼性車
* クライスラーのミニバン
いずれも既存の自動車企業が、自らの事業基盤から新しい市場空間を生み出した例です。
つまりブルー・オーシャンは、
「コアを捨てる」のではなく、「コアの別の使い方を発見する」
ことで生まれる場合が多い。
これは新規事業開発において極めて重要な考え方です。
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6. 「企業」や「業界」を分析単位にしてはいけない
ブルー・オーシャン論のもう一つの重要な指摘が、
企業や業界を分析単位にしない
という考えです。
なぜなら、
* 永遠にエクセレントな企業は存在しない
* 永遠に魅力的な産業も存在しない
からです。
優れた企業でも失敗することがありますし、成熟産業の企業から大きな市場創造が起こることもあります。
したがって重要なのは、
「どの企業が優れているか」ではなく、「どの戦略的な打ち手が新たな価値空間を生み出したか」
を見ることです。
ブルー・オーシャン戦略では、この分析単位を戦略的ムーブ(Strategic Move)として捉えます。
これは事例研究の方法としても非常に重要です。
「成功企業を研究する」のではなく、
「その企業が成功した具体的な戦略行動を研究する」
べきだということです。
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7. 戦略は「良い戦略を作る」だけでは終わらない
後半の添付は、戦略実行へ話が移っています。
特に重要なのが、
競争環境に関する重要情報を、迅速に本社へ届ける
という点です。
戦略実行力の高い組織では、この特徴に当てはまるとの回答が77%。
一方、戦略実行力の低い組織では45%にとどまっています。
本社だけでは、
* 顧客の変化
* 競合の動き
* 市場の兆候
* 地域ごとの変化
を完全には把握できません。
最新の情報を最も早く持っているのは、多くの場合、
事業部・営業・地域組織などの現場
です。
したがって重要なのは、
現場 → 経営への情報循環を設計すること
になります。
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8. 「戦略原則」が組織の意思決定を接続する
添付ではStrategic Principleについても触れられています。
戦略原則は、単なるスローガンではありません。
少なくとも次の役割が求められています。
行動判断の基準になる
「この行動は戦略に沿っているか」を社員自身が判断できる。
短期利益と長期戦略を接続する
短期的には儲かっても、長期戦略を壊す意思決定があります。
そのトレードオフを判断する基準になります。
方向性を示しながら自由度を残す
細かい行動をすべて本社が指示するのではなく、
方向性は統一するが、方法は現場に任せる
ことができる。
したがって優れたStrategic Principleとは、
「統制」と「自律」を両立させる仕組み
とも言えます。
さらに、原則を経営だけで完成させるのではなく、案の段階で執行役員や社員に問いかけ、意見を集めることも重要だとされています。
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9. 添付範囲を一つの戦略プロセスとして整理すると
今回の内容は、一見すると、
* Five Forces
* 競争優位
* ブルー・オーシャン
* 戦略実行
という別々の論文ですが、実際にはきれいにつながります。
STEP 1|Structure
競争構造を理解する
Five Forcesによって、
「利益がどこで生まれ、誰に奪われるのか」
を把握する。
↓
STEP 2|Position
自社の有利な位置を決める
現在の構造の中で、どこに立つべきかを決める。
↓
STEP 3|Anticipate
構造変化を読む
競争要因がどう変化するかを先読みする。
↓
STEP 4|Create
新しい市場空間をつくる
既存競争に勝つだけでなく、ブルー・オーシャンを開拓する。
↓
STEP 5|Strategic Move
具体的な戦略行動に落とす
企業全体ではなく、「どんな打ち手を打ったか」を設計・評価する。
↓
STEP 6|Execution
現場と経営をつなぐ
現場情報を迅速に経営へ戻す。
↓
STEP 7|Principle
組織が自律的に判断できる原則をつくる
戦略を日々の意思決定へ変換する。
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10. 本範囲から得られる最も重要な結論
今回の添付範囲を一文に凝縮すると、
