あらすじ
「なにせクソ・オブ・ザ・クソだからな。まずジャンルが悪い。今どきファンタジー小説なんてあり得ないだろ」2006年、春。小学六年の嶋田チカは、昨年トラックにはねられて死んだ兄・タカシの分まで夕飯を用意する母のフミエにうんざりしていた。たいていのことは我慢できたチカだが、最近始まった母の趣味には心底困っている。フミエはPCをたどたどしく操作し、タカシの遺したプロットを元に小説を書いていた。タカシが異世界に転生し、現世での知識を武器に魔王に立ち向かうファンタジー小説だ。執筆をやめさせたいチカは、兄をはねた元運転手の片山に相談する。しかし片山はフミエの小説に魅了され、チカにある提案をする――。どことなく空虚な時代、しかし、熱い時代。混沌極めるネットの海に、愛が、罪が、想いが寄り集まって、“異世界”が産声を上げる。
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Posted by ブクログ
この本とこの本の一年後の話の『異世界誕生2007』の2冊。
著書曰く『2006』は作者の話とのこと。作者はニート息子の母フミエ。息子を引き殺した男を憎むあまり気がおかしくなっているんだけど、真相が明らかになるとなんというかやりきれなくなる。さだまさしの『償い』を彷彿とさせます。
『2007』は読者の話とのこと。読者はフミエの娘チエの友達の妹のハルナ。この友達の母親も『2006』に出ているんだけど活発なオバサンからの落差がキツイ。ハルナの病気の進行の描写も辛い。
乱立するなろう系異世界転生作品への皮肉、ネット依存者への痛烈な指弾、家族不和、スクールカーストなど色んなキツイ要素が詰まっている。
それがフミエ、チエそれぞれの創った話の最後の一行を見て、歯をくいしばって涙をこらえた。
人を救う創作がある、と思った作品。
Posted by ブクログ
面白かった!伊藤ヒロ先生は夢幻廻廊とク・リトル・リトルしか知らず、ライトノベルは初めて。他の作品もまた目を通さねば……!本当に良かった!!
初めの方はチカちゃん「絶対母許さない」って感じ、普通の小説だったらここまで性格キツくないだろう……みたいな感じで伊藤ヒロ先生らしい雰囲気な気がする。でも最後の方が割とご都合主義でまとまっちゃって本当に悲しい。短いからかなあ……。
ゼロ年代の説明ちょっとくどい。2006年ってこんな時代だったかなあとか頑張って思い出そうと思ったけど小学校にも入ってないくらいだから何も覚えてない……。調べてたらこの頃にはもう異世界ものがあったんだって感動する。
ヨシエの書いてる文章あまりに稚拙だけど、この文章が本当に流行る時代だったとしたら感動する。時代すごい。
「HAWK・C」の意味は何ですか……?ずっと考えてるけど馬鹿だからわかんない!!とっても気になる……!!
面白い着想
我が子を亡くした母が息子の遺品である設定やプロットを元に、異世界系ラノベに挑戦という新しい切り口。残された母の狂気やら妹の毒舌やらネットの悪意やらが入り混じって、なかなか迫力有り。難を言えばストーリー終盤はやや説教臭い。
純粋な感動だけなら2007の方が泣けますが、2006は兄の死亡事故に関して意外な事実が仕込んであり、驚きの展開が待っています。
Posted by ブクログ
>皆さんは、ご存じでしょうか?実は、昨今流行の異世界転生ものライトノベルのうち多くは、わが子を交通事故などで失った母親の手で書かれているということを……。
出オチかと思ったらめちゃくちゃ読み込ませる本だった。
トラックにはねられて死んだニートの息子が、異世界に転生したと信じた母が綴る、異世界の冒険。その母フミエと、妹チカと、トラックの運転手片山のお話。
転生トラックなどという言葉が出て来る前の西暦2006年が舞台。
幕間に何度か出て来るあまりにも拙いフミエの小説は、劇中で評されるような「生命を持ったキャラクター」描写がされているようにはとても思えないので、そこだけもうちょっとなんとかなったらなあというのが残念ポイント。
聡い小学生チカが賢いムーブするのはいいんだけど、大人の事情を背負わされすぎていて不憫で仕方がない。
ハッピーエンド風に終わるのはいいけど、大人たちは許されないと強く思う。
続刊2007のあとがきによれば、この話は「理想の著者」を書いたものだそうです。
つまり、一冊の本にその人のすべてが込められているような、そんな本の著者。なるほど。確かにそれは理想の著者だ。
他に挙げられているテーマの「家族のあり方」はどうかな…。兄を亡くし父が逃げた過程で壊れた母を支える小学生の妹、それが家族のあり方を伝えるための家族像かと言われると、どうなの。嫌だ。
いや面白かったよ。一気に読んじゃったよ。面白かったからこそ、気になる点が気になってしまっただけです。
「魔法少女禁止法」も面白かったし、逆サイドを行こうとする作家性好き。
>母です。お元気ですか。
>あなたが異世界に行ってから、もうずいぶん経ちました。
>そちらは住みよい世界ですか?
>今も冒険の旅の途中ですか?
>それとも、もう魔王を倒して、楽しくみんなで暮らしていますか?やはりハーレムを作っているのでしょうか?