優れた戦略とは、競争相手を研究して倒すことではなく、利益を規定する構造を理解し、その構造の変化を先読みし、必要なら競争そのものを再定義し、その方向性を組織の日々の意思決定まで貫徹させることである。
となります。
特に重要なのは、ポーターの競争戦略とブルー・オーシャン戦略を対立する理論として扱わないことです。
Five Forcesは、
「現在どのような競争構造にいるのか」
を理解する力を与えます。
ブルー・オーシャンは、
「その構造そのものから離れる、あるいは作り替えることはできないか」
という問いを加えます。
さらにStrategic MoveとStrategic Principleを組み合わせれば、
Structure → Opportunity → Strategic Move → Execution → Learning
という、実践的な戦略経営のサイクルとして扱うことができます。
この点が、今回の添付範囲を単なる「競争戦略論」ではなく、市場構造認識から市場創造、組織実行までをつなぐ戦略の教科書として読む際の中心的なポイントだと考えられます。
Posted by ブクログ
HBS 戦略の教科書
HBSの戦略論の名著をまとめたもの。
やはり第1章のマイケル・ポーターの論文が際立って良い。もちろん、第2章~第10章も極めて良いのだが、第1章の「戦略の本質」はまさしく本質であり、他の論文とは抽象度が1段上がっているように感じる。
ポーターは、戦略について、「≠業務改善」と最初に定義する。多くの仕事は、最初はスケールメリットなど、業務改善フェーズから始まる。単純な話で、原価や管理コストを下げれば利益が生まれるから、まずはどのように効率化・省力化し、利益を増大させるかという点が企業の命題となる。しかし、業務改善には限界がある。ある一定レベルまで行くと、大幅な技術革新でもない限り、これ以上効率化できない領域が発生する。そのフェーズでは必ず、トレードオフの関係が生じる。そこで初めて、戦略が登場するのである。
トレードオフの関係性がそこに生じたとき、「何をやらないか」を決めることが戦略そのものである。よく例に挙げられるサウスウェスト航空は、機内サービスを「やらない」ことで、安価なサービスや効率的な運営を行っている。一見、アメリカでも有数の客数が見込める空港でも、一定の効率性が実現できないところでは、参入しない/参入しても撤退するのである。
そして、一度、「何をやらないか」を決めた場合、その後は規律と継続性が重要になる。誰でも長時間労働さえすれば、「全部やる」ことはできるのである。「全部やる」ことは、実は簡単である。単一の評価軸で評価してしまえば、他への説明が簡単だし、外野からの見た目もよい。しかし、それを押し切ってまで、時には外野から批判されてもそれを続ける規律と継続性が重要になってくる。多くの企業は、自社の戦略を策定しても、継続できずに終わる。
しかし、いざ継続すると、独自性の高いポジショニングや、模倣困難性が高いシステムが完成していく。他社は過去の経緯から「〇〇をやらない」という選択肢が取れない場合(そのことで、多くの既存顧客を失うことがわかっていたとしても)、参入できないポジショニングを構築することができる。「やる/やらない」の無数のトレードオフの関係に一つ一つ決断を下すことで、他社が一見すれば真似できないような複雑なシステム(一見、異常)が立ち上がる。そしてシステム総体として、強固な競争優位を獲得したとき、既存顧客のスイッチングコストは最大化し、そもそも狙っていない見込み客をシャットアウトできる。さらに、この構図はデータの蓄積により拡大再生産される。(ダブルハーベストでもこのような記述がある)。現代のビジネスでは、AIによるビッグデータ分析がセオリーとなっているため、先行者利益の最大のものにデータの蓄積というものがある。一度、独自のポジショニングを取り、他社が取ることができないデータが得られた場合、そのデータを活用した新たな施策により、競争優位はより強固になる。こうした無数の「やる/やらない」の集積が企業の個性となり、ブランディングにもなる。自社に有利なブランディングができれば、声がかかる前に面倒な顧客をシャットアウトすることも可能であろう。
さらに、こうした独自のポジショニングの確立は、インナーブランディングにも良い影響がある。何をやらないかという決断は1社員にとっても明確であり、社員にとっての実行しやすさが見込める。社員個人としても、無数の競合企業がある中で、なぜその企業で働いているのかという部分が明確化しやすい。戦略が明確化されている企業では、従業員エンゲージメントも高いだろう。
楠木健氏は、このような「やる/やらない」の数段階の道筋を「骨太のストーリー」と呼び、その戦略によりどのようなゴールにたどり着けるのかを語れるストーリーの重要性を発信しているが、これもまた、ポーターの言う戦略の本質というものであろう。